(えせ)関西弁
「なんやの、お前」
小さな居間から、透がむすっとした声を出している。
「何が?」
やかんで沸かしたお湯をマグカップに注ぎながら、流は機嫌よく答えた。いつもよりほんの少し高めの紅茶である、というだけで、薄給の流はニコニコ顔だった。
二つ分のマグカップを持ち、台所から居間へと向かう。そうは言っても、ちいさな我が家。くるっと身体の向きを変えれば、五歩で居間だ。想像していた通り、透は成長期の体を無理くり折りたたみこたつに突っ込んでいた。顔は低く、机に突っ伏すような形で、あら、アナログの透くんにしてはめずらしく携帯いじっとるわー、とか流はエセ関西弁を心の中で唱えた。
「って!ちょっと!待って!それ僕の携帯!」
「あ?携帯チェックしとるだけや」
「だけじゃないよ!」
「なんなん、思い当たる節でもあるん?」
「いやないけど!マナーでしょ!マナー!」
自分の人生で携帯チェックされる日が来るなんてねー、流は怒りよりも驚きの方が勝っていて、ぽかんとした顔でこたつの上にマグカップを置いた。
「怒るってことは、なんや思い当たる節あるん?」
「ないよ…もう、携帯返して」
一応、怒った顔を作りつつ「はい、お茶」「ありがとおな」とつつがなく会話が進む。
あれ?返してくれないの?まあいっか、……
「怒らへんの?」
「え?何が?」
「俺、流の携帯勝手に見とんやで」
「はあ」
「もっとこう、ないんか」
「何を?」
むう、と透は不満げに顔をしかめた。まあ、年相応で可愛らしいわー、流は紅茶を啜りながら微笑んだ。
「『何見てんの!ばかあ!返してよお!』みたいな、ないん」
「ないよ……。君は僕に何を期待してるの…」
透くんは時々よくわっかんないなー、関東と関西の文化の違いかしらーなんてねー、高いのはやっぱうまいわ、流はふう、とあったまった息を吐いた。
「疑わしきは罰するべきやろ?」
「うーん、まあ、ケースバイケースでは…?」
一応、大人ですからね、あんまりきついこと言っちゃいけません。中庸だね、正解は。
「罰したかってん」
「いや、罪がある人を罰しようね」
「目隠しとか、拘束とか、したいんです」
「どうして急に標準語に!?改まって言われてもいいよとはならないからね!?」
「やりましょう」
「無理!俺ヒラだから!そんな権限ないの!」
どこの社長だ…。
そのときに、ふと流は思い出した。この間の、飲み会……課長(頭上がそよそよしている)はキス魔……流はさっと血の気が引くのを感じた。
(もしアレを罪だとするならば…………やられる……!確実にッ!)
「そろそろさ、透くん、返して…」
(僕にSMの趣味は無い……!)
「や、今えーとこやから」
携帯ゲームしてる場合じゃなくてね!
「返して!仕事のメールしなきゃ!やばい!すっかり忘れてた!」
「ふーん、なんか怪しいな、メール見終わっとったけど、次は画像ファイルにしよか」
「ちょ、あ、待ってぇぇぇ!」