第27話 第二王子エリオット視点 ― 真実の映像
第二王子エリオット視点 ― 真実の映像
調査を始めてから数日。
僕とレオナルドは、人目を避けるように夜ごと密会を重ねていた。
証言を探っても、出てくるのは不自然な噂ばかりだった。
「ミーア様は可憐で清らか」「ローゼ様は冷酷で苛烈」――まるで同じ筆で書かれたかのような言葉が、あちこちの口から繰り返される。
意図的に仕組まれているのは明らかだった。
そんなある晩。
レオナルドが机の上に黒曜石のような宝玉を置いた。
「殿下。……映像を手に入れました」
「映像?」
「はい。古代の魔道具《水晶記録珠》。術者の魔力で刻まれた出来事を、映像として保存できる品です」
ごくりと息を呑む。
そんな代物がまだ動くとは……。
「何を……記録したんだ?」
レオナルドは一拍置き、真剣な瞳で僕を見つめた。
「ミーア嬢の、真の姿を」
その言葉に、心臓が大きく跳ねた。
珠に指をかざすと、空中に淡い光が広がり、やがて像を結ぶ。
月夜の庭園。噴水の水音。……そして、鮮やかな桃色の髪を揺らす女。
ミーアだった。
◆
「……で? どういうつもりだ、ミーア」
映像の中で、鋭い声が響く。アーサーだ。
その横で、マッスルが豪快に腕を組み、愉快そうに笑っている。
「ミーアは俺たち二人を選んだんだ。欲張りだが、それもまた魅力だろ?」
「くだらない」
アーサーの冷徹な声。けれど、彼の瞳には抗えぬ熱が宿っていた。
ミーアは二人を見上げ、口元を艶やかに歪める。
「ふふ……お二人とも、わたしを責めたいのですか? それとも、まだ、わたしを欲しいのですか?」
――背筋が凍った。
声に漂う甘美な毒気に、思わず拳を握る。
アーサーが一歩踏み込み、マッスルが分厚い腕を伸ばし……。
二人に両側から抱きすくめられ、ミーアはうっとりと目を閉じた。
◆
「こ、これ……!」
思わず声が裏返る。
「殿下、まだ続きがあります」
レオナルドの声が冷静に響いた。
映像はさらに移り変わる。
夜の廊下、人気のない客間、裏庭の陰。
ミーアは昼間の天使のような姿とは真逆に、妖艶な笑みを浮かべ、二人の男を巧みに弄んでいた。
アーサーには「冷たい眼差しが怖いの」と涙を見せ、マッスルには「力強さが安心するの」と囁く。
どちらも簡単に心を許し、彼女の掌の上で転がされていた。
――吐き気がこみ上げる。
「くっ……やめろ……!」
思わず叫び、珠から手を離した。
映像は霧散し、部屋に静寂が戻る。
僕は荒い息をつき、椅子に身を沈めた。
「……こ、これ以上は……見られない。こんな……こんな悪女だったなんて」
胸の奥がぐちゃぐちゃに掻き乱される。
兄上が「天使」と讃え、国中が憧れを寄せた女の、本当の姿。
それは欲望にまみれた怪物だった。
レオナルドが静かに言葉を落とす。
「殿下。ご覧になった通りです。ミーア嬢は二股どころか、王妃の座を狙いながら二人の有力貴族子息を手玉に取っている。……これは致命的な醜聞となりましょう」
「……証拠は?」
「はい。すべてこの珠に記録済みです。……殿下がご覧になったのはほんの一部。必要であれば、裁判の場で全映像を公開できます」
その言葉に、僕は息を呑んだ。
全てを暴けば、兄上がどれほど庇おうと、ミーアの仮面は崩れ去る。
だが同時に、胸の奥が冷たく震えた。
この映像を見れば、兄上の心はどうなるだろう。
「天使」と盲信していた相手の裏切りを知れば……国は、王家は。
それでも。
「……救わなければならない。ローゼ姉さんを」
震える声で呟くと、レオナルドは深々と頷いた。
「殿下の御心のままに。必ず、この証拠を切り札といたしましょう」
僕は拳を握りしめる。
――許さない。
無実の姉さんを陥れ、欲望のままに権力を貪るあの女を。
月明かりが窓を照らす。
その光の下で、僕は決意を新たにした。
必ず真実を暴き、ローゼ姉さんを救い出す。
その時まで、僕は何度でも立ち上がる。




