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婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!  作者: 山田 バルス


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第31話 第二王子エリオット視点 愛は届かず ― 結界の前で

愛は届かず ― 結界の前で


 夜の帳が下り、城内の灯がぽつぽつと瞬き始めた頃。

 僕――エリオットは、決意を胸に牢獄へと足を運んでいた。


 冷たい石造りの廊下に、足音が虚しく響く。

 胸の奥は緊張と不安で張り裂けそうだった。


「殿下、本当にご自身で……?」

 後ろから控えめに声がかかる。


 振り返れば、そこには側近のレオナルドがいた。

 彼はいつも通り冷静な眼差しで僕を見つめている。


「……ああ。これは僕自身で確かめなければならない」

 そう答えると、彼はわずかに頷き、黙って後に続いた。


 ――愛する二人の心が重なれば、結界は解ける。

 マーガレットの言葉が何度も頭の中で反芻される。


 もしそれが真実なら、僕とローゼの絆が試される。

 彼女が僕を弟ではなく、一人の男として受け入れてくれるかどうか――。

 だから、もうローゼを姉様と呼ぶのを辞める。これからは、ローゼと呼ぶ。



 牢獄の扉を抜けると、薄暗い空気の中に眩い光が浮かび上がった。

 それは牢を覆う結界。淡く輝き、外界を拒む透明の膜だった。


 中にはローゼがいた。

 白いドレス姿で床に腰を下ろし、本を読んでいる。


 その横顔を見ただけで胸が熱くなる。

 僕にとって彼女はずっと憧れであり、守るべき存在であり――それ以上の気持ちが、いつしか心に根付いていた。


「ローゼ……」

 思わず声を漏らした。


 その瞬間、彼女が顔を上げた。

 ゆっくりとこちらを振り向き、瞳を大きく見開く。


 唇が確かに僕の名を呼んだように動く。

 けれど、音は一切届かない。


 透明の結界は、声さえ遮断していた。


 それでも――彼女が僕を見つけてくれただけで、胸が震えた。



 結界を挟んで、僕たちは向かい合った。

 ローゼが何かを言っている。

 だが聞こえない。


 だからこそ、確かめたいと思った。


「殿下……」

 背後からレオナルドが静かに声をかける。

「危険はありません。ただ……その壁は、誰の手も許さぬはず」


「分かっている。だが試さなければならない」


 僕は震える手を伸ばした。

 結界の膜に向かって。


 ローゼもまた、ためらいながらも手を差し伸べてくる。

 光を隔てて、互いの指先が――いま、重なろうとした。


 しかし。


 ――かちり、と何か硬質なものに触れたような感覚。


 見えない壁が、そこにあった。

 透明で、冷たく、絶対に破れない隔たり。


 僕の指先と彼女の指先は、ほんの数ミリを隔てて止められる。

 いくら力を込めても、決して交わることはなかった。


「なぜ……」

 唇が震えた。


 マーガレットの言葉は間違いだったのか。

 それとも――僕の想いが足りないのか。


 結界の向こうで、ローゼが悲しげに唇を動かす。

 「違う」と言っているようにも、「ごめん」と言っているようにも見えた。

 だが確かめる術はない。



「僕では……だめなのか」


 声が掠れていた。

 必死に抑えてきた不安が、全身を締め付ける。


 愛している。守りたい。

 けれど――触れることすらできない。


 透明の壁は揺らぎもしない。

 それがすべてだった。


 僕は結界に額を押し付けた。

 ローゼもまた、内側から同じように額を当ててくる。

 だが、温もりは届かない。


 見つめ合うだけ。

 それ以上は、決して進めなかった。



 やがて、膝から力が抜けてその場に崩れ落ちる。

「やっぱり……僕じゃ、届かないのか」


 胸の奥が空洞になっていく。

 マーガレットが言った「愛」は、まだ形になっていないのだ。


 僕は必死に笑みを作った。

「ごめん、ローゼ。……僕は、期待外れだったみたいだ」


 ローゼは何かを叫ぶように口を動かす。

 けれど声は届かない。

 最後に見たのは、涙を浮かべ唇を震わせる彼女の姿だった。



 牢を後にする僕の足取りは重い。

 視界が滲み、世界が歪んで見える。


 隣を歩くレオナルドが、そっと問いかけた。

「殿下……」


 僕は答えられなかった。

 ただ沈黙を抱えたまま歩く。


 心に刻まれたのは、ただひとつの痛烈な事実。


 ――僕では、結界を解くことはできない。


 その思いが、鋭い刃のように胸を裂いていた。

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― 新着の感想 ―
今結界を解いたら、彼女の身が危ないだけだろうに。 解決すべき順番がおかしい。
何も解決してない状態で結界解けてもロクなことにならないだろうに。
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