第11話 :リラ
「コールできるようになったの!」
鐘が遠くで響き、平和を示すような空が一面に広がるお昼時。
嬉しそうにコアはそういった。
「そう、よかったわね。」
彼女が嬉しければ、不思議と私も嬉しくなって思わず笑っている。
バサッ”
「何?これ?」
手元から滑り落ちて、地面に散らばった私の教科書をコアが拾い集めながら
その開いていた高度の呪文ページを見ていた。
「教科書よ?クラスAの・・・」
無言でその文字を指で追いながら、まるで解読しているような仕草を見せるコアに
私は不思議に思って聞いた。
「どうかした?」
まだ黙ってその指を動かしているコアに、教科書を片手に収めて覗き込んだ。
「これ、この前やったよっ!」
ようやくその可愛い顔を上げて、また嬉しそうな顔を見せながら彼女は言った。
そのページはAでも上位メンバーが習う魔法。
Bから昇格したばかりの私にはできない上級魔法。
「・・・え?それ・・・できたの?」
「うん。ちょっと複雑だったけど。」
ちょっとじゃない。セルスがそういうのなら分かる。
唯、その台詞を放ったのは紛れもなく目の前の少女。
「他に・・・・これとかは?」
おそる、おそるという風に隣のページの複雑な魔法を指さして聞いてみる。
心のどこかで私は、何か震える感情があるのを感じていた。
「あ、うん。こっちのが簡単だった!」
才能。
そんなもの、ドラゴンマスターにはない。
セルスは私なんかより努力して、あの場所に立っている。
才能なんか、ドラゴンマスターには関係ないはずなのに。
「すごいわ。」
そんな言葉でしか伝えられないことがもどかしい。
例えるのなら、朝の来ないバルメステ国に朝日が訪れるような。
あの国でうんと伸びをして、一日を始めるような・・・そんな感じ。
これが、白竜に選ばれた真のマスター。
「??」
「セルスにも、勝るかもしれない!世界一のマスターになれるかも!」
いつもはそんなに張り出す事もない声を張り出して、喉が震える。
誰も敵いはしない、最高のドラゴンマスターになれるかもしれない。
「・・・あ、そいえば!!私、セルスと約束してたんだ!!・・・ごめん、もう行くね!」
スッと私の目から逃れるようにコアが笑いながらそういった。
その顔は笑っているというよりも、何かを誤魔化しているだけのような。
「え、あ、うん。」
答えるだけの声を出すと、彼女はそのまま私の傍から駆けて行った。
その風のように走っていく彼女の背中に、私は何か切なさを感じた。
ねぇ、もしかして。貴女が目指すのは、そんなに小さなものじゃないの?
そんな問いかけを自分の心の中で、背中に語りかける。
彼女が目指すのは、もっと誰もが願いもしないようなことなのかも知れない。
漠然とそう思った私の上を、空はさっきと同じように穏やかに広がっているだけだった。