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第十一話

 翌朝、俺は起こされて目が覚めた。

 余程疲れたんだろうか、十時を過ぎている。


「昨夜は爆睡でしたね」


 朝食をいただき、すぐに食べ終えた俺にマイビスは言う。

 申し訳ないな。


「では、話をしましょう」


 話題を変えたのはダイロンさんだった。

 怖い顔だな相変わらず。


「これから大翔さんは帰るんですよね?」

「まあ、姫様に契約書を見せて、サインを貰うので」


 このまま少し休憩したら帰る予定だ。


「では馬車を手配します。徒歩は疲れるでしょうし」


 別に徒歩でも問題ないけど、用意してくれるなら有難く受取ろう。


「向こうの姫がサインをしないという事態も考慮し、私も共に行きましょう」

「え?」


 ダイロンさんは意地でも俺を信用してくれないのだろうか。

 まあ、疑う気持ちも分からないでもない。


「そうですね。では私も行きます」

「え?」


 と思いきやマイビスまでも。


「馬車の準備はいつでも。参りますよ?」

「あ、はい」


 この場の流れで俺は馬車に乗車。

 俺の隣にマイビスが座り、向かい側で必死に睨んだ形相のダイロンさん。

 怖い。


 馬車は動き出す。


 あー、楽だな。

 このままだと一時間ぐらいで到着しそうだな。


 馬車に揺られる事数分、俺の肩に温かい温もりが重く伸し掛かる。


「へ……?」


 隣を見てみると、マイビスが熟睡していた。


「馬車は姫にとって子守なのです。しばらくそっとしておいてください」

「は、はあ……」


 電車で座っていたら隣にいた女の子が肩に寄り添ってきた。

 そんな感じだ。

 相手が小さいとはいえ、かなり興奮してしまう俺も男なんだな。


「…………」

「…………」


 馬車に揺られて、無言状態の続く。

 この人、口数少ないんだな。


「……大翔さんは魔法を使えるのですか?」


 口を開いたのは、ダイロンさんだった。


「あぁ、いや。使えないですね」


 実際ただの高校生なわけだしな。

 この世界の住人じゃない俺にとって魔力なんて無い。


「そうですか。なら剣技に特化した国、というわけですか」

「まあそうなりますかね」

「……昔のネヴァラは何に特化した国、というわけでもなかったのですが」


 おお、そうだったのか。

 俺の知らない情報。いや、聞けばだれでも知っているんだろうけど。


「もう少しで到着です。姫を起こしてもいいでしょう」


 あ、俺が起こすのね。


 マイビスを起こし、無事ネヴァラに帰還する俺。

 その後ろにマイビスとダイロンが立ち、俺の後を追うように城内へ入っていく。


「あ、はっ、大翔さん!」


 最初に俺に気付いたのはナルディさんだった。

 久々に見るメイド姿に目を奪われる俺。


「お久しぶりです。姫様は?」

「王座にいますよ。……そちらの方々は?」

「マルタ国からきました。ダイロンで、姫のマイビス様です」


 国の王、という名を聞いて目を丸くするナルディさん。


「あの、もしかして……」

「ははは、まあ無事協定は結びました」


 俺の言葉を聞いて、再び目を丸くするナルディさん。


「す、すぐに姫様の所にご案内いたしましゅっ!」


 緊張しているようだ。


「ありがとうございます。助かります」


 マイビスは笑顔でお辞儀をする。


「そそそんなっ、もったいないお言葉で」


 これは……。


「ナルディさん? 行きましょう」


 ダイロンさんが放った、とどめの一言。


「は、はうぅ……」


 ナルディさん、ダイロンさんに弱いのか。

 年上好きなのか。


 そんな事もあり姫様のいる王座に行くのにかなり時間がかかった。


「よくきた。マルタ国の姫と――そのお供」

「いえ、協定の案はありがとうございます」

「うむ。気にするな!」


 随分反対してたと思うんだけど。


「じゃあ姫様もこの紙にサインを」


 そうして俺は一枚の紙を差し出した。

 姫はその紙を見る事なくサインをする。中々いいが、詐欺に引っかかりやすいなこの人。


「ではハルト! この二人に城下を案内してきてくれ!」


 最初からそのつもりだ。


「では行きましょうか」


 俺は二人を連れて城を出る。


「あ、兄ちゃん!」

「本当だぁ。久しぶり!」


 城下を歩いていると、門下生の子供達が集まってきた。


「おお、久しぶりだな」

「道場いつ再開すんのー?」

「それはまだ未定だが、近いうち開くよ」


 子供は俺の道場を楽しみにしてくれているようだ。

 その光景を眺めるマイビスは始終笑顔だった。


「凄いですね。大翔さん」


 子供達に解放された後、マイビスは言う。


「そうですかね? まあ、嬉しいですけどね」

「凄い信頼を得ているという事がわかります」


 最初は苦労したけど、これも結構充実して楽しくしてるのではないだろうか。


「あの、お願いがあるんですけどいいですか?」


 ここで俺はある話題を持ちかける。

 首を傾げるマイビスに、無表情のダイロンさん。


「俺、物資を必要としていましてですね」

「施設増加の為に?」

「はい。マルタは結構物の作りが頑丈そうなので少し期待はしているのですが」


 物資の一つぐらいはあるんじゃないだろうかと俺は予想している。


「物資ぐらいお安い御用です。ですが」


 ダイロンは息をのむ。


「作っても壊されて無駄にするほどの物資はありません」

「ああ。安心して下さい、その辺は俺にも考えがあります」


 首を傾げたマイビスを見ながら言った。


「兵士を数人に分けて交換するんです。そして俺の道場でマルタ兵の育成をサポートしましょう」


 なるほど、と相づちをうつダイロンさんはどうやら乗る気だった。


「協定と言うのもいいかもしれませんね」

「でしょう? 期限は二週間です。それを何度も繰り返していくんですよ」

「……では私達は国に戻らなくてはですね」

「ええ。すぐにでも出発しましょう」


 戦況が悪い方向に傾いていたマルタの国。

 兵士の強化と聞いて納得しないわけがないのは知っていた。


 しかしこれで物資を、資源を自由に手に入れる事が出来る訳だ。

2014年8月3日 誤字訂正

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