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婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!  作者: 山田 バルス


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第22話 アルベルト視点 ― 届かぬ声と崩れる財産

アルベルト視点 ― 届かぬ声と崩れる財産


「――ローゼ!!」


 怒号が牢屋に響き渡る。

 俺は鉄格子に顔を寄せ、憎悪を込めて呼んだ。


 しかし。


「…………」


 中にいる女は、まったく反応を示さなかった。

 薄暗い牢のはずなのに、彼女の周囲だけは妙に明るく、温かな雰囲気が漂っている。

 寝台には花柄のシーツ、机の上には香る紅茶と菓子。

 まるで牢屋ではなく、貴族のサロンだ。


「無視か……!」

 俺は唇を噛みしめ、さらに声を張り上げる。

「聞こえているのだろう! 俺の財産を返せ、ローゼ!!」


 だが――やはり返事はない。


 そのとき、牢屋番が恐る恐る近づいてきて言った。

「……殿下。お気を悪くなさらぬように……。実は、殿下のお声が、ローゼ様には届いておらぬようでして」


「なに?」


 俺は振り返った。

 看守は震える手で鍵束を持ち上げる。

「牢を開けようとしても、鍵が回りません。壊れているわけではないのです。ただ……結界のような“力”が、牢屋そのものを覆っているとしか……」


「結界だと?」


 俺の眉が険しくなる。

 ローゼの牢屋はただの監禁場所ではない。

 外界と完全に切り離された、独立した世界になっている――そう言うのか。


 そのとき、アーサーとマッスルが現れた。

 二人とも険しい顔で牢屋を睨む。


「殿下。やはり、ここにいらしたのですね」

「報告が遅れましたが……ミーア嬢が太り続けている件も、ローゼの仕業である可能性が高いと我らは考えております」


「……やはり、そうか」


 アーサーは冷静な口調で続けた。

「先日、ミーア嬢の様子を確かめに向かいましたが、彼女は食事を断ってもなお膨張し続けている。常識では説明できません」


 マッスルが腕を組み、険しく唸った。

「俺たちが介入しようにも、どうにもできませんでした。……奴の呪いが原因としか思えん」


 俺は拳を握りしめた。

 財産を奪い、ミーアを醜く変貌させる。

 すべてローゼの仕業だ。


「看守! 牢を開けられぬと言ったな?」

「は、はい……」

「ならば力で壊す!」


 俺は騎士団の副団長を呼びつけた。


「任せていただきます、殿下」


 副団長は逞しい体躯を震わせ、鉄格子を両腕で掴む。

 雄叫びとともに全身の筋肉を膨れ上がらせた。

「おおおおおおおおっ!!」


 力が炸裂する。

 金属が悲鳴を上げ、地下牢の床が揺れた。

 しかし――。


「……動かん!?」

 副団長が血走った目で唸る。

「信じられん……! 俺の全力をもってしても……!」


 俺は歯を食いしばった。

 ならば、と魔法団を呼び寄せる。


「殿下。ご命令とあらば」


 十数名の魔法使いが並び立ち、呪文を唱える。

 火炎、氷結、雷撃。

 次々と牢屋を襲うが――結果は同じだった。


 轟音が響き、煙が立ち込めても、牢屋は無傷のまま。

 魔法団長が額の汗を拭う。

「……駄目です。通常の結界とは根本的に異なります。我らの魔力は触れることすらできていない……」


「そんな馬鹿な!」


 俺は叫んだ。

 力も魔法も効かない牢屋など聞いたことがない。

 このままでは財産は食いつぶされ、俺は破産だ。


「どうすればいいのだ……! 誰か、策はないのか!!」


 怒声が響き、場を沈黙が覆う。


 すると、一人の若い魔法団員が、おずおずと手を上げた。

「……あの……」


「なんだ!」


「も、もしよろしければ……わたしのおばあちゃんなら、何かご存じかもしれません。古い結界や異能に詳しい方で……」


「……!」

 わずかな希望が胸に差し込んだ。


「よかろう。その者をすぐに呼べ! 俺は一旦部屋に戻る。次の手が決まれば、すぐ知らせろ!」


 そう告げ、俺は踵を返した。


 牢屋を離れる直前、ふと振り返った。

 中のローゼは、椅子に腰かけ、妙な箱のようなものに向かっていた。

 光を放つ板に文字や映像が浮かび、ローゼは楽しそうに口をパクパクさせている。


「……歌っているのか?」


 声は届かない。

 だが、彼女の表情は生き生きとして、牢屋に囚われている者とは思えなかった。

 むしろ、誰よりも自由で、楽しそうに見える。


「ローゼめ……!」


 俺の胸に怒りが込み上げる。

 財産を奪い、ミーアを呪い、牢の中で贅沢三昧に笑う女。

 必ず、この手で引きずり出し、罰してみせる――。


 そう固く誓いながら、俺は地下牢を後にした。


 だが、背後で流れていたローゼの無音の歌声は――

 牢屋番たちにはなぜか、耳の奥にまで残響するように感じられた。

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