第九話
「もし、お困りかな?」
マルタの国を出歩いていると、老人に声を掛けられた。
「え?」
「いやはや、お主が城へ入ろうとしている所を見てな」
ああ、見られてた。
「いやぁ、困ったっていうかなんというか」
困っているんだけど。
「城へは別に正門から入る必要はないぞ?」
「……え?」
「隠し通路があるのじゃ。地下道だけどな」
おお、これは有難い情報。
しかし……なんでこの老人は俺にそんな事を教えたのか。
「それではな」
「は、はあ」
とはいえ、いい情報であるのに変わりはない。
俺は早速その地下道とやらに向かう。
老人の話通り、地下道を発見。
「また道に迷いそうだけど、方向さえなんとかすれば行けるか」
意を決して地下道へ入る。
那珂は随分暗い。足元がようやっと見れる程度だ。
目が慣れれば少しは歩けるようになるんだろうけど、それまでの時間が惜しい。
一歩一歩慎重に歩く。
聞こえるのは俺の歩く足音と水の流れる音だけ。
地下道って程だから下水並みの汚さを連想していたけど、実際はそうでもない。
大分歩いていると思うんだが、まだかな?
距離的にもう少しだと思うんだが。
少し目が慣れてきたようで、右か左かの二手に分かれている事に気付く。
どっち行けばいいんだろう。取り敢えず右行こう。
右を選んだ俺は、広場へ出た。
すると、何者かに押し倒される感覚。
「捕えたぞ! 異国の俗物め!」
なんと兵士に待ち構えられていたようだった。
地下道を通っていた事がばれた?
もしや、元からここも見張りがいたのか?
いや、違う。
あの老人、俺を見抜いていたようだ。
俺に態々道を教えた時に怪しめばよかった。
抵抗する事もなく俺はただ捕えられる。
手足を拘束され、俺は引っ張られて城内へ連れ込まれていく。
まあでも、ここはポジティブに考えて「城に入れたぜ!」と喜んでいよう。
一先ず逃げる方法を考えなければいけない。
しかし俺は牢屋へ閉じ込められてしまった。
「おい、開けてくれ! 俺はただ話がしたいだけなんだよ!」
扉を何度叩いても返事がない。
もしや、近くに誰もいないのか?
くそ、こんなことしてる場合じゃないんだぞ俺は。
早く協定して、戦争を止めなきゃいけないっていうのに。
俺は処刑されるのかな?
いや、相手は俺の話を聞きに来る筈だが。
何せ俺はまだ何もやってないんだ。
狭い牢屋に閉じ込められて、考える時間が多くなった俺は必死に逃げる為の策を考える。
こうしている間にもマルタ兵はネヴァラへ向かい、ネヴァラ兵は武装を整える。
戦争は勝つだろう。それくらいの自信がある。
だけど、もし仮にマルタが勝ってしまった場合、協定を結ぶのは難しくなる。
ああ失敗した。
この戦が終わってからマルタへ向かうべきだった。
俺は途方に暮れながら、必死に祈るばかり。