第116話 :コア
形ばかりの城と傷だらけの王、それからただ荒れた土地だけが残されて戦いは終わった。
私は静かに星空を見上げながら一人考えていた。
私は王を王座へと導くことができた。なら、次に私がすべきことはなんだろう。
どうか人々を幸せにしてください。そう星に願ったことだってある。
私が叶えなければならないことが願いとなった今、もう星は願いを叶えてくれない。
どちらが先だったのだろう。
星が願いを叶えなくなったから、私は星にはできないことをするために立ち上がったのか。
私が自分で叶えなければならないことを願ったから、星は叶えられなくなったのか。
「コア。」
低く、セルスの声が私に届く。
「まだ起きてたの?」
セルスはそっとデッキに出ると私に近づく。
彼は私の問いに少し笑うだけで何も言わなかった。
静かな闇がそこを包み込んでいるのに、ひどく穏やかで本当に全てが終わったのだ不思議な気持ちになる。
全ては終わり、また全てが始まる。
「明日からまた忙しくなる。」
そう。夜が明けると同時に隣国に支援を求めにいくという。
そして今までアカンサスに支援していた国にその見返りとして土地を譲るという。
ヴァンはそれを止めたがトレスは声をしっかり響かせるように言った。
“今この国を救うのに必要なのは、乾いた土だとは思えない。”
その言葉にもうだれも逆らうことなどできなかった。私もそれが一番正しい選択だと思った。
「そうだね。」
トレスは王になった。
彼女に流れる血がそうさせ、彼女を愛した二人はそれを恐れた。
「力になりたい。」
こんなにも痩せた土地の王になるためにここまで来たトレスの力になりたい。
私ができることはきっと地方との連絡をとることや、配給をすることくらいだろう。
私はまた無力なままに、大切な人を救えない。
「ここへ来ることも、王を王座へ導くことも、全てお前が決めてきた。」
「うん。」
「今何ができるのかは俺にも分からない。コアは戻る気か、国に。」
こんな状態のアカンサスを置いて、戻る場所なんてない。
「せめてトレスがちゃんと寝具で寝るまでは、この国を支えたい。」
王が床に座り柱に体をもたげて眠るこの国をおいて、どこへ行けというのだろう。
ヴァンもシーザもそれを傍らで嘆いている。
星と月が青く染める地上を見ていると、ちゃんとそこに未来が待っている喜びが生まれる。
けれどその未来を築いていく者がどれほど大変か、そう思うと悲しみが生まれる。
「この国専属のマスターになってほしいと言われたら、コアはどうする?」
無力な私を信じて期待してくれるなら、その手を振り払うことなどできない。
けれど私が目指す場所はそこじゃない。
「揺るがない夢があるんだよ、セルス。私は伝説のマスターになりたいの。」
「あぁ。」
「ルキアは私と契約するのに何千年という時を捨てた。なら私はその分までルキアに幸せを与えていたい。
この国の専属マスターになるってことは、この国に生きる時全てを捧げるってことになる。
分かってるんだ。助けたいと口では言うけれど、生きる時間全てを捧げてまで助ける自信はないってこと。
私、とても中途半端だってこと。」
そしてそれは何より誰の力にもなれないということ。
「でも、私はわがままだから。できる限り助けたい。それがただの偽善でもなんでも。
ルキアとの約束だけは破れないし、私には目指す場所があるから、偽善にしかならないのかもしれない。
だけどやっぱり、・・・・・私は学校から連絡が来るまではここに残る。」
戻れば自分の持ち場を離れたことを責められるだろう。
責任不足といわれればそれを否定することはできない。
けれどあの時私は自分にできる精一杯をしていたいと思った。
そしてそれは今でも後悔していない決断だと胸を張って言えるのだ。
「だと思った。」
セルスは笑って「俺も残る。」と付け足した。
人はいつだって無力だけれど、誰かを守りたいも助けたいも偽善となってしまうけれど。
それでも誰も救えないよりはと手を伸ばす。
「もう眠ろう、セルス。明日は忙しくなるよ。」
「あぁ。」
私はこれからもそんなふうに生きていたい。
不器用でも不格好でも、それでも欲深く、夢も幸せも力も全てを手に入れるために。
一年と約八カ月ぶりの更新となりました。
待ってくださっていた方々に深く深くお礼を申し上げるとともに、お知らせしなければならないことがあります。
私情というのは受験を翌年に控えていたためでした。
そして受験を終えて更新しますと伝えていました。
けれど、もう一年、更新できないことになってしまいました。
できるだけはやく、そう言っていたのに努力が足らず、結果を残すことができませんでした。
そのためもう一年更新を控えさせていただくこととなり、そのけじめとして今回一話だけの更新をさせていただきました。
ずっと待っていて下さった皆様、本当に申し訳ありません。
けれど来年は必ず、感謝をもう一度しっかり伝えるために戻ってきます。
どうかそれまで、待っていただけたら本当にうれしく思います。
ありがとうございました。