見せしめ舞踏会4
「どうでもいいに決まっているじゃない。私は今から帰るのだから」
これで男がブリジットについていけば、この男を押し付けることができる。
ついていかなくてもブリジットたちの鼻を明かすことはできる。
しかし美しき不審者の答えはステラの予想外だった。
「ステラ様がお帰りになるのでしたら私もご一緒します」
「えっ! あなた家までついてくる気なの?」
「もちろんです。私はあなたのしもべですから」
「頼んだ覚えないわよ」
キラキラと輝く笑顔で当然のように言われても困る。
しかし立ち上がってリードするように腕を差し出されると、有無を言わせない迫力があった。
(馬車はないみたいだし、どうせ危険ならこの変人男と一緒に帰る方が安全かしら)
夜闇と不審者のどちらが危険かは推し量れない。賭けだ。
なぜこんな負け試合に賭けなければならないのかとステラは心の中でため息をつく。
「ああそうだステラ様。この男はどうします?」
男はデリックに視線を投げる。
デリックは主役を完全に奪われ、ぼうっと突っ立っていた。
「どうって……」
どうするもこうするも、あんなことをした人間に関わりたくない。
表情を陰らせるステラを見て、男は微笑んだ。
「特に未練はないと考えてもよろしいですか?」
「なっ……あるわけないでしょ!」
「よかった」
男は安心したようにステラに笑いかけ、振り向きざまにデリックの頬をぶん殴った。
「がふっ!!」
デリックの身体が勢いよく吹っ飛び、ぴかぴかの床に転がった。
「雑巾なら雑巾らしく、床を磨いてる方がいいですよ」
(えっ……。ええ……?)
美貌にざわめいた会場が一気に静かになった。
雑巾改めデリックは完全に伸びていた。
突然の暴力にさすがのブリジットも青ざめている。
もちろんステラも背筋が冷たくなっていた。
デリックを殴った謎の男だけが平然としている。
「さあステラ様、帰りましょうか」
謎の美丈夫に身体をかがめられても、そのエスコート用の腕を取る気にはならなかった。
(怖すぎる)
一瞬でもこの男を頼ろうと思ったのが間違いだった。
ためらいなく人を殴る男と一緒だなんて冗談ではない。
剣術と馬術をたしなむデリックを一発でのすのだから、ステラなど分けないだろう。
「一人で帰ります」
「でも馬車がないんですよね」
「聞いてたの!?」
「ここに着いた時ちょうどその話だったんです。さあ共に帰りましょう」
「いやあああ!」