第十四話
王座へ向かった俺と姫様は扉をノックせずに開く。
「マイビス姫!」
大声を上げる。
「これは、大翔さん。どうしました? 連絡は受けましたが」
「話があります。……出来れば四人だけにしたいのですが」
王座のすぐ前に立った俺は、ダイロンさんに訴えかけるように言う。
ダイロンさんは指示を出し、見張りの兵を全員外に出してくれた。
「それで、話とは? ネイヴィ様までいるとは、余程の事で」
ダイロンさんは続ける。
俺は深呼吸し、息を整えてから口を開いた。
「先日、マルタ兵が奇襲に遭ったことはご存知だと思うが」
「はい。それは連絡を受けました」
「……一応確認したいんだ。マルタ兵に裏切り者がいるかどうか」
その言葉に、鋭い眼差しをしたダイロンさん。
「なるほど。つまりは大翔さんは私の国を疑っている、と」
そういう事になる。
「ただハルトは確かめろ、と言っただけだ。疑いの眼差しがあるのなら確かめる他ないじゃないか」
不穏な空気に陥ったところ、姫様がフォローをしてくれた。
「確かにそうですね。ですがどう調べればよいのか」
「私が確かめましょう。因みに敵はどのような兵だったのでしょうか?」
そういえば、連絡でどこの兵に倒されたとか伝えていないのか。
「ヴィエンス兵、だそうです」
俺が口を開くと、段々顔を青ざめたダイロンさん。
どうしたのだろうか?
「ご存じなのですか?」
問う。
「兵を手配し、大翔さんに剣を授けます。至急自国へ戻った方が得策です」
「なぜだそれは。確かめろと言ったのだが?」
ダイロンさんの提案に、乗り気じゃない姫様は答える。
「確かめても意味がない。ヴィエンス兵は魔法に特化した国、人を惑わす魔法を使うのです」
その言葉に、誰もが驚く。
人を惑わす……となると、ネヴァラの兵士が操られたという可能性もあるわけだ。
「……いや、ネヴァラの国の兵が操られている」
「なんだと!?」
「考えてみればそうだ。なんでマルタ兵が奇襲されてネヴァラ兵が無事だったんだ」
ネヴァラ兵が姫様より先に俺に報告。
そして連絡で伝えなかった「ヴィエンス兵からの奇襲」という情報。
全ては俺をネヴァラから離すキッカケを与えていたに過ぎないほどの簡単な落とし穴。
不幸中の幸いといえば姫様が俺の後を追ってきたという事だ。
俺の情報をどう知ったのかは知らないが、俺は危険扱いされたようだった。
だから俺を遠ざけたのか。
「悲嘆に暮れている暇はありませんね。ダイロン」
「はい」
俺に一本の剣を渡してくる。
木刀なんかじゃ勝てない。それはもう実証済みの俺は剣を受け取った。
「城外に兵を手配しております。お急ぎください」
「ありがとうございます」
俺は一礼し、姫様を連れて走る。
油断した。
急いでネヴァラへ戻るべくマルタ兵数十人いる兵を引き連れ、駆け足をする俺達。
今度は時間のかかる森ではなく普通の道を歩こうと進んでいると。
「敵兵がいるぞ!」
姫様が叫ぶ。
ヴィエンス兵は昨日森で出会ったあの五人と変わらない戦力で潜んでいた。
「時間稼ぎってわけかよ」
剣を鞘から抜き、構える。
「ハルト、剣を差し出せ」
すぐ後ろにいた姫様が言う。
「相手は硬化魔法を使っているのだろう? ならこちらも硬化魔法を使う」
「……いや、いい。姫様は魔力を消費しないでくれ」
後の事を考え、俺は姫様の魔法を断った。
硬化魔法は剣に施されている。
つまり、一突きで仕留めればいいだけだ。
さっきは油断したけど、今度は大量の兵士がいるんだ。
「全員武器を構えろ! 一斉に行くぞ!」
全員に指示を出し、とびかかる。
ものの数分で倒し終え、先を急ぐ。
全員なんとか無事でいて欲しいと願うばかりだ。
相手の狙いは間違いなく姫様。
ついてきてくれてよかったな、本当に。