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婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!  作者: 山田 バルス


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第43話 ローゼ視点 愛は勝つ

愛は勝つ ― ローゼ視点


 マイルームの床に座り込み、私はぼんやりと光を見つめていた。

 透明な結界は、今日も変わらず私を閉じ込めている。


 けれど、胸の中のざわめきは昨日までと違っていた。

 玉座の間で、すべてが変わったのだ。


 ――アルベルトの断罪。

 ――王位継承権の剥奪。

 ――そして、新しい皇太子に任じられたのは……。


「……エリオット」


 彼の名を小さく呟いたその時だった。


 足音が聞こえた。

 規則正しく、迷いのない響き。

 あの人だけが持つ、真っすぐな歩調。


「ローゼ!」


 呼ばれた瞬間、胸が熱くなった。

 顔を上げると、そこに彼がいた。


 結界の外側。

 背はさらに伸び、精悍さを増した横顔。

 けれど、その瞳は昔から変わらず澄んでいて――私を真っ直ぐに見つめていた。



「……君の無罪が、確定した」


 その一言で、心が揺れる。

 望んでいたはずの言葉。待ち続けた知らせ。

 なのに、涙があふれるのはどうしてだろう。


「エリオット……」


 声は結界に吸い込まれていく。

 でも、彼は気づいているようにうなずいた。


「君を苦しめたすべては、もう終わった。兄のアルベルトは処罰され、真実は明らかになった。……君は無罪で自由だ、ローゼ」


 無罪で自由。

 そう言われて、ようやく肩から力が抜けた。

 けれど――。


 まだ、この透明な壁は消えていない。



 私は、彼に近づいた。

 白いドレスの裾を引きずり、結界のぎりぎりまで歩み寄る。


 エリオットもまた、同じように近づいてきた。

 隔てるのは、ほんの数センチの透明な壁だけ。


「ローゼ……」


 その声は震えていなかった。

 強く、真剣で、まるで祈るように響いてきた。


「俺は……君を愛している」


 胸が跳ねた。

 あまりにも真っ直ぐすぎて、呼吸が止まりそうになる。


 届かないと知りながらも、私も唇を動かした。


「わたしも……愛しているわ、エリオット」


 声は消えても、彼には伝わった。

 彼の瞳が揺れ、熱を帯びた光で私を包み込む。



 互いに手を伸ばした。

 透明の壁越しに、指先が触れ合いそうなほど近づいて――止まる。


 昨日と同じ。

 あと一歩、ほんの数ミリ。

 それなのに、どうしても届かない。


 でも、今日は違った。


 彼は、恐れずにそのまま顔を近づけてきたのだ。


 私もまた、導かれるように顔を寄せる。

 瞳と瞳が合わさり、吐息が混じるほどの距離になる。


 心臓が、壊れそうなほど打ち鳴らされていた。

 これは、夢じゃない。


「ローゼ……」


 囁きとともに、彼の唇が迫る。

 私もそっと目を閉じて――。


 ――その瞬間。


 ポロリン、と軽やかな音が牢獄に響いた。



「……え?」


 結界が、淡い光を揺らしながら音を立てた。

 次の瞬間、まるで氷が溶けるように、透明な壁が崩れ去っていく。


『――キーワード “愛の力” により、《スキル引きこもり》を解除します』


 天から響くような機械的な声。

 私の耳だけでなく、牢獄全体に染み渡るように響いた。


 そして、檻を成していた結界は完全に消え去った。

 看守が急ぎ足で牢も開けた。

 すると、二人の間を隔てるものは、すべてなくなった。

 




「……ローゼ」

「……エリオット」


 呼び合った名前は、今度こそ互いの耳に届いた。


 次の瞬間、私たちは同時に抱き合い――唇を重ねた。


 熱く、甘く、切なさをすべて溶かし込むような口づけ。

 待ち続けた想いが、ようやく繋がった瞬間だった。


 彼の腕の中は温かくて、胸の鼓動が私の鼓動と重なって響いていた。



 どれほどそうしていただろう。

 離れたくなくて、でも少しだけ顔を離して、見つめ合う。


 彼の瞳は涙で濡れていた。

 でも、それは悲しみの涙じゃない。


「ようやく……ようやく、君に届いた」


 その言葉に、私も涙をこぼした。

 頬を伝う雫を、彼が優しく拭ってくれる。


「エリオット……ありがとう。待っていてよかった……」


 囁いたその瞬間、もう一度彼が唇を重ねてきた。

 今度は、誓いを込めた口づけ。


 牢獄という名の檻は消え、私の世界は彼の温もりで満たされていた。



 結界はもう存在しない。

 私たちの心は、確かに重なった。


 愛は、届いたのだ。

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