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婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!  作者: 山田 バルス


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第28話 第二王子エリオット視点 地下牢に咲く微笑み

地下牢に咲く微笑み(エリオット視点)


 地下牢へ続く階段は、いつもながら重苦しい空気に包まれていた。

 ひとつ降りるごとに、冷気が濃くなり、足音だけがやけに大きく響く。

 僕の後ろを歩くレオナルドは、無言だったが、その沈黙がかえって心強い。


 何度目になるだろう。

 王城の地下牢に足を運ぶのは。

 その度に胸が張り裂けそうな思いを抱きながら、僕は姉――ローゼの様子を確かめずにはいられなかった。



 鉄格子の前に立つと、看守たちは僕を見るなり直立し、頭を下げた。

 第二王子である僕の訪問に、誰も逆らうことはできない。

 許可も報告も必要ない。僕が「見る」と言えば、彼らは黙って道を開ける。


 それでも、格子の向こうにいる姉のことを思うと、胸が痛んだ。


 ――姉さん……。


 囚われの身となり、絶望に沈んでいるのではないか。

 食も細り、日に日に衰弱しているのではないか。

 僕の中には、そんな不安が渦巻いていた。


 けれど、そこにあった光景は――まるで別世界だった。



 牢獄の中にいるのに、姉は優雅だった。


 机の上には湯気の立つ陶器の器。

 見たこともない白い小箱を開ければ、甘い香りが漂ってくる。

 指先で宙に浮かぶ光の板を操り、音楽や映像を楽しんでいる。


 僕には理解できない。

 牢の中にどうやってそんなものが存在するのか。

 だが確かに姉は、見たこともない魔道具に囲まれ、まるでサロンの一室にいるかのように過ごしていた。


「……殿下、やはりお気づきになられましたか」


 小声で呟いたのは、背後のレオナルドだった。

 彼の眼差しは鋭いが、驚愕を隠せていない。


「レオナルド、あれは……魔道具か?」


「私もそうとしか思えません。しかし……あの形状は、どの文献にも記録されておりません。王国の工房どころか、大陸全土を探しても、似たものはないでしょう」


「……そうか」


 姉が光の板に触れると、音楽が牢の中に満ちた。

 柔らかな旋律に合わせ、姉は楽しげに微笑む。

 その姿は、少なくとも「囚われ人」のものではなかった。



「殿下」


 レオナルドが小声で続ける。


「本来ならば、牢の中でここまで優雅に過ごせるはずがありません。……それでも、あのお方が安らかであるなら、それは僥倖とも言えるでしょう」


「……ああ」


 胸の奥から安堵が広がる。

 絶望に沈んでいるのではなく、こうして幸せそうにしている。

 声は届かない。何度呼びかけても、姉は振り向かない。

 けれど、その笑顔がすべてを物語っていた。


「よかった……」


 思わず呟きが零れる。


 あの婚約破棄の場で辱めを受け、地下牢に幽閉されたとき、姉はきっと心を壊してしまうと思っていた。

 だが、実際は違った。

 むしろ、牢の中で誰よりも優雅に生きている。



「殿下」


 レオナルドの声が、再び低く響いた。


「安堵するお気持ちは理解いたします。ですが……あの魔道具の正体は、決して軽んじてよいものではありません。もし兄王子――アルベルト殿下の陣営が把握すれば、別の罪をでっち上げる口実となるやもしれません」


「……!」


 たしかに。

 無実を証明するどころか、「禁忌の魔道具を使った」と追及される可能性がある。

 僕の背筋に冷たい汗が流れた。


「レオナルド……僕たちで調べよう。この“魔道具”の正体を」


「御意。ですが――時間はかかるでしょう。あのお方を救うためには、確実な証拠が必要です」


「わかっている。……けれど」


 僕は鉄格子に手を添えた。

 牢の中で新しい小箱を開け、姉が「まあ!」とでも言いたげに笑顔を見せる。

 その姿が目に焼き付いて離れない。


「どんなに時間がかかっても、必ず姉さんを助け出す。そのためなら、僕は何だってする」



 沈黙が流れる。

 牢の中には音楽が響き、姉は穏やかに微笑んでいた。

 その姿は、まるで幸福そのものを体現しているようで――僕の胸を締め付ける。


「殿下」


 レオナルドが、少しだけ柔らかい声音で言った。


「どうかご安心を。あのお方は、思った以上に強いお方です。……だからこそ、外にいる我らが早く解決の道を探さなければならぬのでしょう」


「……ああ」


 僕は深く息を吸い、誓いを胸に刻んだ。


「姉さん……必ず、あなたを救います」


 牢の中で、ローゼはまた新しい魔道具を手に取り、嬉しそうに頬を緩めていた。

 その姿は、僕にとって何よりの希望の灯であった。

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