第5話 地下牢マイルーム生活:和食ディナー編
地下牢マイルーム生活:和食ディナー編
インターネットのアイコンがキラキラと輝いているのを見つめながら、ローゼは小さく唸った。
「うーん……気になる、気になるけど……」
指先が透明な板をなぞる。しかし、その瞬間――ふと机の上に積まれた残りのコミックに視線が吸い寄せられた。
「……いや、待って。まだ十八冊残ってるのよね」
《君に宅急便でお届け》は、前世でローゼが心の支えにしていた作品だ。長い物語の後半は、恋の成就や別れ、成長と涙が詰まっているのを知っている。
「中途半端なままじゃ、ぜったいに後悔する」
そう呟いて、彼女は漫画を手に取った。
それにしても。
ページをめくるうちに、ふとお腹が「ぐぅぅ」と鳴った。
「あ……そういえば」
さっきはショートケーキしか食べていない。
空腹感に気づいた瞬間、彼女は現実に引き戻される。
そしてさらにもう一つ――。
「……トイレ」
地下牢では粗末な容器しか渡されなかった。だが、マイルームなら?
ローゼは立ち上がり、まだ探検していない部屋の奥へと進む。
扉を開けた瞬間、彼女の目に飛び込んできたのは――。
「わぁっ……!」
そこには、前世そのままのユニットバスがあった。
コンパクトながらも清潔なトイレとシャワー。鏡もピカピカに磨かれている。
「まさか……ここまで完全再現されてるなんて」
さらに、浴槽の端には見慣れたカラフルな小袋が並んでいた。
「……入浴剤!?」
ラベンダー、柑橘、バブルバス風。前世で少しずつ買い溜めたお気に入りたちだ。
「う、嬉しい……これはほんとうに嬉しい!」
涙が出そうになりながら、ローゼは便座に腰を下ろし、やっと安心して用を足した。
そしてシャワーを軽く浴びて汗を流すと、見慣れたタオルに包まれる。
「……あぁ、生きてるって素晴らしい」
さっきまで「死にたい」なんて思っていた自分が嘘のようだ。
身も心も軽くなったローゼは、再び漫画に向かう。
物語はいよいよ佳境。遠距離恋愛という難題に直面する主人公たち。
「えっ……別れちゃうの? うそでしょ!?」
ページをめくる手に力が入る。胸がぎゅっと締め付けられるようだ。
ドキドキしながら次の巻に手を伸ばした、そのとき――。
――ポロリン♪
「きたっ!」
ローゼは跳ね上がり、透明ウィンドウを呼び出した。
【レベル4到達!】
新スキルが解放されます。
《君に宅急便で毎日お届け:ディナーセット》
次の中から選べます(※日替わりお任せメニュー):
1.和食
2.洋食
「……ディナーセット……!」
目を輝かせるローゼ。
「え、これ毎日? 日替わり? 最高じゃない!」
考えるまでもない。
「お米! お米が食べたい!!」
迷わず【和食】を選択する。
すると、机の上に木製の出前箱がぽんっと現れた。
期待を込めて蓋を開けると――。
「……きゃあああっ!」
そこには、こんがり焼き目のついた鮭。
ふっくら白ごはん。味噌汁。小鉢にはほうれん草のおひたしと卵焼き。
「鮭定食っ……!!」
ローゼは思わず両手を合わせた。
「いただきますっ!」
一口食べた瞬間、彼女は涙ぐんだ。
「……あぁ……お米……お米って、どうしてこんなにおいしいの……?」
噛むたびにじんわりと広がる甘み。
鮭の塩気と味噌汁の出汁が合わさって、胃も心も満たされていく。
「これは……ほんとに最高……!」
彼女は夢中で箸を進め、あっという間に平らげた。
「ごちそうさまでしたっ!」
深いため息と共に、ローゼはベッドにごろんと転がる。
「ふふ……引きこもり、最高……!」
地下牢での絶望は、もうどこにもなかった。
代わりに、未来への小さな期待が、胸の奥で静かに芽生えていた。




