三部
十一
「それでぇ、何事かと思ったらぁ…………」
布の塊ことビオルは飽きれとも諦めとも取れる声で、ついなの頭を膝の上に乗せている東雲に言った。
「そんな青ざめて心配するような事じゃないよぉ。大丈夫大丈夫ぅ」
薄茶色の布の塊にしか見えなくとも一応風の精霊の長であるビオルは、突然ざわめいた東の気配に、風を操り文字通り飛んできたのだが、何事かと駆け付けた結果が現在の有り様で一気に馬鹿らしくなった。
「でも」
「軽い脳震盪でしょう?シルフィさんがぁ、力一杯どこかに頭から叩きつけたとかじゃぁなければ人間て案外死なないから大丈夫だよぉん…………だからぁ、そんな泣きそうな顔しないでぇ?」
初めて見るよん、そんな顔ぉ。ビオルはそう言って今にも泣き出しそうな東雲の頭を撫でた。
駆け付けた時、東雲はついなの頭を抱えておろおろとし、周囲には異常なくらい風が渦巻いて竜巻を作る寸前だったのだ。
ついなの打ち所よりそちらの方が大惨事になりかねなかった。
むしろそんな事態だったから、正直ビオルはついなが死んだのかと思ったくらいである。
「本当に?」
「本当だよぉ」
ビオルが再度保証すると、東雲はようやく落ち着き表情を泣きそうなものから変えた。
膝の上のついなの頭を撫で、ほっと息をつく東雲を見て、ビオルはやれやれとその場に腰を下ろす。
「シルフィさんやぁ、怖かったぁ?」
「…………」
無言で小さく頷く東雲に、ビオルは小さく微笑む。
「そぉ……。うふ。ならぁ、もう確実だよねぇ……」
「……………………」
「恋だねぇ」
東雲はきゅっと唇を噛む。未だにどうしてそうなったのかわからない。
けれど多分これはビオルの言うように、恋なのだろう。
怖い、と東雲は思った。
「大切な人ってねぇ、そういう人が出来るのはとぉってもぉ、幸せなんだけどねぇ……同時に、失うかもしれないのは、恐怖だよねん」
人間は脆い。儚い。
ちょっとした事で失われてしまう。
「だけどぉ、だから私達は惹かれるのかもねん」
人間の儚さを恐怖し、そしてその花にも似た美しさに魅せられる。
「大切にね。ついなさんも、今抱いているその心も」
「苦しいのに」
「それでも、それはかけがえのない宝物だよぉん」
苦しくて、いつか投げ出したくなる時が来るとしても。
「その心を知れば、それ以上の幸せも知るんだからぁ」
寒さを知らなければ暖かいというものを知らないように、悲しさを知れば喜びを知る。
「その想いはシルフィさんが抱いたシルフィさんだけのものだからねん」
ビオルはもう一度東雲の頭を撫で、立ち上がり室を出る間際に振り返った。
「とりあえずぅ、心配は無いと思うけどぉ、目が覚めるまでいてあげると良いよぉん。じゃあねぇ」
布の塊にしか見えないその姿がそこから居なくなり、東雲はついなの顔を見下ろす。
こんなに間近でまじまじと見るのは、初めてかも知れない。
眠る姿にはまだ少し、幼さが残る。
そっと指先で額に掛かった黒髪を退け、目を覚ます気配が無いのを確かめてから、額、顔の輪郭をなぞった。
「体温……」
精霊の身では暑さも寒さも感じない。それなのに、今は不思議と暖かさを指先に感じる。
錯覚なのだろう。それでも、東雲はその体温に触れられる事が嬉しかった。
同時に少し、自分の頬が染まるような奇妙な感覚も覚えたのだが、それが気恥ずかしいというものだとは気付かなかった。
ふと、ついなを見詰め東雲は思い至る。
「このままだと、風邪を引くんじゃないかしら」
人間は身体を冷やすと風邪を引いたりして、寝込むと聞いた事がある。
熱が出ると辛いとも。
東雲はついなを抱え上げると、そのまま寝所へ運んだ。
眩しいくらい命に溢れた笑顔だった。
それと同時に、虚ろな闇を孕んだ笑顔でもあった。
強い光に濃い影が生まれるのと同じように、彼女の笑顔は生命に溢れているのに空っぽだった。
それが、無性に愛しかったのを思い出す。
「あなたを私で満たしたいと思ったんです」
指を伸ばし、白く柔らかな頬に触れる。
―――― ん?感触がある?
何で感触があるの?夢のなかで東雲に手を伸ばしていた気になっていたついなは、指先に感じた柔らかく滑らかな感触にそう思った。
「満たすってどうやるの?」
―――― ずいぶん現実味のある、ゆ……め……?
触れた指先で、東雲が小首を傾げる。さらさらとした浅葱色の髪が揺れた。
「ついな?」
―――― 夢じゃない!?
一気に意識が覚醒して、ついなは腹筋だけで飛び起きる。
「し、しの、東雲?な、なん…………」
狼狽するついなに、東雲は訝しげな目を向けた。
「打ち所が悪かったの?言葉がおかしいわよ?」
「打ち所…………」
「そうよ。自分の衣に躓いて転んだでしょ」
言われた事を理解して、昨夜の自分を思い返す。
東雲の問いに思わずどう言えば良いのかと緊張してしまい、無意識に動揺してたたらを踏んでいたらしい。そのまま自分の後ろ衣を踏んで転倒、と言う事だろうか。それしかないのだが。
ついなは自分の失態と、何より東雲にそれを見られたという事実に打ちのめされて、膝を抱えたくなった。
が、人間とはこういう時、気付かなければ幸せな事に気付いてしまう事が多々あるわけで。
「…………東雲」
「なに?」
「私は、廂で倒れたと思うのですが」
「そうよ?」
聞きたくない。しかしここまできては最早聞かないわけにはいかない。
「ここは私の部屋ですよね」
「本当に打ち所が悪かったの?当たり前じゃない。私は間違えずにここまで運んだつもりよ」
「―――― っっ!」
ついなは今度こそ掛布ごと膝を抱え込んだ。
膝に押し付けた顔は涙目である。
失態を見られたばかりか、褥に運ばれた?これでどうして平気でいられよう否いられまい。
「私、何か間違えた?」
東雲の戸惑う声は聞こえていたが、流石にすぐさま返事を返す気力は、ついなに残っていなかった。
ついなの東雲にしてみればよくわからない落ち込みに、どんな失敗をしてしまったのかと東雲は内心気にしていたのだが、ついなは知るよしもなく、東雲にしてもそれより優先すべきと思われる事が残っていた。
「ついな、そろそろ仕度をしないと出仕に間に合わないんじゃない?」
「あ、いえ、今日は非番ですからそこは問題ありません」
「そうなの?」
「はい」
コクりと頷くついなに、それならと東雲は言う。
「朝餉の用意、出来てるわよ」
東雲の言葉に、ついなは顔を輝かせる。
「はい」
ホクホクとした嬉しそうな顔と返事に、東雲は満足そうに微笑し、不意に気が付いたようについなの衣を見た。
昨夜は思い至らなかったが、倒れたのをそのまま褥に放り込んだのは、良くなかったのではないかと。
もしかしてそれが原因でついなは沈んでいたのかもしれないと、明後日の方向に考えがいって。
とりあえず、衣のシワを伸ばしておけば良いかしらと考えた。
同時に、まだした事の無かった“妻らしい事”にも思い至って、これはやるべきだと密かに頷く。
その決意そのままに顔を上げ、東雲はついなを見据えた。
「ついな」
「はい」
にこにこ笑顔でついなは東雲に返事をする。
が、
「着替えを手伝うわ」
「は………………、え?」
ついなの笑顔が凍り付いた。
嫌だからではなく、言葉が染み渡るのに恐ろしく時間が掛かった為だ。
しかし、東雲はそんな様子などお構いなしに手を伸ばし、ついなの衣の袷に手を掛けた。
「ちょ……っ」
その段になってついなの硬直が解け、慌てて東雲の手を掴む。
「東雲、自分で着替えられますから!」
「夫の仕度を手伝うのも妻の務めではないの?」
「そういうのは花宵とかそういう貴族です!私は自分で着替えられます!」
誓って言うが、ついなは十八の健全な青年である。
そりゃ、全く嬉しくないわけではなくむしろ嬉しいのだが、手を握るのだってもう胸が早鐘のような状態になるのに、いきなり着替え、好きな女性に着替えを手伝って貰うなんて耐えられる自信が無かった。
ここに花宵がいれば「え、ちょ、待って!?」と、ついなの様子に驚愕の声を上げていただろう。
「そう。……わかったわ」
「あの、嫌なわけじゃ、無いんですよ?」
「…………」
「ただ、その、なんというか、えーと」
言いあぐねるついなに、東雲は無言で立ち上がる。
「東雲…………?」
様子を伺うようについなは、東雲に声を掛けた。
立ち上がった東雲は特に怒った様子もなくついなを振り返り、言う。
「朝餉、食べないの?」
「頂きます」
「じゃあ準備するわ」
器によそるだけ、ではあるけど。
東雲が出ていくと、ついなはぐってりとその場に突っ伏した。
「……………………」
重ねて言う。ついなは性格に難あれど健全な十八の青年である。
今さらそちらの知識が無いわけでも絶対無い。着替えなどそちらに比べれば全て脱ぐわけでもあるまいし、色めいた雰囲気など皆無。ましてや東雲である。言葉通りに着替えを手伝うだけで、それ以外の意味など欠片も無いに違いない。
だがしかし、東雲、なのだ。
「まさかこんなになるなんて…………」
東雲に、恋をしている。
他の誰が同じ事をしようとどうでも良い。けれど、彼女の一挙一動に、自分は揺さぶられ覚束無くなる。
自分がこんな風になるなんて、予想もしていなかった。
確実に妻にと乞うた時よりも急激なくらい、恋い慕っている。
一目惚れはきっかけに過ぎない。
「…………」
真っ赤に染まった顔を隠すように、ついなは片手で顔を覆った。
―――― 好きです。
可笑しいくらいみっともない。風に舞う木の葉よりも頼りなく不安定。
これまでも恐らくこれからも、彼女以外に自分をこんなにおかしくする人はいない。
深刻化する病の名は恋。
今まで、恋し焦がれて死んだとかいう話を大袈裟だと思っていたが、自分が間違っていた。
これは死ぬ。
もし今、東雲と二度と会えないとかになったら、狂い死ぬ。それは半ば当たり前のように心に浮かんだ。
頬は未だに朱を帯びて熱い。
ついなはノロノロと着替えに這い出し、嬉しさと情けなさの入り交じった溜め息を吐いた。
妻らしい事をしようと思ったのに、しなくて良いと言われてしまった。
朝餉の膳を整えて、東雲は緑の瞳を伏せる。
「何が駄目なのかしら……何が足りないの?」
ぽつりと呟き、東雲は庭へと降りた。
そろそろ陽も上にくる。軽く地を蹴り、空へと舞い上がれば、いつもついなが出仕している大内裏が見えた。ついなはまだ部屋から出てこない。
東雲はそのままふわりと大内裏へと向かう。
花宵の所に行って相談してみるのも手かと思ったのだが、その前に陰陽寮へと東雲は降り立った。
常人には東雲の姿は見えない。東雲が意識して見せようとすれば常人にも視認できるのだが、そうでなければ精霊を見ることが出来るのは見鬼と呼ばれる資質を持っている者だけ。
だから、こうして寮の庭に女性が降り立っていても誰も騒がない。見えないから。
見えないのは、いないと同じ事。
ふと、東雲は思った。
ついなも、見鬼の資質がなければ東雲を見ることはなかっただろう。
そうしたら、彼に妻になってくれと言われる事もなかったのだろうかと。それは当たり前なのに、何故か心に影が差す。
まだ妻にと乞われて受けたあの時からそれほど長い時間が過ぎてはいないのに、自身でもわからない感情が増えた。胸が締め付けられるような感覚があったかと思えば、急に顔が火照るような熱が生まれる。めまぐるしく浮かんでは消え、そしてまた押し寄せる波のような感情。
時に不快で、時にそっと手のひらで包んで慈しみたい何か。
「…………ついな」
ぽつりと口に出す名。それだけで、人間のような身体ではない筈の自身の胸で高く鼓動があるような感覚を覚えた。口にした名は、甘露と呼ぶには苦いけれど。
名を呼んだ声が溜息に変わる。
どうすれば、もっと近づけるのだろうか。
そんな事を考えていると、不意に視線を感じてそちらへと顔を向ける。
そこには東雲を睨みつける一人の青年がいた。年はついなよりも二つもしくは三つほど下だろう。
睨み付けてくる青年は、東雲が気付いた事で一層忌々しそうに東雲を見て、口を開いた。
「こんな所にまで入り込むとは、厚かましい異形だ」
「…………?」
異形、と言うのが自分の事を指しているのだろうというのは東雲にもわかった。けれど、厚かましいとはどういう事なのかがわからず首を傾げる。
「おぞましい。気味の悪い。何故兄上はこんなものを……」
嫌悪感を隠しもしないその黒い瞳には、浅葱色の髪と緑の瞳の自分。
「兄上……?それは、ついなの事?」
「軽々しく呼ぶな異形。どんな邪な術で兄上を誑かしたか知らぬが、そのようなものすぐに破って正気に戻してやる」
「私は何もしていないわ」
むしろ何かしようとしても断られるのに。東雲は不思議そうに首を傾げる。
「そんな筈がないだろう!そうでなければお前のようなもの、式として使うのが当然だと言うのに妻になどしようわけがないのだから」
青年の言葉に、東雲は目を瞠った。
十二
ついなは食べ終わった膳を片付けて部屋で書でも読もうかと廂へと足を踏み入れた。
空には雲ひとつなく、蒼が一面に広がっている。
「良い天気ですね。書の虫干しでもしようかな」
ようやく立ち直って部屋から出たら、東雲の姿は既に無かった。用意された膳は勿論美味しかったのだが、ついなはもっと早く行かなかった事を後悔しながらそれを食したのだ。
「ついな」
「うわぁ!?」
まだ昼なのに黄昏ていたついなは、何だか慨視感のある事態に思わず肩を竦ませるも振り返る。
「東雲……おかえりなさい」
萌黄色の長い髪は日の光に透けていつ見ても美しい。白い肌も緑の瞳も。
そんな事を思って懲りずに見惚れそうになっていたついなの意識は、次の東雲が発した言葉によって砕かれた。
「私は、妻ではなく『式神』として必要とされているの?」
「―――――――― は?」
深い森の緑を宿した瞳はただついなを見ている。そこには怒りも何もない。きっとこれは唯の問いで、確認だ。
けれど、
「誰がそんな事を君に言ったんです?」
ついなの声はそれまで東雲が聞いた事の無いほど怜悧で冴え冴えと、全てを凍えさせようとするかのように冷たかった。
声を荒げられなくてもわかる。殺気と同等の、怒気だ。
「質問しているのは私よ」
「そうでしたね。では答えは、『有り得ない』です。今度は私からの質問に答えて下さい。誰が、君に、そんな『有り得ない』戯言にも劣る侮辱を、吹き込みました?」
後半が一言一言区切るように発される。黒いついなの瞳孔は大きく開き、まるで虚無の入り口のようだった。
精霊は自然の気が凝ったもの故に、人の感情の機微に疎い所がある。東雲も例に漏れずそうだから、色々とわからずに苦戦している現状のわけなのだが、その彼女にも今のついなの発する不穏極まりない何かは感じ取れた。
自分に向けられているのではないけれど、これは何かまずいのではないかと、そう感じて。
「東雲」
黙ってどうしようかと躊躇っていた東雲に、ついなが逃がさないと言うかのように名を呼んだ。
うっそりと微笑むついなの顔は瞳に宿る何かと雰囲気を気にしなければ、とても優しそうに見える。
ただし、気にしなければ、の話だ。
「…………名前は知らないわ」
「では、どこでお会いになりました?」
「……陰陽寮」
「正確に、言われた事を言って頂けますか?」
黒い瞳は全然笑わない。微笑だが、笑みはどこに行ったのか。
自分の質問に答えたのだから、今度は相手の質問に答えるという義務が生じてしまっている。それは契約と同じく、互いに対価を支払わなければならない理だ。
いつものついなと違う様子に東雲は戸惑いながらも、その義務に従って陰陽寮で言われた言葉を繰り返した。
「そうなのかと聞いてみたら『そうでなければお前のような異形のどこが人間の姫に勝る。その力以外にお前に価値などないではないか。勘違いするなよ、化け物が』と言っていたから。……それなら別に、それでも良いし、ついなの妻ではなく式神としてなら力になれるから」
「…………―――― 東雲」
「はい」
「ちょっと、出てきます。帰りが遅くなるかも知れませんから」
「ついな?」
聞き終えたついなの顔からは、一切の表情が抜け落ちていた。人間、表情がないとここまで無機質になるのかという見本のような顔だ。
流石にこれは冗談ではなく危ない。そう感じた東雲は咄嗟についなの腕を掴む。
「東雲、どうしました?」
キョトンと目を瞬くその様子はいつものついなに戻っている。けれど、東雲は言い知れない胸騒ぎに掴んだ手にぎゅっと力を込めた。
「何をするつもり?」
ふわりとついなが微笑む。東雲に向ける微笑はもう完全にいつものものなのに。
「すぐに終わらせますから、東雲は何も心配しなくて大丈夫ですよ」
「私は、そう言うことを聞いているのではないわ」
「申し訳ありません。言ったら止められそうですから、言いません。止めないと約束して下さるなら、お話しますよ?」
「私が止めるような事をするつもり?」
「東雲は、優しすぎます。その場で、八つ裂きにしてきても良かったのに」
こいつ何か言った!と東雲はそこに混じった不穏な言葉に思った。
「……東雲、私はそんなつもりで君に妻問いをしたわけでは絶対にありません。信じてくれるなら、この手を離して下さい」
諭すかのように優しく言うついなに、東雲は唇を噛んだ。
そんな事を言われたら、精霊である東雲は手を離すしかない。信じないとするなら、精霊はその全てが信じられなくなってしまう。精霊は嘘はつけない。人とは存在する理が違う。
その心、魂だけが存在を形作っている。だから、自分を偽れば歪み、やがて壊れて消えてしまう。その人を信じないと言ってしまったら、本当にもう信じられなくなってしまうのだ。
離したくないと思っても、東雲はついなを信じるなら、ついなの気持ちを信じるなら、手を離すしかなかった。
指先が震える。そんな事は初めてだった。
東雲の手が腕を離すと、ついなは優しく微笑みかける。
「ありがとう。すぐですから、待っていて下さい」
そう言って、ついなは家を出た。
花宵は女装ではなく、普通の装束、つまり自分の部屋着である直衣を纏って一息ついていた。先ほどまで顔を合わせていた客も帰り、ようやくの休息だ。
「はー……。さて、暫くはゆっくりと」
「花宵!」
「え」
自分の名を呼び捨てる若い女性の声に花宵は思わず声の方を見た。
「東雲殿?」
欄干越しに天女のような衣の、友人の妻となった女性が切羽詰った顔で浮いていれば何かあったのだと想像に難くない。
急いでそちらに寄ると、東雲はどうすれば良いのかわからないという瞳を向けて花宵に懇願してきた。
「ついなを助けて!」
「ついな?何があったの」
「わからない。けど、普通じゃなかったわ」
「落ち着いて。何がどうなったのか、ゆっくり話して」
焦りを抑えて東雲が語る経緯を聞く内に、花宵の顔から血の気が引いていく。
これはまずい。よりによってついなの逆鱗に触れる所ではなく、逆鱗を引っぺがしたに近い事態だと花宵は確信する。
しかも『兄上』と言っている時点でついなの弟であるのはわかっているわけだ。ついなは吉野の長男で、その下には弟妹がいる。陰陽の名家に上げられるくらい、資質のあるものを輩出する家であり今もついなの三つ下の弟が確か陰陽寮の天文生として在籍しているはずだ。
そして東雲に暴言を吐いたのは間違いなくこの弟だろうと、花宵は頭を抱えたくなった。
「まずその件の人物が今も陰陽寮にいるか確認を」
「居たわ。でも、ついなはそこに来ないで、気配が都から離れていくの」
「…………げ」
それは、もしかしなくても最悪の方向に進んでいるのではないか。
弟の言葉は、その者だけでなく、恐らくその取り巻くもの達の言葉でもある。周囲がそう言っていなければそこまで堂々と自分が正しいというかのような物言いは出来まい。
そして、ついなもそんな事はとうに気付いているだろう。
ならば、本人の所にいかないという事は、その大元からどうにかするつもりの可能性が非常に高かった。
「東雲殿、緊急事態です。恐らくついなは吉野に向かっているので、ついなが事を起こす前に瑞穂の所に行って下さい。私に緊急事態だから訪ねる様に言われたと言えば恐らく察してくれます!」
「わかったわ」
東雲が頷いて飛び去るのを見送り、花宵は踵を返す。こちらはこちらで、やることが出来てしまった。
―――― 大人しくしていれば良かったものを。
ついなは都に来た頃からの付き合いである少々大きな猫の背でそう考えて薄く笑んだ。
一応の義理と義務で、本家に妻を娶ったと報告した時にも腹が立ったが、あの時は彼女の耳をそんな言葉で汚さなかったからしばらく捨て置いていいかと保留していたのに。
「どうしても、今すぐ絶やしてほしいらしいですね」
産み育てられた恩があるから、思いとどまっていたと言うのにそれもわからず、よりにもよって直接彼女に。しかも自分の思ってもいない事を吹き込んだ。
腸が煮えくり返るくらいでは納まらない。
「どうしてやろうか……嗚呼、それこそ全員、本物の異形に変えてやろうか。ただ絶やしても面白くない」
完全に台詞が悪役のものだ。
猫の背で暗い笑い声を響かせて山道を進む様子はもうむしろ調伏対象にしか見えないだろう。
「こら待て、そこの馬鹿」
疾走する猫の前方で、木々の梢を揺らして風が渦巻いた。
猫が渦巻く風の前で足を止め、風が収まったそこには瑞穂と東雲、そして瑞木の姿がある。
「そこを退いて下さい?」
微笑みながら猫の背に腰掛けたままついながそう言う。
「できるか馬鹿。どういうつもりだ」
「どういうつもりも何も……瑞穂、わかるでしょう?」
「そうじゃない。お前、わからないのか?」
「?」
瑞穂が憤懣やる方ない面持ちで、首を傾げるついなに一瞥を投げ、顎をしゃくって見せた。ついながその先を目で追い、そして固まる。
「しの、の、め?」
「……………………」
先ほどの風は彼女が操って瑞穂達を運んだのだろうとは思っていた。だから、彼女がここに居る事も驚かない。
けれど、そうではなくて。
「東雲、どこか痛いんですか?どうしたんです?」
痛みを堪えるかのように、苦しそうで辛そうな表情の彼女がそこにいて。
「ついな最低ー。しのちゃんが可哀想じゃない」
「え」
じとっとした瑞木の視線と言葉に、どうやら東雲のその表情の原因は自分らしいと知れて、ついなは慌てて猫の背から降りて東雲の側へと駆け寄る。
「東雲?あの、どうしてそんな顔を」
そっと心配げな顔でついながそちらに手を伸ばすと、東雲はその手を避けた。
避けられた!とついなは内心衝撃を受けたのだが、瑞穂はそれを横目にぽつりと言う。
「当たり前だ。この、馬鹿」
「あの、何で」
ついなは東雲の様子と瑞穂の言葉におろおろとうろたえる。
助けを求めるように瑞穂と瑞木を交互に見れば、真冬の氷の如き視線が瑞穂から。
「東雲殿が、お前の様子がおかしいと、必死の様子で駆け込んできた」
「…………」
「話を聞いて、私達にはお前が何をしようとしているか検討もついた」
「…………」
「で、だ。…………何やってる?」
「しのちゃんを、こんなに不安がらせて」
神社組からの突き刺さるような視線と言葉。黙った東雲の変わらぬ辛そうな表情。
「東雲、私は」
じっと見つめてくる緑の瞳は不安に揺れている。
「ついな、馬鹿な事をする前に、お前はやらなきゃいけない事があるんじゃないか?」
「しのちゃんに、言わなきゃいけない事、あるんじゃないのー?」
瑞穂と瑞木の言葉に、ついなはわけがわからず二人を交互に見遣った。
「東雲殿に」
「なんで妻問いしたか」
「その訳と」
「気持ちー。言わないからこんなにしのちゃんが不安になって、こんな事になったんじゃないの?」
瑞木が東雲に抱き着いて頭を撫でる。
ああ!私だってそんなのした事無いのに!ついなはそう思って羨ましがりそうになったが、瑞穂の視線がそれを許さなかった。
「ついな」
視線だけでなく、声まで氷点下で吹雪いている。
「お前がやろうとしている事も、東雲殿が喜ぶような事だと思っているのか?」
「これは私が嫌なんです」
「ほぅ、つまり、お前は東雲殿の気持ちなんて総無視しても構わないと、そう言いたいわけだ?」
「違います!」
「違わない。違うなら、もっと先に東雲殿の気持ちになって言うべき事とか聴く事があるんじゃないのか?」
「しのちゃんが人間の妻らしい事しようとしても断ったんですって?理由も言わずに」
「それは!」
「ついな」
再度、瑞穂はついなの名を呼んだ。
既に眼光声音共に極寒である。
「わ・か・った・か?」
「はい……」
瑞穂と瑞木の猛攻に、ついなは心中ズコズコと土に埋まる思いだ。
「よし。じゃあ帰れ。今すぐ帰って東雲殿にわかって貰えるまで話して、…………東雲殿の気持ちもちゃんと聴け」
瑞穂はそう言って溜め息をつき、待ちぼうけをしている猫の方へ寄った。
それを見てから、瑞木は東雲の頭を撫で頬擦りをして。
「ちなみについな、そもそも私の守護する地で禍事起こさないでよね!まったく」
「まだやってません」
「だからやるなって言うの。それから、非番なら何でしのちゃんの為に一日使おうって思わないのよ。こんな所に来る暇あったら、ついなが目覚めるまで付き添ってくれたしのちゃんにお礼言って、目覚めるまで居てくれた意味考えなさいよね!」
「え」
ついなが何かをいう前に、瑞木は東雲から離れると、猫の背に跨がった瑞穂の後ろにちょこんと横座りする。
「お前は東雲殿に送ってもらえ」
「瑞穂はここから吉野までなんて歩いて帰れないから、この子借りるわよ」
「ちょっと待って下さい!」
しかしついなの声は綺麗に無視され、瑞穂と瑞木を乗せて猫は走り去って行った。
残されたのはついなと東雲の二人だけ。
「…………」
「東雲…………あの……一緒に、帰ってくれますか?」
ついなの恐る恐るな声かけに、東雲は曇った表情のまま、小さく頷いた。
風に乗せて運ばれるのは初めてで、けれどついなは景色よりも黙ったままの東雲の方が気になっていた。あれから一言も東雲が口をきいてくれていない。
猫の背とは比べ物にならない程の速さではあった筈なのだが、家の前で下ろされるまでついなはほとんど負荷を感じなかった。東雲が注意を払ってくれたのだろう。
だけど無言。家に着いてからは顔を見てくれない。
ついなはどうすれば良いのかと、戸惑った。
「東雲」
無言で玄関をくぐり、家に上がるその背に声を掛ける。
「話し、してくれますか?顔……見せてくれますか?」
東雲は無言で家の奥に進んで行く。無言は肯定で良いのだろうかと、ついなは後に続きながらどう話せば良いかと考える。
「ついな」
ぽつりと聞こえた呼び声に、ついなは思わず姿勢を正す勢いで返事をした。
「はい!」
出たときはまだ高くあった太陽も、今は西に傾き辺りを茜に染め上げている。
そんな中で、東雲の表情は変わらずつらそうに歪んでいた。
「私は…………私、式神として迎えられたの?」
「違います!それは先程も」
「そうね。違うと言ったわね。なら、どうして『何もしなくて良い』の?」
何もしなくて良いのなら、居ても居なくても一緒にしか思えなくて。恋をしたと、自覚した時からどんどん不安になっていった。ついなが妻にと言ったのは、本当に妻としてなのか。陰陽寮で式神の話しをされた時、少しほっとした。だってそれなら『理由』になる。
けれど、確かめた所でついなは違うと言った。また、わからなくなった。
「東雲」
「わからないの。何もしなくて良いのなら、何故、私なの」
人間の事なんかわからない。興味なんてなかった。風の精霊はただ風と共に世界を廻るだけ。
時折気まぐれ、暇つぶしに人間の世へ目を向けても、それはただそれだけで。
妻になるというのは、どうすれば良いの?
考えて、試してみるけど、どうしてか失敗してばかり。しなくて良いというのは、失敗してばかりいるから?
「東雲、東雲、聞いて。聞いてください」
苦しい。苦しい。心が軋む。悲鳴を上げる。不安が暗い手を伸ばす。捕まってしまう。
「好きです」
目の前が暗くなりかけたその刹那、引き戻したのは東雲の手よりもまだ一回り大きいかどうかの、ついなの手。東雲の両手を包むように、けれど決して離さないというように強く握る。
暖かくも冷たくもない、体温などない精霊の身体。その手を、暖かい手が包む。
それだけで、何故か東雲は視界が滲んだ。
いつの間にか、すぐそこに、ついながいる。東雲の手を握って、祈るような願うような真摯な黒い瞳はどこまでも真っ直ぐで。東雲を見つめている。
「好きです。君の事が、ずっと前から。初めて君を見た時から、いつか絶対に私の妻にすると決めていた。私の妻は、君だけだと決めていました」
黒い瞳が見たことのない光を宿していた。真っ直ぐに、けれどずっと見ていたら引き込まれてしまいそうなほど深く底の見えない、そんなぞっとしない光。
怖くなって、東雲は本能的に一歩下がろうとしたけれど、しっかりと掴まれた両手にそれは叶わない。
「なん、で?」
「一目惚れです」
「う……そ」
「嘘なんてつきません。誰が信じなくても、君が信じてくれなくても、私は、君に一目惚れしたんです」
滲む視界の中で、ついなも滲む。ただその眼差しだけが強く、ただひたすらに東雲を捕えて放さない。
「ずっと、触れたかった。こうして、触れる事が出来るだけで、…………君が私を、私だけを見てくれるだけで、幸せで」
「…………!」
ついなが包むように握った両手の指へ唇を寄せた。白く細い指に、熱い温度が落ちる。
顔を上げたついなの瞳にあるのは、唇よりも熱いもの。
「舞い上がっていて、本当に、幸せで。だから、他には何も……『今は』いらなかったんです。でも、それがちゃんと伝えられていなかったから、君を傷つけた。ごめんなさい」
人間の欲なんて際限を知らないものだから。どこかで歯止めが必要で、急激な感情で振り回したくなかった。けれど、それは自分の都合だったのだとついなは思い知った。
目の前で大きな瞳に涙を溜める最愛の人。もっと早く、ちゃんと伝えるべきだった。
「ごめんなさい。何もしなくて良いなんて言って。ちゃんと言えば良かった。……私の傍に居て下さい。どんなに離れてもいいけど、絶対に私の所へ帰ってきて。私の名前を呼んで。手を握りたい。抱き締めたい。これからずっと、一日に一度は触れ合っていたい。それから……」
「…………っ」
吐息の掛かるほど近い距離で、ついなは東雲の瞳を見つめる。熱に浮かされたような瞳と、茜にも勝るほど染まった頬。その全ての感情はただ東雲にだけ向けられていて。
「君の全てを私に下さい。最期まで私の道連れになって」
錯覚なのに、東雲の胸で鼓動が跳ねた。
そして理解する。
ずっとわからなかった、恋のきっかけ。
そう。私は、と東雲は思う。この言葉を聞くまで、ついなを見ていなかった。
この、言葉。
『最期まで道連れにして差し上げます――――』
人によっては狂気のような、この言葉を聞いた時から、恋に落ちた。
「好きです。私の全てを差し上げる。だから、君の全てを私に下さい。私は絶対に、君を独りになんてしない。君を他の誰にも渡してなんてやらない。最期のその瞬間まで、君を道連れにする。ただ独り残す事なんて絶対にしない。だから、私の妻になって下さい」
両手を包んでいた手は、今は指を絡めて。逃がさないと言うかのように。
絡めた指は熱く、心を絡めとって逃がさない。狂気にも似た鮮烈な感情は震えるほどに妖しく甘い光りを瞳に宿す。
「…………私は」
「はい」
「人間のように、数十年では死なないわ」
「はい」
「でも、何事にも絶対はないの」
「そうですね」
「もし、ついなよりも私が先に消える時が来たとして、私は、嫌なの」
東雲は、自分でも我が儘だと自覚していた。これは、本当にただの我が儘。
「あなたに、消えて欲しくない」
独り残されるのは嫌。だけど、ついなを自分の消滅に引きずり込むのも嫌だった。
「人間なんて、生きても百年余りじゃない。嫌なの。それだけの時間なのに、私が消えた時に、あなたの命が消えるのは。嫌なの」
こんな我が儘、ふざけるなと言われても仕方ない。けれど、それが一番怖い事なのだ。
東雲は震える声でついなに言う。
「嫌なの。失いたくないの。―――― 好きなの」
ぎゅっと目を瞑る。どんな罵倒でも怒号でも仕方ないと、東雲は覚悟を決めて。
そんな東雲を見つめ、ついなはそっと囁いた。
「なら、私は君が消えても、残りの生を全部まっとうします。君が消えても、生きて、ずっと君を忘れない。君だけを想って残りを生きます。君の墓を作って、いつか自分の命が終わる時まで絶対に生きる。私が君より先に逝く時は、君を道連れにするけれど」
甘く優しい囁きに、東雲は緑の瞳を開いた。そこには、変わらぬ熱の瞳と慈しみ。
「だから東雲、私の妻になってくれますか?」
呆れるほど無邪気な、けれど違える事は決して無いと誓うような笑みだった。
「東雲、私に愛される覚悟はありますか?今度こそ、逃げる機会はあげませんよ」
下がろうと思えば下がって逃げられる時間は過ぎた。絡められた熱い指先は、いくら逃げようとしても、もう放さない。
これが最後の逃げる機会。人間の愛は深く重く、一度受けてしまえばもう手遅れ。この手から逃れる事など思いもしなくなってしまうのだから。
「東雲」
「意味をわかって言っている?私は自分が先に死んでもあなたを連れて行かないのに、あなたには、あなたが終わる時に一緒に連れていってと言っているのよ」
「勿論ですよ。言ったでしょう?」
ついなは東雲の顔を覗き込む。幼子に言うような優しく暖かな声で答えを返す。
「君を誰にも渡さない。残して行くなんて有り得ない。君が居なくなった世界なんて意味はないけど、君の思い出があれば人間の寿命なんてすぐです。寂しくて、もしかしたら無理矢理、安らかに逝った君を引き摺り下ろして甦らせてしまうかも知れないけど、それは許して下さいね」
滅茶苦茶な事を言っている。けれどついなは本気だ。
「私がそんな事をしなくて良いように、私の寿命が来るまで、生きて下さい」
晴れやかな笑顔は正反対の妖艶さを纏って東雲を捕らえる。
「東雲。私の妻になってくれますか?」
黒い瞳に魅入られる。げに恐ろしきは人間と、人間以外の者は口を揃えて言うだろう。
絡め取ろうとする指先を、東雲はぎゅっと握り返す。
握り返された指先に、ついなは息を呑み、破顔した。
「最期まで、道連れにしてあげます。私の全てを君に。そして、君の全ては私のもの。もう逃がさない」
「…………馬鹿だと思っていたけど、違ったわ。底抜けの大馬鹿だった」
「すみません」
「ついな」
「はい」
指先を握り返したその時から、もう東雲は震えていない。
ついなの黒い瞳を真っ直ぐ見据える。
「好きよ。あなたの事が、…………好き」
今度こそ、はっきりと東雲は言って、花開くように笑顔になった。
ついなは一瞬、茜よりも赤くなって固まったが、そっと東雲の耳元に唇を寄せて何事かを囁く。
それを聞いた東雲は瞠目し、ついなを見つめた。
ついなは微笑む。そして東雲の額に自らの額を合わせて密やかに囁く。
「これで私は君のもの」
何かを企むような不敵な笑みを浮かべて東雲を見る。
東雲は緑の瞳を瞬いて、嬉しい心を余さず映した笑顔でやはり何事かを囁き返す。
「ついな、大好きよ。これで私は、あなたのもの」
二人は顔を見合わせて、額を合わせたまま嬉しそうに恥ずかしそうに、子供のような笑顔で笑い合う。
互いの髪が擽ったくて、クスクスとどちらともなく声を溢す。
甘く睦まじい空気が流れ…………、
「ついな!東雲殿!帰ってる!?」
無残にもついなの短い至福は終わった。
「っ――――!?」
「花宵?……お客様ね」
「東雲!?」
しかも東雲はあっさりと指をほどいて来客を迎えに行こうと歩きだす。
―――― 今のはもしかして全部夢!?
ついなはその場に座り込み俯いた。
今の今まで割りと良い雰囲気だったのに!?と。
そしてその至福に終わりをもたらした友人が、
「ちょっとついな!君なにをやって…………え?」
「花ー宵ぉー…………」
来れば当然矛先はそちらに向かうわけで。
「つ、ついな?ちょ、何か呪われそう!?」
やだ何この子こわい。そんな様子の花宵へと、ついなは目の笑っていない笑顔で首を傾げる。
「ちょっとお話ししませんか?」
「いやー!」
「待ちなさい」
逃げる花宵と追うついな。
東雲はそんな二人を見て、笑った。
東の空に映る色は茜。暁と茜は、東雲色とも言うそうな。
終




