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志保の残滓

(・・・・。そうか。)

私はやっと思い出した。

(ああいう死に方だったんだ・・・・。)

あの時、自分らが殺したあの敵も過去か未来で生まれ変われたんだろうか?

最後に自分を撃った彼女の顔を思い出す。

戦争なので殺らなきゃこちらが殺られる。

だから詮無きことだと分かってはいるのだ。

それに今の時空ではまだ起こっていない。

もっとも世界情勢は前世と似たような動きをしていた。

急がねばならない。

どうでも良い事だが授業中であり白昼夢を見てたらしい。

教師にもばれてないようなので、ほんの数秒だったのかも知れない。

(2030年6月20日か・・・・。)私は携帯で今日現在の日付をちらりと見る。

2014年5月12日 月曜日との表示が出ていた。

16年後に奴は死ぬ。

結構、いろんな事を考えていたらしい。

いつの間にか志保が目の前にいた。

「どうしたん?」

私ははっと我に返った。

すでに夕方になっていて、教室には私と志保だけが残っていた。

「私が・・・・準が、どうやって死んだのか思い出しちゃって・・・・・。」

志保は何とも言えない複雑な表情を浮かべる。

「・・・でもこれで、対策の立てようがある。」

             ○

離婚に際し、あたしは彼に秘密にしていたことがあった。

それは妊娠していたこと・・・・。

でもあたしはそれを彼に最後まで告げることが出来なかった。

彼・・・元夫の杉村準は対馬戦役で戦死してしまった。

あたしにとって、ほとんど妹みたいな感じの和花は兄の死に慟哭し、もはや涙も出ないって感じだった。

娘の栞は一度も父親に会うことも出来なかった。

この子を父親に会わせられなかったなんて、あたしは本当に酷い母親だ。

そして死んでしまうなんて、準は本当に酷い父親だ。

「お兄ちゃん・・・・。」

泣き疲れて和花は寝言で兄を呼んだ。

あたしは・・・和花を引き取ろうとも考えていた。


「離婚したあなたにそこまで負担をかけるのは心苦しいけれど・・・。」

準にとって祖母、栞にとっては曾祖母にあたるおばあちゃんが寝ている栞を撫でながら言った。

「・・・大丈夫です。和花もあたしにとっては大事な妹ですから。和花も賛成してくれました。」

志保は隣りに座っていた和花と目を合わせ頷き合う。

「志保さん。」おばあちゃんは言った。

「思いっきり泣きなさいな。」

「!!」あたしは突然の提案に衝撃を受け、そして泣いた。

いや、やっと泣けた。

「志保姉さん・・・。」

子供みたいに泣くあたしを和花が慰めようとしている。

「どうしたの?泣いてるの?ママ」栞も起きて慰めようとしている。

あたしはあまりの衝撃に泣くことが出来なかった。

でもやっと泣けたのだ。


「・・・という夢を見たけど。」

円は放心したようにあたしを見たまま固まってた。

ここは街中のカフェテラスだった。

私と円は帰り道にここによっていた。

「・・・娘が・・・いた?」

円はそうつぶやくように言った。

「俺の・・・・?」

「深窓のお嬢様が俺って言うのは問題でしょ。」

「え・・・ああ。」円は余程衝撃的だったらしい。

やっと我に返った。

「離婚したとき、内緒にしてたっぽいね。アレ。」私は言った。

「あれが、あなたが居た未来の私の記憶なら。」

歴史が変わってるのならすでに残滓というべきか。

円はぶつぶつと独り言を言ってる。

「確かに離婚するまえにやってたような・・・・。そうか、その時の子か。」

円の信者が聞いたら間違いなくショックを受けそうな独り言である。

「でもよく分からない夢を良く信じるね。円。」

「・・・魂の時空間移動は、私自身が実証してるから・・・・。」

円は一息ついていった。

「それは何月ぐらいだった?」

「6月か7月ぐらい?葬式の時、和花も夏服の制服だったみたいだから。」

「準が死んだのは2030年6月20日だよ。あの日・・・・何人の敵を殺したことか。」

円は感慨深げに窓の外を見る。

思い出してるのだろうか?その対馬戦役の事を。

それにしても結構ショックな日付だ。ますます信憑性が増すじゃないか。

最後にぼそっと円が言った言葉にも震え上がる。

その時、銃をもった2人組の男が突入してきた。

事もあろうにその2人は円を立たせて銃を向ける。

あたしを含めて、店内はパニックに陥った。

でもあたしは見逃さなかった。

円がしおらしく頭を下げていたにもかかわらず、ニヤリと笑ったことを。

            ●

それにしても驚いた話だった。

まさか娘がいたなんて。

私を拘束し銃を向けてるバカなアホは、外にいる警官と何事か言い合ってる。

(下手クソのくせに一丁前に銃だけは良い物を持ってる。)

見ると志保は席に座ったまま硬直していた。

(大丈夫。)私は安心させるようにうなずく。

警官との交渉に夢中になってたアホAの拘束が一瞬緩んだ。

私がこのチャンスを逃すわけが無い。

腕をひねり、床にたたき付け銃を奪う。簡単な話だ。

アホBはあ然とした。

私は銃を構えた。

「無傷で降伏か、無慈悲な制圧か、好きな方を選べ。」

「ふざけんなよ!女のくせに!その銃はお前には撃てねえよ!」

私は躊躇無く引き金を引き、アホBの持ってた銃をはじき飛ばした。

「女が何だって?良く聞こえなかったケド。」

「いや・・・・スバラシイウデデスネ。」

更に落ちてた銃に弾丸を当てて使用不能にする私。

良い銃で、もったいないけどね。

5発撃った所で犯人に返す。

「さあ、気絶してるそいつをつれて表に出るんだ。」

「わ・・・分かりました。なんてな!予備の弾丸ぐらい持ってるんだよ!」と言って構える。

「・・・お前も強盗の端くれなら銃の状態ぐらい把握しておけ。」

全く予想通りのお約束だ。

「銃口を見てみろ。」

私は溜息を付きながら、思いっきり侮蔑した言い方で警告する。

「まさか!!」犯人は銃口を見た。

その一瞬の隙を私は見逃さない。

渾身のケリがアゴにクリーンヒットする。

やっぱり体は女だ。敵のアゴを砕くまでには至らない。

それでも犯人は警官隊がいる方へ飛ばされ、あっという間に拘束された。

「銃口には何もつめられてなかった・・・貴様・・・。」犯人Bが言う。

「貴様、俺よりクレイジーだ。」

私は思わず笑ってしまった。

ニコリじゃなくニヤリと笑ってしまったことは自覚出来た。

職質にあったけれど、被害者はこちら側なのですぐに解放されて、自分たちが座っていた席に戻る。

見るとまだ志保はぼーっと座ってる。

「志保。」

「今のって、やっぱり?」

「ご名答。」

あれだけの戦闘を演じたのでさすがに回りの客はどん引きしていた。

世律州せりす学園高等部のお嬢様にまた一つ噂が出来た瞬間だとは理解していた。

「スバラシイ・・・。」だれかが私たちの席の所に立っているじゃないか。

「ワタシトケッコンシテクダサイ。」

は?と思わず顔を上げてその新手のナンパ野郎の顔を見て私は仰天した。

ジャック!!と思わず叫びそうになった。

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