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時の扉  作者: かいひろし
3/11

父の面影

 もうすぐ、桜が咲く季節が、そこまでやって来ている。春を彩るその花は、今から何年か前に見た光景が、鮮やかに蘇るようだ。

 当時、父は肺のポリープの手術を終え、退院したばかりであった。僕にとって、その桜の光景は、決して忘れることが出来ない。その日は風が強く、父に良くないと思ったのか、花見を早々と済ませて、その場を立ち去った思い出がある。

 あれから、何年たったであろう。数える月日は、とても短く、激動の日々に感じられてならない。

去年の暮れに、その父が他界して、僕は人生の転換期を迎えることになる。そしてまず、語らなければならない誓いがある。

一つ目は、小説を書く切っ掛けを与えてくれた事。僕は、調理師を辞めた後は、働く場所が見つからず、苦労を重ねていた頃である。

無理を言って、創作活動をするために、パソコンを手に入れた想いがある。いま、こうして文章を綴ることが出来るのも、父の多大なる恩恵がある訳である。

父が、言っていた。

「それだけ、本を読んでいる。その知識は生かした方がいい」

 たった、ひとことであるが、僕にはいいアドバイスである。

 二つ目は、歌を唄っている事。父は、亡くなる最後まで歌に挑戦していた。晩年は、慢性閉塞性肺疾患に苦しんではいたが、のど自慢の予選に参加を試みていた記憶が忘れられない。僕は父を伴なって、よくカラオケボックスに連れて行った。

 負けん気が強い父は、その体で、声を振り絞るように歌っているのが思い出の中にある。

 それに、楽器を奏でていたイメージが強い。よく、ギターを持って行っては、弾いていたのであろう。

僕にとっても、その音楽の道は目指す道であるのだ。あの姿勢は、見習いたいものである。

 三つ目は、家族という課題。どうも、父が亡くなる前まで、頑なに拒み続けていた想いがあったことは、僕にとっての大きな反省材料である。

 葬式の時に、親戚に伝えられた言葉がある。亡き父は、僕に嫁さんを見つけるべく、必死で奔走していたらしい。

「どうにかして、嫁をもらう気になってくれないかな」

 父は、親戚に話していた想いは、僕にひとつの覚悟を植え付けることになる。

 いま、僕は商売をしている。決して、事情は楽ではないとしても、諦めずにやって行きたいものだ。

当時、引導を渡された調理の仕事にも、自分なりに自営業で頑張ってみたい。それは、不可能のように思えるのだが、たった一つ、味を伝えてみたくなったのだ。

そして、亡き父に、この場で誓ってみたい想いがここにある。


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