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婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!  作者: 山田 バルス


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第36話 エルンスト視点 地下牢にて ― 結界の前

公爵と国王、地下牢にて ― 結界の前


 地下牢の最奥。

 鉄格子の向こうに、淡い光が揺らめいていた。


 わしは息を呑んだ。

 それは松明の炎でもなければ、魔法灯でもない。

 まるで月光を閉じ込めたかのような結界の輝きであった。


 その中に――ローゼがいた。


 白い衣を纏い、背筋を伸ばして座る。

 やつれは見えるが、瞳の奥には強い光が宿っている。

 だが、その姿は結界の膜に阻まれ、触れることは叶わなかった。


「ローゼ……! 父だ! わしだ!」


 思わず鉄格子へ駆け寄り、声を張り上げる。

 娘が小さく顔を上げ、こちらを見た。

 その瞳が確かに揺れた――だが、彼女の唇は動いても声は届かない。


「……声が……遮られておるのか」

 隣でグランツが呟いた。


 わしは慌てて手を伸ばす。

 鉄格子の隙間に触れようとする。


 しかし、透明が壁のようなものがあり、ローゼまで手が届かない。

「な、なんだ、この壁は、これではローゼまで届かない」

 

 ローゼも手を伸ばし、父と娘の手が透明な壁越しに触れる。しかし、何も起きない。

 「どうしてじゃ」

 わしは脱力し、床に膝を着けた。


「公爵様」

 護衛が駆け寄るが、わしはその手を払いのけ、再び立ち上がった。


「ローゼ! 聞こえるか! わしはここにおるぞ!」


 しかし彼女は首を振るばかり。

 何かを必死に伝えようとしている。

 だが結界に音は吸い込まれ、わしには届かない。



「……これが、スキル《引きこもり》か」

 国王が低く呟いた。


 わしは振り返る。

「知っておったのか、グランツ!」


「名だけは。過去の文献で見たことがある。心を閉ざした者が作り出す絶対の結界。外界との接触を拒み、己を守る最後の殻だ」


「ふざけるな! ならば、どうやって解けばよい!」


 わしの怒声に、国王は首を横に振った。

「……解けるのは本人の意思次第だ。他者が無理やり破れば、彼女自身の命が砕けるからもしれない」


「なっ……!」


 わしの視界が揺らいだ。

 この壁を壊そうとすれば、ローゼを傷つける。

 だから、わしはただ見ているしかないのか。



 ローゼが結界の内側から両手を伸ばしてきた。

 わしは咄嗟に同じように手を伸ばす。

 だが――指先と指先の間には、透明の膜が横たわっていた。


 あと数ミリ。

 たったそれだけが、永遠に埋まらぬ距離のように感じられる。


「ローゼ……!」


 わしは額を鉄格子に押し当てた。

「許せ……! 父はお前を守れなんだ……。婚約のことも、この冤罪も、すべてわしの不甲斐なさのせいだ!」


 娘の瞳が揺れる。

 だが声はやはり届かない。

 ただ、震える唇から「違う」と読み取れる気がした。


 嗚呼、それすら確信できぬもどかしさ。



「エルンスト」

 グランツが低く言った。

「今は、彼女に“待て”と告げるしかない」


「待てだと……? こんな結界に閉じ込められている娘にか」


「そうだ。だが覚えておけ。彼女はただ泣き崩れているのではない。自らの意志で、この殻に籠もって耐えている。だから生きているのだ」


 国王の声には迷いがなかった。

 だが、それはわしにとって残酷な真実でもあった。


「……ローゼ。どうか……生き延びてくれ」


 わしは結界の前に膝をつき、祈るように告げた。

 娘の姿は淡い光に包まれ、遠い幻のように揺れている。


 触れられない。

 声も届かない。

 だが、確かにそこに彼女はいる。



 やがて、見張りの兵が恐る恐る声をかけた。

「……陛下、公爵様。これ以上は……お体が」


 わしは振り返りざま睨みつけたが、すぐに息を吐いた。

 ここで無理をしても、結界に拒絶されるだけ。

 わしは立ち上がり、再びローゼを見つめた。


「必ず戻る。父が必ず、お前を救い出す」


 その言葉も届かぬのだろう。

 だが娘の瞳が、ほんの僅かに潤んだように見えた。


 それだけで、わしは再び立ち上がる力を得た。



 国王が静かに告げた。

「行こう、エルンスト。……このままここに居続けても、結界は解けぬ。だが彼女は見ていた。お前が来たことを、安堵しているはずだ」


 わしは歯を食いしばり、最後にもう一度だけ娘を見つめた。

 その姿を心に焼きつけ、ゆっくりと鉄格子から離れる。


 結界の光は淡く瞬き、牢獄の闇に静かに輝き続けていた。

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