第十六話
「はははッ! どうした大翔ォ!?」
大剣だというのに大きな振りで俺を押すクロウ。
まあ、普通の剣が大剣に勝てる筈がないから、それなりに工夫をしなきゃいけないのは事実だった。
俺とクロウの戦闘をただ見ている姫様は魔力を溜めているのだろうか。
一歩も動かないのは不自然だが、魔力を高めているなら話は別だ。
俺は距離を置き剣を構え直す。
重い大剣をあそこでま器用に振るえるとなると、それ相応の動きが出来る筈だ。
慎重に考えないと、確実に死ぬ。
「動かないなら我から行くぞ?」
大剣を横に振る態勢に入るクロウ。
剣を振った後の風圧でも吹き飛ぶほどの威力だ、たいしたもんだ。
なんて余裕をこいた事を言ってられないんだけどな。
策が何一つないという事は無い。
あるにはあるんだが、それをするための策が思いつかない。
相手には隙がない、そう言えるほどの威圧がある。
「くそ、なんとしてでも魔法は解かないと」
城外で戦う人達を考え、急ぐ。
「うらぁ!」
勢いよく突っ込んでいけば吹き飛ばされる。
そう考えた俺は左右に回る感じで段々と近づいていった。
「おっと」
カキン、という小さな音を立ててクロウは攻撃を避ける。
「我の敵では……」
クロウは勢いよく大剣を構えると。
「ないっ!」
そのまま大きく振りかぶる。
剣で受け止めてしまった俺は剣を吹き飛ばしてしまう。
「しまったっ!」
そう思った瞬間には既に遅かった。
クロウは縦に大剣を構え、振り下ろす。
「大翔さん!」
そう聞こえ、目の前に現れたのはダイロンさんだった。
「お前はマルタの軍兵、ダイロンか」
距離を取ったクロウが冷静に話す。
「どうも。この度は私の兵士をよくもやってくれたものだ」
ダイロンさんも大剣を構え、クロウに言った。
「覚えておらんな?」
クロウは再び構える。
「大翔さん。剣を構えなさい」
「は、はいっ」
後ろを振り返る事なく言うダイロンさんに少し驚いてしまう。
「彼の強さは十分にわかった筈です」
「……はい。確かにアイツは強い」
それは戦ってわかったこと。
「だけど、勝てない相手じゃない」
そして俺はニヤリと笑う。
「そうです。勝てない相手ではない。必ず勝てる」
「ほう? 二人になった事で自身が付いたか」
確かに、二人になった事で少し有利になった気ではいる。
けど勝てないってのはまずないという事は分かっているつもりだ。
「行きますよ。ネイヴィ姫の為に時間を稼ぐのです」
「はい」
なるほど、ダイロンさんも気付いていたのか。
俺とダイロンさんは決してペアを組んだ事もないが思わぬ力を発揮した。
「ぬぅっ!?」
大剣で攻めてからの俺の一閃突き。
「ふむ。流石にキツイか」
そういった直後、ダイロンさんが吹き飛んだ。
「ぐあ!」
天井に吹き飛び、そこから動けなくなる。
「ふはははは! これこそ我の魔法!」
そしてそこに追い打ちをかけるかの如く、クロウはダイロンさんにとどめを刺す。
「んなっ……」
串刺し。
血が溢れだし、俺の頬にも伝ってきた。
「美しい。最高だな」
「うっ……」
上を見ていられない。
悲惨な状態で死んでしまったダイロンさんは、呆気なかった。
「さて。これで一騎打ちというわけだな?」
再びの絶望。
そんな時だった。
「魔法を使う者はここにもいるぞっ!」
姫様が魔力を溜め終えたのか、いつのまにかクロウの背後に近づいていた。
「ほう?」
クロウも余裕な表情をしていたが、次の瞬間その表情は無に変わる。
異様なまでの音が鳴り響き、クロウは倒れた。
今のは魔法?
「……すまない。私の魔法が遅かったばっかりに」
「いや、あの魔法は……?」
「詳しくは知らん。私も教えられた魔法だからな」
どうやら魔法なのは確かだ。
まあその辺はいい。教えられても俺には使えないからな。
「……終わった、のか」
剣を下す。
「犠牲は十分に払った。終わってもいいだろう」
確かに、今回の犠牲は今まで以上だ。
「これが戦争だ。わかるか?」
「…………ああ」
戦争の辛さ。
十分身に染みた。
そしてこれでわかった。
やっぱり協定は必要だという事が。