副隊長との再会
西暦2020年、アメリカ合衆国海兵隊士官候補生学校が私とジャックの出会いだった。
2人はあらゆる事で競い合った。
確かに戦友と呼べる間柄になっていった。
それでもブートキャンプを卒業後は違う道を歩んでいったのだ。
・・・2人が再び再会したのは、新しい特殊部隊が設立されたからだった。
そこで、私、スギムラジュンは隊長に任命され、奴は副隊長に任命されたのだった。
おしまい。
「・・・で再び会ってしまったと?」志保は言う。
「おかしいな。準が会うならともかく、円が会うなんて。・・・・しかも日本で。」
私は首をかしげる。
「第1声がプロポーズとか。」
昨日は悪夢だった。
ジャック(当然まだ若かった)は私に結婚してくださいとか言うから慌てて逃げ帰ったのだ。
ここは教室である。
昼食時間であり、私は志保と昼食を食べていた。
「でもちょっとかっこよかったね。彼。」
「勘弁してくれ。なんで連れションまでしてた奴からプロポーズされなきゃならんのだ。」
そのプロポーズという言葉にクラスの女子が反応した。
「え?水沢さん、そういう話あるの?」
「令嬢ですものね。」
本当に困った。
ジャックとの(本当の)関係の説明なんて出来る訳がない。
奴は親友で戦友でライバルで部隊の部下だった。
でも私、「水沢円」にとっては全くの他人である。
また、現時点での杉村準も会っていない。
接点が無いのだ。
だから私が奴について説明したのは、「突然プロポーズしてきた変態外人」だった。
志保はその間空気を読んで黙ってくれてる。
まあ実際、突然プロポーズしてきた変態には違いないのだ。
「それって危ないんじゃない?」
「お父様に言って、送迎してもらうことにしたから大丈夫。」
父親に言ったら速攻でガードを付けてくれた。
相変わらずの溺愛っぷりだな。あの親父。
今も校門で屈強のガードマンが何人か目を光らせている。
あーあ、先生までびびってるよ。
「あんな風に脅しまくるのもどうかと。」
・・・昔の自分だったら簡単に突破してきてるんだろうな・・・とちょっと感慨にふけってた。
見れば分かる。彼らはプロだ。
多分自衛官か外人部隊あがりだな。
親父の雇った相手だから履歴書見れば分かるが、私はそう見当を付けていた。
だが、それ以上にジュンスギムラ中佐は強かった。と自負している。
今となっては彼は2度と現れない。歴史は変わったのだ。
そう思いながらあたりを見渡すと、ちょうど彼らの死角の木の枝にジャックが座ってるのが見えた。
まっっっったくあいつはっっ・・・・。
もう突き止めやがった。
私は携帯を取り出してボディーガードに電話した。
男が携帯を取るのが見える。
「お仕事、ご苦労様です。」
「お嬢様?もうお帰りになられるのでしたら、車を用意いたしますが。」
「いえ、まだそれには及びません。ただ、貴方たちのすぐ近くの木の枝に何かがいるのが見えまして。」
「え?!」
見ると木は完全に包囲され、仕方無くジャックは降りている。
思わず笑みを浮かべてしまう。
「お嬢様。」
「聞いています。」
「この少年、この学校の転校生のようでして。」
「は?」
おもわずアホみたいに立ち上がって聞き返した。
余程変な声だったらしく、びっくりして級友も私をみてる。
「転校生のようです。」
もう一度繰り返すボディーガード。
「・・・・そうですか。職員室に突き出してください。」私はそう言うと携帯の通話を切った。
マジかよ。なんであいつ、転校してきたんだ?
単なるストーカー行為なら一番考えられるのは「私」という女絡みだが・・・・・転校となると・・・・・。
チラリと志保と話している準を見る。
まさか・・・・ね。
午後の授業前に緊急に転校生の紹介が行われた。
先生は今にも切れかかりそうだ。
転校初日に大遅刻をやらかした張本人、ジャックはニコニコと黒板前に立っていた。
大胆不敵さはあの頃と変わらない。
・・・だから副隊長に指名したのだ。
「ジャックエレメス君だ。仲良くするように。」
「疲れた・・・。」
私は水沢本邸の玄関ドアの前で、おでこをドアにくっつけてつぶやいた。
奴には、ジャックには参った。
あの後、私を見つけたあのナンパ野郎は速攻で飛んできて美辞麗句を並べ立て、他の水沢円ファンクラブの連中から顰蹙を買っていた。
かろうじて笑顔でやり過ごしたが、限界に近い。
やべえ、あのクソバカをすごくぶん殴りたい・・・・。
私は頭をふって家の中に入った。
・・・その晩、我が親父殿から驚愕の事実が告げられたのだった。
どこで運命が絡まってるのか、奴がこの私、水沢円の許嫁という衝撃の事実が・・・・。
さすがにあ然とせざるを得なかった。
水沢円は10歳で病死した少女だ。
もし生き延びてたらという選択肢に私自身の立場がおかれている。
だがもし、私自身が杉村準の時に、病死せずに生き延びてたらジャックは海兵隊に行かなかった可能性がある。
つまり私とジャックが出会ったのは海兵隊では無く、この学校でという可能性もあったかも知れない。
だがそれはあり得ない未来だった。
今なら良く分かる。
水沢円は病弱などでは無く、最初から、この世に生まれた時から魂が入っていないのだ。
だから私が入り込めた。
だから、あの水沢円の死は既定事項であり、決して逃れられる運命では無かった。
・・・この親父が糸を引いてるってことは、奴が我が校に転校してきたのは偶然では無く必然だったということか。
「なぜ私の許嫁がジャックさんなのですか?」もう一つ聞きたかった事を聞いてみる。
「私の親友である彼の両親との約束だよ。」
「約束・・・・。」
「もちろんイヤなら断る。でも彼の人となりを知ってもいいんじゃないか?」
よ~く知ってるけどな!
親友でありライバルであり、部下だったんだから。
だがそれを主張できるはずもない。
「・・・はい。分かりました。」
私は親父の書斎を出て、大きく溜息をついた。
自分の部屋に入った私はそのままベッドに倒れ込んだ。
「・・・・勘弁してくれ・・・・。」
「お前いい加減にしないと基地外出禁止令食らうぞ。」
俺は呆れて直立不動しているジャックに言った。
「お前も知ってるだろ?沖縄はまだまだあいつらの影響力が強い。地元の女にちょっかい出してレイプされたとか騒がれる可能性も否定出来ん。」
「・・・済みませんでした。中佐。迷惑かけて。」
「楽にしてくれ。お前の上官としてじゃなく個人的に言ってるだけだから。」
ここは夜の米海兵隊普天間基地である。
そして自分の部屋にジャックを呼び出していた。
「そう言えば、・・・お前は会った頃からナンパばっかりだったな。」
俺は日本酒をジャックのコップに注ぐ。
「お前には話してなかったな。準。」
「何を?」
「俺には許嫁がいたんだよ。もう死んでしまったけどな。」
「・・・まさかと思うがそれでナンパ史上主義になったのか?・・・そりゃ意外だわ。」
いろんな意味で。
「そこまで深刻じゃないさ。」
出した酒の肴を食べながらジャックは言った。
「ただなあ。その頃思ったんだよ。あんな不幸な死に方は無いって。もっと自由であるべきだって。」
「ほう。」
「あいつみたいに最期まで病院に縛られて死にたくはねえ。そして人はいつか死ぬ。なら楽しむべきだって。」
そのあいつってのがジャックの許嫁だったんだろうなと何となく思った。
「その許嫁が死んだのっていつだよ。」
「俺が10歳ぐらい。」
「そんなガキの頃からお前そんなこと考えてたのかよ。」俺はタバコをくわえ、天井を仰ぎ見た。
「俺は・・・何してたっけなあ。・・・嫁さんと近所で悪さして遊び回ってたころかな。」
「お前は嫁さんと離婚したんだっけ?幼なじみとか言ってたよな。」
「ああ。・・・・・いろいろあいつにも苦労かけたけど・・・・。」
後悔していない。
危険を及ぼすわけにはいかない。
今は日本本土に居るはずだ。
あの時はそんなに突っ込んでなかったけど、あの時あいつが言った許嫁ってのが円だった・・・・。
どうやらあのまま寝てしまってたらしい。
すでに朝だった。
最近は結構昔の事を思い出す。(この時点からすれば未来だが)