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第120話 :リラ


ただいま。



そればかりだった。



夕焼けぞらにぽつんと浮かぶ白い粒が次第に大きくなっていくのが見えた時、私は呼吸をするのも忘れてしまうほどその光に似た白く清いドラゴンを目に焼き付けた。

舞い降りるその姿はあまりにも堂々としていて、ドラゴンの王ではないかとさえ思った。



そして地に足をつけた竜の青い眼が私をじっとのぞきこみ、そっと逸らされると一つ声が響いた。

青い目の先に先からこぼれるその声は、私が会いたくて会いたくてならない彼女、コアの声だった。



「ただいま。」



生きていた。



その声を聞いた瞬間、涙がこぼれた。

そしてその笑顔がのぞき、私へ向かってなげられると同時私の足はそこへと駆けだしていた。



「コア…っ、コアっ、コア!!!」



会いたくて、抱きしめたくて、こんなところまでやって来た。

彼女が今戦っている場所がどんな場所か知りたくて、彼女の立っている場所から見えるものを見たくて、そして何より、生きているという確信を得たくて私はここへ来た。


そっと手をのばせば消えてしまうのではないかと思った。

何度も夢に見たこの瞬間、いつも手を伸ばして触れたと思ったとたんコアはさっと空気の中に溶けて消える。あの夢をまた見ているのではないかと手を引っこめて、足を止める。


「リラ。」


ふわり、と真っ白のマントが風に揺れた。

小さな腕にぎゅうと抱きしめられる。

懐かしい匂いと優しい温度に私はゆっくりと抱きしめ返した。

どうかこれが夢でありませんように。

嘘でありませんように。


「ただいま、リラ。」


そう願って開いた眼の中にコアの笑顔がばっと映り込んだ。


「・・・っ・・おかえり。」


きつくもう一度抱きしめなおす。

もう二度と離したくない。そう思いながら小さな少女を腕の中に閉じ込めようとしているみたいに腕がコアを締め付ける。

それでもコアはそれよりもきつく私を抱きしめた。

小さな腕いっぱいに私を抱きしめて、息を吐いた。


「ただいま。」


そっと夕暮れの涼しい風がその声をどこかへ乗せて流れた。


知っているわ、ずっと一緒にいたのだから。

諦めるように受け入れるように、私は心の中でつぶやいた。


コアはまたすぐに私の腕を飛び立つ。

おとなしくなんてしてくれない。

目指す場所へと真っ直ぐに何度も何度も羽ばたいて。

それがコアなのだ。だから私はいつだって思う。


「貴女の帰る場所でいられてよかった。」


きっとすぐにいってらっしゃいを言わなくちゃならないのでしょう?

けれど必ずまた、ただいまと言って帰ってきてくれるのでしょう?


なら、私はずっとあなたを待っているわ。


「リラ。ただいまを言わせてくれてありがとう。」


貴女がたくさんの想いと恐怖を抱いて出かけるのだから、私は不安と戦いながら待ちつづける。


「私、もっと強くなるわ。コアをいつだって待っていられるくらい強く。」


貴女が伝説のドラゴンマスターを目指すなら、その伝説のマスターズを待っていられるだけの強き心と力を持てるドラゴンマスターになってみせる。

セルスが目指すのは大切な人を守れる者。

ロンが目指すのは誰にも負けぬ者。

私が目指すのは待ち続けられる者。


それぞれの道が今開け、また新たな旅立ちの風が吹く。



「私、アルファルベータに行くよ。」



コアのまっすぐな声がその風に乗り空へ飛び立った。

迷いのない、力強い眼が私に向けられる。

待っていてくれる?そう問うているようにもみえた。


「いってらっしゃい、コア。待っているわ。」


ずっと。

今までそうであったように、これからも。

貴女が空を飛び続ける限り、私は貴女の大切な場所を守り続けて待っているから。

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