第十五話
ネヴァラへ到着すると、そこには見えるに堪えない世界が広がっていた。
昨日までは平和だった国ネヴァラ。
それが今では、家が燃え、泣き叫ぶ悲鳴が響く世紀末。
俺はただ呆然としていた。
あまりの唐突さに、姫様も平気でいられなくなったのか涙を流している。
もし俺がマルタへ行かずここにいたらどうなっていただろう?
争いは免れなかった。
けど――こうはならなかったはずだ。
あの数人の魔法使い、ヴィエンス兵だろう。
あれさえ片付ければ操られて国を襲っているネヴァラ兵を開放できるのだろうか?
いや、違う。
ネヴァラ兵を操っている奴は外で戦っている奴じゃない。
操っている奴は必ず身を潜めている筈だ。
ではどこにいる? わからない。
当てもなく探すか?
どうやって?
頭が混乱している今、無駄に考えていても仕方がない。
「ヴィエンス兵を残る事なく殺せ。ネヴァラ兵は出来るだけ、殺すな」
マルタ兵に指示を出し、姫様の手を握る。
「うぐっ……どうしたのだっ?」
涙を流す姫様。
「……本体は恐らく、城内にいる。操っているソイツを倒せば収まる筈だ」
「ひぐっ……私は、怒っているぞ」
俺もだ。
姫様の手を話す事無く、城へ向かって走る。
道中、襲ってきたネヴァラ兵を倒す事なくなぎ倒し、どんどん走る。
涙が収まっていた姫様だが、俯いて何も喋らない。
悲しいが、今は前を見て走るしか俺には選べなかった。
「どこだ!? どこにいる!?」
城内へ無事侵入できた。
敵兵が潜んでいるかとも思ったが、どうやら外にいるので全員のようだ。
まあ、操れるなら自国の兵はそんなにいらないよな。
となると、敵は王座にいるのだろうか。
明りのない暗い城内。
俺は走って王座に向かう。
バタン! と扉を大きく開くと、そこにやつはいた。
王座に偉そうに座り、まるで俺が来るのを待っていたかのようにする男の姿。
「そこはお前の席じゃねえよ」
姫様の手を離し、鞘に納めた剣を構える。
「クク。怖いなぁ……流石は天才軍師、といった所だ」
男は立ち上がる。
「我が名はクロウ。ヴィエンス王クロウにして、最強の男だ」
クロウと名乗るその男は王座の横に立てかけてた大剣を取る。
邪悪な色に染まったその大剣は、クロウに似合った衣装に見事マッチしている色だった。
「さて、お前はこの状況をどう見るのだ。天才軍師よ」
「俺は軍師なんかじゃねえよ」
「そうか。では大翔、と呼ぼうではないか」
それより、何故こいつは俺の事を知っているのだろうか。
俺は戦場に出た事は無いし、行ったことのある国といえどもマルタだけだ。
「お前がこの国を滅ぼそうとしてるのは分かる」
「そうか。ではそれを覆す策はあるのかな?」
この男の余裕っぷり。
「……あったら、いいな」
「クク。正直な奴だ。どうだ? 私にその姫の首をよこせば、兵を開放しよう」
一国の姫がいなけりゃ、兵がいても意味がないと思うんだが。
「断るに決まってる」
「だろうな。では私と手を組まないか? 協定、という奴だ」
クロウは笑いながら話す。
そうか。協定か、だがこんな男と協定を結ぶ義理はない。
「断る。お前は国を、汚い手で滅ぼそうとしている」
「戦争なんて勝てばいいんだよ。勝ち方など選んでもよかろう?」
「そんなやつと協定なんて結べると思うか」
クロウは不敵な笑みを浮かべる。
「確かにそうだ。では、お前を殺そう」
そして大剣を構える。
それと同時に突っ込んでいく俺は、バカだった。
「ふはははははは!」
剣に触れる事なく、吹き飛ぶ。
そうだ。コイツは魔法使い。剣に特化しているわけじゃなかった。
「がはっ」
それを忘れ、突っ込んでいった俺は一気に姫様のいる方向まで吹き飛んだ。
王座から一直線に吹き飛んだ俺は血を吐き、倒れる。
「おや? 口ほどにもないな。お前を国から一度出す必要はなかったようだ」
クロウは笑う。
くそう、やっぱりそんな魂胆かよ。