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第十話

 この牢屋に閉じ込められてどれくらい経つだろうか。

 荷物を全て奪われた俺に時間を確認する余地などない。


 さっき森を出た時は夕方だったから、夜なのだろうか。


 戦争、終わってるかもな。

 ひんやりとした牢屋の中の景色に見飽きた俺は固いベッドに横になっていた。

 抵抗する無駄な気力すらない。

 せめて見張りぐらい置いておけよって話だ。


 そんな事を考え、ベッドをギシギシと揺らしていると牢屋の外から誰かが来る足音が響く。


 見張りかな?

 だとしたらなんとか話さないと――ああそうか。兵士なんかじゃ話にならないか。


「今晩は大翔さん」


 女性の声。

 しかも俺の名前を知っている?


「……誰、って……」


 ベッドから起き上がり、牢屋の外を見る。

 そこには森で助けたマイビスの姿があった。


 さっきまでの格好とは違い、綺麗な衣装に身を包んでいる。


「なんで君がここに?」

「なんでと言われても、ここが私の家ですから」


 マジか。


「なんで地下道なんかに?」

「ああ、この国の王に用があって……それで爺に騙されて地下道なら行けるって言われたらこの様で」

「なるほど。旧兵ですね」


 旧兵か。なら仕方ない。


「今牢屋を開けますね」

「え、いいの?」

「大翔さんは命の恩人ですから」


 命の恩人といえど、俺は敵の筈なんだが。


「鍵がないので、魔法であけます」


 便利な魔法があるんだなあ。

 牢屋の鍵のかかった扉に手をかざし、魔法を掛けたマイビスは扉を開いてくれた。


「ありがとう」

「これで恩はしっかり返しました」

「そんな、別にかまわんのに」

「いえ、私の国では恩人には恩で返すという家訓があるので」


 いい家庭事情だ。

 けど、恩を返してくれるなら協定を結んでほしいもんだ。


「では王座にご案内しますね」

「……俺は敵なんじゃないの?」

「敵、と言われればそうですけど。大翔さんは私の命を救ってくれました」


 良い人だな本当に。


「お話があるのですよね? こんな所じゃ、話なんてできません」


 マイビスはそう言って俺を王座に案内してくれた。

 さっきまで俺に敵意を向けていた兵士も、どうやらマイビスの弁明のお蔭で尊敬されるようになった。

 ネヴァラとは大違いだ。


「さて、お話しとは何ですか?」


 マイビスが王座に座り、俺は前で立ちながら話す。


「えーと、そちらの方は?」


 マイビスの横で丸眼鏡をかける金髪の不良が一人。大剣を鞘に納めるその男の威厳は半端ない。


「ダイロンです。どうぞ気にせず」

「あ、はい」


 気にしちゃう。

 まあいい。それより今は大事な話なんだ。


「えーとですね。俺のというよりネヴァラの姫様にも提案したのですが」


 ここで一間を開ける。

 周りの様子を見る為だ。これで警戒する人物は……いない。


「ネヴァラと協定……つまり敵意をなくしてみませんか?」


 協定の概念がない今、難しい言葉を言っていちいち説明するのも面倒だ。


「……それは、どのようなメリットがあるのでしょうか」


 マイビスは表情を変えず問う。

 流石だ。一国を背負う姫、俺より年齢がしたっぽいがしっかりしている。


「兵力増加、強化共に両方が救われます」


 他国とも協定関係を築くつもりではあるが、実際すべての国を治めるのは無理だと承知している。

 全部の国が協定を結んだら争いはなくなるものの、それは別の意味での統一に等しいからな。


「名案かも知れませんね」

「ええ。現に今回の戦でネヴァラの兵力は格段に上でした」


 やっぱり戦争は免れなかったようだ。


「続けていたら私達の国は滅んでいたでしょうね」


 戦争にはかったようだが、それはそれで相手に警戒心を与えてしまった。

 まあ、負けるよりはマシなんだが。


「そちらをどう信用すれば?」


 ダイロンさんは尋ねる。

 俺は言葉に戸惑ってしまう。ここで変な事を言ってしまえば協定は無理だ。

 俺の首も消されかねない。下手に喋らない方が良いのかもしれん。


「私は大翔さんを信用します。いいですよ、協定」

「え?」

「ひ、姫っ!? 相手の信用性がないのに何故」

「今日の戦果、覚えていますか?」


 マイビスはダイロンさんの方を向く。


「私の国の兵士は、帰還してきました」

「は、はぁ」

「その帰還中、ネヴァラの兵は追って来ませんでした」

「それは、そうですが」

「ネヴァラの兵も大翔さんを信頼している証です」


 なるほど。


「ですから私は信じます」


 有難い言葉。


「姫がそういうのであれば、私は止めません」

「ありがとうございます。よろしいですか? 大翔さん」

「あ、あ、はい」

「随分拍子抜けな返答ですね」


 マイビスはクスクスと微笑む。


「い、いやあ。まさかここまで信用してくれるとは」


 思ってもいなかった。

 と言うのが本音だ。


「ふふ。今日は部屋を提供するので、明日ゆっくり話し合いましょう」

「あ、ありがとう……」

「いえ。私の方こそ、その案はとてもありがたいです」


 確かに、戦争が減るという面でも皆協定を結ぶきっかけにでもなるんじゃないだろうか。


 兵士に案内され、やってくる寝室。

 さっきのベッドよりもフカフカで、寝心地が最高だ。

 さあ。今日はゆっくり休んで明日報告しよう。


 ついさっきお手製で作り上げた協定契約書。


 俺が管理してれば信用される、という事でマイビスのサインを俺が管理する事になった。

 本当はコピーして両方の国に配れたらいいんだけど、生憎コピー機がないからな。


 というわけで明日、俺はネヴァラに帰還する。

 どんな反応が来るか、これからどうなるのかが楽しみだ。

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