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第十二話

 それから一ヶ月の月日が流れた。

 マルタとネヴァラの兵士交換は二回行われ、段々と強化されていくのがわかる。


 マルタに帰還したマルタ兵も、俺が教えた事を色々な兵士にも伝授しているようで、回数を重ねる事に兵士の力も数段あがっているのが感じられる。

 ネヴァラ兵も普段俺が教えている事を伝授しているようだ。

 協定がここまで良いものだとは思わなかったのだろうか、姫様がかなり関心している。


 他国との戦争も当然起こったが、俺達に降伏したようで戦争の回数が減っていった。

 統一なんて興味のない俺は、その他国を協定という形で誘ったが兵士の交換はしていない。


 まあ、マルタの特権とでもいうのかな。

 こちらの兵士が減りすぎるのも問題だしな。


「それでは、これで」

「本当に感謝しています。まさか木刀がここまで強いとは」


 そして今日、二回目の兵士交換が終える。


「はは。まあ、鋼でできた剣より木の方が数倍軽いからね。寿命も早いけど」


 別に剣を批判しているわけではない。


「じゃあ、お元気で」


 五人の兵士達がマルタへ帰還する。

 その姿を見届けた俺は、久しぶりに子供達に剣技を教える事になった。

 最近、というよりは二週間の兵士交換を終えると次のマルタ兵が来るまでの間は毎回これだ。


 もはや自分の国に帰りたくないと思い始めてもいる。


「大翔さん! 大変です!」


 子供達の特訓を終え、自室でシャワーを浴び終えた頃に兵士がやってきた。

 どこか慌ただしい様子で走ってきたのがわかるほどの異常な汗。


「どうした?」

「はぁ、はぁ……ネヴァラへの帰還中。道中で、死体を発見して……」

「なに?」

「それで、その死体なんですが……マルタ兵の死体でした」


 俺の心のどこかで、何かが砕ける音がした。

 道中? 死体? 何故だ? 兵士交換の情報を知っていた?

 それとも、ただ単に通りかかったところを狙われただけ?


「皆は、無事のようだけど」

「はい。相手は――ヴィエンスという国の兵士でしたっ」


 兵士の姿を捉えたのか。


「……姫様には?」

「まだ言っていません。真っ先に大翔さんに伝えようと思い」


 これは、伝えるべきか。


「わかった。俺から伝える……連絡をマルタへして、兵士交換を控えよう」

「はい!」


 この国の連絡手段は魔法。

 電話があればどれだけ事が簡単に進むのか。


 さて、王座に行かなきゃな。


「あら、大翔さん?」


 王座の扉の前で掃除をしていたナルディさん。


「……あの、姫様は王座に?」

「あっ、今は寝室におられますよ」

「ありがとうございます。では」


 あまりの手早さに不安を煽ったかもしれないな。


 寝室の前に立ち、ドアを数回ノックする。


「む? ナルディか?」

「俺だ。大翔だ」

「ハルト? 入って良いぞ」


 失礼します、と同時に扉を開ける。

 ベッドに横になっているかと思いきや、窓の外を座って眺めている姫様の姿。


「なあハルト? 私はお前に感謝している」


 ニッコリ微笑んで俺を見る。


「お前のお蔭で、私の国は強くなっておる」


 まあ、確かにそうかもしれないな。


「元々は面白くするために呼んだが、とんだ軍師がいたもんだ」

「……滅相もない」

「む?」

「姫様。マルタ兵が帰還中奇襲に遭った」


 言葉を裏切るように、話す。


「どんな国の輩だ?」

「兵の話によると、ヴィエンスの国のようだ」

「聞いた事のない名前だ。一度も争ったことがない」


 ヴィエンスはマルタ兵を奇襲した。

 ネヴァラには興味がないという事なのだろうか?


「それで、お前はどう捉えているのだ?」

「一度マルタへ赴き、確かめたい事がある」

「今は危険だ。国を出ない方が良い」


 姫様のいう事はご尤もで、外を歩けばヴィエンス兵が伏兵しているかもしれない。

 だが、誰かが確かめなければいけない。


「名の聞いた事のない国なら、奇襲さえ用心すれば大丈夫かと」

「その奇襲に遭ってしまえばの問題だ。私はお前を失いたくはない」


 俺もこの国にとって貴重な人材となったのだろうか。


「俺が確かめなければいけないんだ」

「……なら今日の夜に向かえ。夜なら、視界を遮る事が出来るかもしれん」


 長く沈黙が続いた後。


「わかった」


 と俺は口を開き、部屋を後にする。

 誰にも悟られないよう夜に備えよう。死なないように、木刀も予め新しいのを使おう。


 来る夜まで俺は道場に籠もり、木刀で素振りをしていた。

 そして少し睡眠をとった後、晩飯を食べ城を出た。

 もし俺の考えている通りなら俺は帰ってこれないだろう。


 一人じゃ何千もいる兵を倒すなんてできやしない。

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