第4話 マイルーム快適生活
マイルーム快適生活編
ローゼは机の上に目をやり、思わず息を呑んだ。
「なっ……なんと!?」
そこには、整然と並べられた三十冊の単行本。
表紙には、大人気少女コミック《君に宅急便でお届け》のロゴが輝いている。
「うそ……これ、わたしが前世で大好きだった漫画じゃない!」
ローゼは思わず本を手に取った。
表紙を撫でる感触も、インクの匂いも、すべてが懐かしい。
「まさか……こんな形でまた会えるなんて……!」
胸が高鳴る。地下牢に泣き崩れていた自分は、もう遠い昔のように思えた。
「よし、読むわよっ!」
ページを開けば、そこにはあの頃と変わらぬ彼と彼女の物語。
ローゼは夢中で読み進めた。
――そして、気づけば四冊目を読み終えたとき。
――ポロリン♪
あの軽快な音が再び鳴った。
「また来たっ……!」
ローゼは慌てて漫画を机に置き、透明なウィンドウを呼び出す。
【レベル2到達!】
新スキルが解放されます。
次の2つから選択してください(※日ごとに切り替え可能):
1.《ケーキ》 一日一回、ケーキが届きます。
2.《和菓子》 一日一回、和菓子が届きます。
「ケーキか……和菓子か……」
どちらも魅力的だ。だが今は――。
「やっぱりケーキ! この状況で食べたいのは、ふわふわのショートケーキに決まってる!」
勢いよくケーキボタンをタップすると、机の上に白い小箱がぽんっと出現した。
「きゃっ……! 本当に出てきた!」
恐る恐る箱を開けると、中には赤い苺が輝くショートケーキが鎮座していた。
白いクリーム、きめ細やかなスポンジ。見ただけで頬が緩む。
「これ……シャトのケーキだわ……! 本物だもの!」
目を潤ませながら、ローゼは小さく笑った。
「ケーキといえば……紅茶ね」
そう呟き、ワンルームのキッチンに向かう。
引き出しを開けると――あった。紅茶のティーバッグが数種類。
しかも、横にはカップラーメンのストックと電気ポットまで用意されている。
「最高すぎる……!」
早速お湯を沸かし、ティーカップに紅茶を注いだ。
立ち上る香りと共に、ローゼはケーキを口に運ぶ。
「……あぁ……しあわせ……」
苺の甘酸っぱさと、ミルキーなクリームが口いっぱいに広がる。
舌の上でとろけるその瞬間、絶望も恐怖もどこかへ消え去ってしまった。
「ふふふ……引きこもり最高!」
ケーキを食べ終えると、ローゼはまた漫画に戻った。
物語はますます佳境へ。主人公と恋人がようやく心を通わせる場面に差しかかり、ローゼの頬には自然と涙が伝う。
「よかったね……本当によかった……」
そのとき――。
――ポロリン♪
「……え、また?」
慌てて時計を見る。
読み始めてから、二時間ほどが経っていた。
「なるほど……」
ローゼは顎に手を当て、真剣に考え込んだ。
「レベル1から2までは一時間。レベル2から3までは二時間。ということは……レベルが上がるごとに必要な時間が増えていくのね?」
つまり、レベル3から4は三時間か、それとも四時間か――。
ゲームのような法則性があるなら、今後の成長スピードも読めるかもしれない。
「やだ、わたし、ちょっとわくわくしてる……」
ローゼは笑みを浮かべ、ウィンドウを開いた。
【レベル3到達!】
新スキルが解放されます。
《インターネット》 一日一時間だけ、インターネットに接続できます。
※動画閲覧・記事閲覧可。ただし、発信・書き込み不可。
「……!!」
ローゼは思わず椅子から立ち上がった。
「インターネット……! ネットが繋がるなんて……!!」
胸が高鳴る。
前世で、彼女が最も時間を費やしていた娯楽。
もしこれが本当に使えるのなら――地下牢の中でも、アニメも漫画も、ニュースだって見放題ではないか。
「これは……これは最高のご褒美だわ!」
ローゼは拳をぎゅっと握った。
「泣いて過ごすなんてもったいない。わたしは……わたしは、このスキルを楽しんで生き延びてやるのよ!」
笑みを浮かべた彼女の目には、もう絶望の影はなかった。




