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第107話 :コア

近づいてくるベーレ家の旗を見据えて、ルキアと空を飛んでいた。

本当なら隣に黒竜アルとセルスがいてくれるはずなのに、私はまたルキアと2人きり。


「白竜のマスター殿。」


礼儀正しくそういったのは白いマントを風に揺らす、金軍隊長ヴァンさん。


「はい。」

「私共には王女様を守るという使命があります。命を懸けて、成し遂げねばならぬ事です。」

「はい。」

「そのためには、もちろん自分の命も・・貴方の命を守る事もできません。」


厳しくそう放たれた言葉に、事の大きさを感じる。

しかし私は、はなからそんなことを望んではいなかった。


「助けて貰わなければならない程度の力なら、こんな所にでしゃばりません。」

「君はまだ・・子供だ。」


16歳になりかけている、まだ幼い子供。

世界ではそうなのかもしれない。けれど、子供であっても私にできることはある。

そして、しなくてはならないことも。


「子供の私が、マスターをしているんです。戦った事もあります。

私はまだまだ幼くて、愚かだけど・・ルキアが傍にいてくれる限り、私はマスターです。」


もしも私が大人でも、きっと何も変わらない。

私にできることをしなければならない。そう教えてくれた人がたくさんいる。


「今までに、立派なマスターだと言われ続けてきたでしょう。」

「・・立派って・・なんでしょうか。」


軍の後ろのほうがざわつきを見せる。

ゆっくりとトレスたちが離れ始めたようだ。


「そろそろ来ますよ。」

「はい。」


トレスのことはセルスに任せてきた。その判断は決して間違いじゃない。

セルスが大好きで、だけどトレスのことも大切だから、セルスにお願いしたんだ。

大好きなトレスのことを任せられるのは、大好きなセルスだけだと思ったから。


「来た・・!」


青い魔法の光が3つ、キラリと瞬いて私達目掛けて降ってくる。

空の色よりずっと深く暗く、輝く光の弾は人を傷つけるために輝いて。


「光を遮り我等を守るように、マジックウォール!」


バンッ、と鈍い音が響く。その音を始まりの音として、軍全体が構えを作る。

数は向こうの方が圧倒的に多いのだから、私達は効率性を武器に戦わなければならない。

そんなふうに思った瞬間、隣にいた白いマントが戦闘きって飛び出した。


「ヴァンさん!」

「1等魔術師、私の援護を頼む。2等以下は彼女の指示にしたがうように!」


ヴァンさんの言葉に先頭の直ぐ後ろについていた白の騎士団がヴァンさんを追う。

その姿を眼に映して、私はすぐに振り返った。

ぐずぐずしている暇は無い。私達がすべき事をしなければ、私はその指示を出さなければ。


「どう・・しよ、えっと・・・」


そう分かってはいるけれど、誰かに指示を出す事なんて今までなかった。

この戦いでは1秒が命取りだ。迷ってる暇なんてないのに。


『コア。』


私の指示を待つ騎士達から眼をそらして、静かにルキアの声だけを聴いた。


「・・・・・・・攻撃軍と防御軍に別れ、攻撃する軍を防御軍が援護してください!

右に移動して、せめて銀軍の人達が移動しているのをカモフラージュしましょう。

なおかつ、相手を確実に制圧していきます。」

「「了解!」」


どよっと一瞬の声の波が終ると、構成を整えるようにドラゴンとマスター達が私の前に現れた。

それから目配せをして、急いで右へとそれていく。


「行くよ、ルキア!」

『えぇ。』


鋭く矢が何かを射止めようとするように、ルキアは空を飛んだ。


「彼等の体を拘束するように、リング。」


手をかざすと輪が空を舞って、こっちへ向かってくる敵をすぐに捕らえた。

4人の魔術師を捕らえて、身動きを取れなくする。


「炎により、箒が煙を上げるように、ファイアーボール!」

「水により、箒が湿り落ちるように、ウォーターボール!」


しかし、私達の援護をしている軍に炎と水の弾が次々に襲い掛かった。

その影響により、私達の周りに作られていた防御魔法が解かれた。


「構えて!」


その隙を突くように、次から次へと矢や、黒いネット、炎の弾が飛んでくる。


「樹木の助けによって、我等を傷つけしものを捉えるように!」

「水の大いなる力によって、炎を打ち消すように!」


1人2人が私に続いて唱えるが、伸びてきた剣は矢の全てを防ぐ事はできず、

炎の弾も水の合間を縫って、私達の元にすごいスピードで落ちてくる。


「バリア!」


とっさの魔法はあまりにも乱雑すぎたのか、欠陥ばかりの防御となり、矢が幾つも体を掠めた。


「いっ・・」


焼けるような痛みに低い声を上げると、軍の後ろの防御軍から煙があがる。

それを助けるように、箒に水をかけると湿って重くなる箒を魔術師は必死で操っている。

薄っすら、向こうの方からトレスを囲う銀軍が見えてきて、ゆっくりと近づいてくるのが見えた。


「せめて・・っ・・通り抜ける間だけでも、頑張ろう・・!」


私の声にルキアが答える。

その牙が鋭く生えた口内から、冷たく冷え切った冷気が遠く敵まで飛ばされた。


「ありがとう。」

『いいえ。もうすぐだから、頑張って。』


傷がついた羽を上下に動かして、相手に近づいていく。

その後ろをかろうじて形成を整えながら魔術師とマスター達がついてくる。

その他の、水により動きが鈍くなった魔術師たちは遠くから援護に回り、

絶えず飛んでくる矢を、弱弱しく震える結界により防いでいる。


「魔法弾、用意して!」


ほぼ一列に並んだ今の状態からなら無駄に攻撃をするより、一斉に固めて攻撃した方が賢いだろう。

辺りを見回して言葉が行き届き準備ができると、私は静かに片手を上げて振り下ろした。

その瞬間に、少しでも威力を残したまま飛ばすために防御壁が外された。


「・・行ったっ!」


遠くに見える軍がグラッと揺らいだ。

突き刺さる魔法弾に、乱されている軍を見て、直ぐに振り返り、トレスや銀軍との距離を測っていた。

私達の軍の直ぐ横を通ったトレスたちの顔がはっきり見えるほど隣り合った。

たった一瞬の、その瞬間だった。


「トレッ・・・!?」


急に銀軍の中心のトレス目掛けて投げられた魔法弾に、トレスが揺れた。

しかし、それだけではなかった。


『・・・っ!?』


バンッと鈍い音がした。

トレスの名を呼びかけていた私の声が途中で遮られ、私の体はルキアの体とともに傾いた。


「ルキアッ!?」


急いでルキアの右の翼に眼をやると、そこには魔法弾をもろに喰らった痛々しい焼け痕と小さな煙、紅い血が見えた。


『コ・・アッ!!』


バランスを取ろうとしたルキアは、羽を動かして体を安定させる。

しかし私はその一瞬に気を取られて、体を白いルキアの背から落としてしまった。

自分から飛び込んだ空とは違い、構える余裕もなく地上だけが私を待ち受けるように空を飛んでいた。


「ルキアッ!」

「コアっ!」


ルキアを名を呼んだ私の名を呼び返したのは、ルキアの声ではなかった。

地上に背を向けて、風の抵抗を感じながら離れていく空を見る私の眼には

大怪我を負った白いルキアが必死にバランスを取っているのと、その横から何かが飛び込んでくるのが映されていた。



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