第24話 ローゼ視点 エリオットとローゼ
エリオットとローゼ ― ローゼ視点
チョコをつまみながら、ふかふかのクッションに沈む。
ドレスも宝石もスイーツも、何でも揃う。
けれど――心の奥にぽっかりと穴が空いているような気がした。
「うーん……なんだか退屈……」
贅沢三昧の引きこもり生活。
最初は夢のようだったけど、あまりに快適すぎてマンネリ化してきた。
やっぱり、贅沢は「特別」だからこそ輝くのね。
そんなとき――ふと、ウインドウのメニューの中に、見慣れない表示を見つけた。
《視聴モード:城内映像》
「……へえ、こんな機能もあったのね」
私は興味本位でボタンを押した。
すると目の前のウインドウに、王城の内部が映し出される。
衛兵たちが廊下を行き交い、文官が慌ただしく書類を抱えて走っている。
どこか現実離れしていた私の牢屋に、久しぶりに「外の空気」が流れ込んできた。
そのとき、私は見つけた。
映像の片隅――必死な表情で誰かと口論している少年の姿。
「……エリオット?」
ひとつ年下の第二王子、エリオット・フォン・グランツ。
私が牢に入れられてからは会っていなかったけれど、あの真っ直ぐな目は変わっていなかった。
「ローゼ姉さんがそんなことするわけない!」
少年の声が響く。
彼は涙を浮かべ、唇を噛みながら叫んでいた。
「冤罪なのに……っ! なのにどうして誰も信じてくれないんだ! 僕は知ってる! 姉さんは誰よりも努力して、アルベルト兄上のために……!」
声が震えていた。
肩も小さく震えていた。
悔しさと無力感に押し潰されそうになりながら、それでも立ち上がろうとする姿。
胸が、痛い。
「……エリオット……」
気がつけば、私は涙を流していた。
思い出す。
幼い頃から、私とエリオットは仲が良かった。
小鳥を追いかけて転んだとき、真っ先に駆け寄って「大丈夫?」と手を差し伸べてくれたのも彼だった。
勉強で疲れ果てたとき、こっそり甘いお菓子を持ってきて「元気出して」と笑ってくれたのも彼だった。
冷たいアルベルトの態度に耐えられたのも、幼いエリオットの優しさがあったから。
彼の存在が、私を何度救ってくれただろう。
「……そうだったのね」
私ははっと気づいた。
前世の記憶を取り戻す前――“ローゼ”としての私は、ずっと彼に恋をしていたのだ。
だけど、その恋は決して口にできない。
なぜなら、私は第一王子アルベルトの婚約者として選ばれてしまったから。
どれだけ心がエリオットを求めても、口にした瞬間にすべてが崩壊する。
だから、私はその気持ちを押し殺し続けてきた。
でも――。
ウインドウの中のエリオットは、涙ながらに叫び続けていた。
「力がない自分が悔しい……! でも、絶対に諦めない! 愛してるんだ、ローゼ姉さん! 僕はあなたを助ける! たとえ全てを敵にしても、必ず守る!」
その独白に、私は耳を疑った。
心臓が跳ね、頬が真っ赤になる。
「な、なに言ってるの……バカ……」
でも、うれしかった。
ずっと押し殺してきた願い。
本当は一度でいいから聞きたかった言葉。
画面越しではあるけれど、確かに届いた。
私はクッションに顔を埋めながら、涙と笑みをこぼした。
「……会いたいよ、エリオット……」
アルベルトに婚約破棄されたことは悔しい。
理不尽に閉じ込められたことも、腹立たしい。
でも、それよりも――胸を締め付けるのは、彼への想い。
もし、彼と一緒に歩む未来があったなら。
どれほど幸せだっただろう。
私は、夢を見る。
牢屋ではなく、光の射す場所で。
エリオットと並んで笑い合う、そんな未来を。
引きこもり天国の画面は淡く光り、涙に濡れた私の頬を照らしていた。
それは、贅沢なスイーツよりも、宝石よりも、はるかに胸を満たす輝きだった。




