第十七話
クロウを倒し、国に平和が訪れた。
――そう思っていた。
次の瞬間、倒れていたクロウがふら付きながらも立ち上がり、俺と姫様は絶望する中。
クロウは笑う。
「クク。アハハハハハ！ これで勝ったと思ったのか？」
「あの魔法を受ければ、死んだも同然だというのに……何故だ」
「大した魔法だ。先に姫を片付けるべきだった」
しかし見たところ、クロウもそれなりに体力を消耗している。
もう戦闘になったところであの大剣は振れないだろう。
「これが我の最期の魔法だ。我が死ぬのであれば、道連れにする！」
その言葉を聞いた瞬間、辺りが一気に重くなるのを感じた。
「な、なんだ！？」
「これは……爆発する気か貴様！」
姫様の問いかけに応じる事なく果てたクロウ。
「城内を出るぞ！」
姫様についていく俺だが、異変に気付いた。
「……扉が開かない」
「なに？ 魔法をかけたのか……」
どこまで執念深いんだ。
「地下を渡ろう。来い」
そして王座の後ろに向かう。
こんなところに地下に通じる入口があるとは意外だ。
「早く行こ――うっ」
姫様が俺を振り返ると、何か見てはいけないものを見てしまったような顔をする。
俺も自分の背後を見てみると、そこに転がるナルディさんの死体。
「…………行こう」
沈黙を続けるわけにはいかない。
そう思った俺は姫様と一緒に地下に降りる。
地下は一本道のようで、そこまで複雑な迷路というわけではなかった。
俺達が数歩進んだところで、真上から砂埃のようなものが舞う。
どうやら城が爆発したようだ。
姫様はさっきから元気がない。
そりゃ、無理もないがな。
俺だって落ち込んでいたいが、今はそれを優先すべきじゃない。
早いところ城外に出て、周りを見る。
その後の事も考えなきゃいけない。
挫けている暇はないんだ。
そういうのは……姫様だけで十分だろう。
「姫様。俺が先頭を歩きます」
俺が先陣に立つ。
ごく自然的に、励ます形で姫様の手を握り歩き出した。
「……私は、一国を担うには幼すぎたな」
俯いたまま話す。
「皆を守れやしない。今も守られてばかりじゃないか」
その言葉を黙って聞き入れた。
「城は壊され、国民も、殺された……今、何人生き残っているのだろうな」
段々と声が震えているのがわかる。
「姫様は優しい考えを持っていると思う」
そして口を開く俺。
「何を言う？ 私は沢山の犠牲を払って生きているんだぞ？」
「それを言うなら俺だってそうだ。……けど、姫様は優しい。俺はそう思うな」
国民を大事に思い、自分の国を大事に思っている。
それだけで十分だ。
「国の兵士は、姫様が好きだから兵士をやってるんだ」
「何を馬鹿げた事を。所詮は金で動いてる兵士じゃないか」
「はは。俺、金で雇われてないけどな」
冗談交じりに笑った。
「少なくとも、金で命を犠牲にするなんてのは絶対にないと思うけどね」
俺の国の大昔なんかは金で雇われるどころか強制だったからな。
…………そりゃ、負けるよな。忠誠心がまるで違う。
「ハルトはどうなんだ？」
「ん、俺か。俺も、結構ここの暮しは好きだよ」
「それは真か？」
「真実さ。嫌ならこんなことまでやんねえよ」
薄い笑みを浮かべる。
俺の言葉がそれほど嬉しかったのか、姫様も少しは元気を出したようだ。
「元の世界に、帰りたいか？」
「何をいまさら。俺この国に来て数カ月は経つけど、帰りたいなんて思った事すらないよ」
事実だ。
そういえば、俺の世界じゃ俺は死んだ事にでもなっているんだろうか？
まあ、どうでもいいんだけど。
「もうすぐ地上に出る。元気出たか？」
「うむ……感謝しているぞ」
元通り、とまではいかないかな。
地上に出た俺と姫様。
どうやらもう荒れている気配もない。
「姫様！」
走ってやってきたのは、さっきまで操られていたネヴァラ兵。
「もう大丈夫なのか？」
姫様を庇うように前に出て、聞いた。
「大翔さんもご無事で。……私は」
兵士は何かを言いかける。
「私は国を裏切る行為をしてしまった。……殺してください」
覚悟がある、というのだろうか。
しっかり俺を見つめている。
「嫌だね。人の死体を見るのは懲り懲りだ」
「全くだ」
俺と姫様は笑った。
「へ？ あ、あの……」
拍子抜けしたのか、兵士は戸惑っている。
「私から命令だ。お前たちは全員ネヴァラで復旧作業を進めろ！」
「なるほど。いい案だ。ならまず、マルタへ行こう」
「ネヴァラの国民全員を引き取ってくれるだろうか？」
「それを聞きに行くんだよ。行こうぜ」
思い立ったがすぐ行動。
マルタへ行って、資材を受け取る。
ネヴァラを復旧するのに、恐らくかなりの資材が必要となる。
時間はかかるかもしれないな。
それに、マイビスにも伝えなきゃならない事がある。
