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まだ名もなき怪物達 第2部ー盟約の刻ー  作者: HANA


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第4話 芽吹く者達

地方支部に、新しい朝が来ていた。

これまで重く淀んでいた空気は消え、庁舎内には早朝から人の動く気配がある。

廊下を走る足音。

書類を抱えて駆ける事務員。

訓練場から響く掛け声。

止まっていた時間が、ようやく動き出したのだ。

一時支部長室。

机に積まれた書類へ目を通しながら、天音は静かに眉を寄せた。

「……酷いな」

「何年も放置されてたんだ。むしろこれで済んでる方だろ」

向かいの机で帳簿を捌いていた橘が、疲れた声で返す。

未処理申請。

期限切れ備品。

出動報告未提出。

紛失扱いにされた装備。

支部長達が私腹を肥やす間に、現場も事務も腐り切っていた。

「午前中に各部署責任者を集める」

天音は書類を閉じる。

「一度、全て洗い直す」

「了解。だが、その前にこっちも限界だ」

橘が机上の紙束を叩いた。

「人手が足りん」

「分かってる」

短く返したその時。

バンッ!!

勢いよく扉が開く。

「天音!!訓練場来い!!」

鷹宮だった。

額に汗を浮かべ、いつになく苛立った顔をしている。

「どうした」

「どうしたもこうしたもねぇ!!」

鷹宮は乱暴に親指で外を指した。

「使える奴が出てきた」

一瞬、部屋の空気が変わる。

橘が顔を上げた。

天音はわずかに口元を緩める。

「……面白い」

三人は揃って席を立った。

地方支部再建。

その最初の成果が、今まさに芽吹こうとしていた。

訓練場へ向かう道中、鷹宮は珍しく機嫌が悪かった。

「朝の走り込みで、古株三人まとめて転がした」

「ほう」

天音がわずかに興味を示す。

「その後、組み手でも二人潰した。体力はまだ甘ぇが、動きが妙にいい」

「名前は?」

橘が問いかける。

「雨宮 隼人。二十二だ」

その名に、橘は手元の資料を思い返す。

「勤務評価は最低ランクだな。協調性欠如、命令違反、反抗的……散々な書かれ方だったぞ」

鷹宮が鼻で笑う。

「使えねぇ上司に従わなかっただけだろ」

訓練場に着くと、すでに人だかりが出来ていた。

中央では、一人の青年が息を荒げながら立っている。

細身の体。

鋭い目つき。

乱れた呼吸の中でも、視線だけは死んでいない。

足元には、倒された古株隊員が二人。

「まだやるか?」

青年が吐き捨てるように言う。

ざわめきが走る。

その時、人垣が割れた。

天音、橘、鷹宮の三人が現れたからだ。

青年――雨宮 隼人は、三人を見ても怯まなかった。

「……あんたらが新しい上の連中か」

周囲が息を呑む。

支部長達が失脚したばかりとはいえ、今この支部で最も権限を持つ三人だ。

普通なら視線すら合わせない。

だが雨宮は違った。

「聞きたいことがある」

天音は腕を組み、静かに促す。

「言え」

「本当に、この支部変えられるんですか」

訓練場が静まり返る。

誰もが聞きたくて、聞けなかった言葉だった。

橘が口を開きかけたその時、天音が一歩前に出る。

「変える」

短く、だが迷いなく言い切った。

「お前みたいな人間が、腐った評価で埋もれない場所にな」

雨宮の目が揺れる。

初めて、その瞳に年相応の若さが見えた。

「……なら」

拳を握り締める。

「俺を使ってください」

その言葉に、鷹宮が獰猛に笑った。

「上等だ」

次の瞬間、鷹宮は訓練用木刀を投げ渡す。

「かかってこい。口だけじゃねぇって証明してみろ」

雨宮は迷わず受け取った。

周囲の隊員達がざわつく。

相手は戦闘部隊隊長。

地方支部最強…本部特別訓練官の肩書きを持つ男だ。

だが雨宮は退かなかった。

構える。

その姿を見た天音が、ふっと笑う。

「ようやく芽が出たか」

地方支部再建。

それは建物でも制度でもなく、

人の未来を取り戻す戦いだった。



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