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幻の風  作者: 水降 恵来
1章
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始まりは日常の中に

 季節は夏。とっぷりと日が暮れたものの、日本特有の蒸し暑さが支配する一室では、パソコンのキーを打つ音だけが響いていた。男は眼鏡を外し、椅子の背もたれに寄りかかりながら、大きく伸びをした。そして、しわの寄った眉間をほぐしながら、溜息をつく。

「全く、何でこんなことになったのやら」

 男の名は木下恵悟、理系の学部に所属している、大学四年生である。歳は二十一、岩石鉱物学を最も得意とし、現在気象学を専攻している。サークルでは、空手道部に所属し、週に三回であるが、学内の武道場にて修練を積んでいる。とはいえ、身長も百七十センチに届かず、筋肉もさほど付かない体が武道に向いていないことを男は重々理解している。しかし、未だに続けているのは、一種の惰性と習慣であった。

 そんな男が自室で何に参っているのかというと、その卒業論文についてである。元来、得意な岩石鉱物学について研究し、卒業論文を作成する予定だったのが、今年の春、研究室の都合で急遽、畑外の気象学での論文作成に変更になったのである。それにより、毎日が辟易とし、憂鬱な日々となっている。

 男は盛大な溜息を一つつくと、今日もまた退屈な一日だった、と一日を振り返りながらパソコンを閉じ、ベッドに向かう。そして、何時ものように聞きなれた音楽をかけたまま床につく。この眠りが、男の人生を大きく変える原因になるなんて考えもせず、睡魔に導かれるまま、深い眠りの中へと落ちていった。


「ミツケタ」

 男だけでなく、地域の人々が眠りについた頃、幼い子どものような一つの声が男のいる部屋に小さく響いた。その声の主は、男の上を漂う、小さな小さな光の粒であった。

 男が目覚めていれば、何かしらの反応を示しただろう。しかし、男は深い眠りについており、全く気づく様子はない。そんな男の胸元に光が舞い降りると、光は徐々に大きくなり、男を包み込んだ。その直後、光が消えた。

 そこに寝ていたはずの、男と共に。

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