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婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!  作者: 山田 バルス


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第38話 ローゼ視点 アルベルト王子の断罪

愛は届かず ― ローゼ視点


 あの日から。

 エリオットは、毎日のように牢を訪れてくれるようになった。


 最初は短い時間だった。

 けれど次第に、彼は長くここに留まるようになった。


 分厚い書物を抱えてきて、私に見せてくれる。

 声は届かないのに、指で文章をなぞり、笑顔で口を動かす。

 私もまた結界越しに笑みを返し、身振りで会話をする。


 それは不完全で、不自由で。

 けれど確かに「一緒の時間」だった。



 日々が過ぎるごとに、私は気づいていった。


 ――彼が私の中で、どんどん大きな存在になっていくことを。


 結界に守られていても、孤独は消えなかった。

 沈む心は簡単に暗闇へ引き込まれる。

 けれど、彼の顔を見ていると、不思議と呼吸が楽になる。


 触れたい。

 ただ、その一心だった。


 彼の手のひらの温もりを、この指先に。

 あのまっすぐな瞳を、すぐそばで。


 心がそう叫び続ける。

 夜、床に伏しても、彼の姿ばかりが浮かぶ。

 夢の中では、私は結界を越えて彼に抱きついていた。


 ――出たい。

 ――この檻を破って、彼のもとへ。


 気づけば、その想いが私を満たしていた。



 だが同時に、恐怖も芽生える。


 もし、ここを出たとして。

 私の無実は証明されているのだろうか?


 無罪が明らかにならぬまま牢を出れば、

 私は「罪人」として烙印を押されたまま。

 冷たい元の地下牢へと送られるのだ。


 そんな状態で、エリオットと共にいられるのだろうか。


「……だめよ」


 私は膝を抱え、額を押し付けた。

 出る時は――必ず、潔白を証してから。

 そうでなければ、この結界を越えても冷たい地下牢に戻るだけ。


 だから、今は出られない。出ることは危険なのだ。



 そうして、もどかしい日々が続いた。


 ある日は花を。

 ある日は絵画を。

 彼は毎回、何かを持ってきては、私の目の前に置いた。


 もちろん結界を越えられないから、私は触れることもできない。

 けれど、その気持ちは十分に伝わった。


 彼が私を忘れていない。

 私を待ってくれている。


 その事実が、どんな宝石よりも尊かった。



 そして――運命の日。


 重い扉が開き、思いがけぬ声が響いた。


「ローゼ……!」


 父の声。

 私の心臓は大きく跳ね、思わず立ち上がっていた。


「お父様……!」


 ずっと、待っていた。

 外交のため出ていた父が戻ってきたのだ。父なら冤罪の真相を調査してくれるはずだ。

 ならばきっと――わたしの無罪を証明してくれる――


 私は両手を伸ばした。

 父もまた、鉄格子と結界越しに手を差し伸べてくれる。


 あと少しで触れられる――そう信じた。


 けれど。


 やはり、透明の壁が立ちはだかる。


 冷たい拒絶が、再び私の手を止めた。


「そんな……!」


 涙がにじむ。

 父にも触れられない。

 今なら外に出ても大丈夫なのに。

 必ず父が無罪を証明してくださるはずなのに、それでも壁は壊れない。


「どうすれば……どうすればいいの……」


 心が揺れる。

 出口はあるのに、道は塞がれたまま。



 父が訪れてからさらに数日がたった。そんなある日のこと。


 ――マイルームの中央にある机上のモニター画面が、ふいに光を放ったのだ。


 私は驚き、思わず視線をそこに向ける。自動視聴モードだった。

 やがてモニターの中に、王城の広間の映像が浮かび上がった。


 広間には、第一王子アルベルトとミーアたちが跪いていた。

 あの時は傲慢だった顔が、今は青ざめてブルブルと震えている。


 その前に立つのは、父と――そして国王陛下。

 重々しい叱責の声が、モニター画面を通じて牢にまで響いてくる。


「……これは」


 私は思わず手を口に当てた。


 王子とミーアたちが、王の間で裁かれているのだ。

 冤罪を仕組んだ者たちが、今まさに断罪されようとしていた。


 心臓が高鳴る。

 これで――ようやく。


 けれど同時に、胸の奥底で小さな声が囁く。


 ――本当に、これで結界は壊れるの?

 ――無罪が証明されたとしても。

 ――最後に必要なのは、「愛」なのでは? それとも他になにかあるのか?


 私は結界の中で、強く拳を握りしめた。


 目の前の光景が、私の運命を決める。

 すべてが変わる瞬間を、私はモニターを食い入るように見つめていた。

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