表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/5

見せしめ舞踏会2

「え?」


 嘲笑ではなくどよめき。

 驚愕と好奇心が会場を包んだ。

 ステラが顔をあげれば、光をまとった長身の男が立っていた。


(綺麗……)


 一瞬で目を奪われるほど甘い美貌だった。

 ステラは思わずどきりとする。

 

 新雪のように白い肌と、夜空のような黒髪。

 誘うような深い薔薇色の瞳に思わず吸い寄せられる。

 長身にまとったイブニングコートは不思議な形をしていたが、浮世離れした美しさを持つ男によく似合っていた。


 ぽとりと、ブリジットの手から扇子が落ちて静かなホールに音が響く。

 男はステラとデリックたちの前に現れたが、周囲の様子には興味が無いようだった。


 

 男は優雅な仕草でステラに跪く。ステラは思わず硬直した。

 知っている人間の悪意より、知らない人間の訳の分からない行動の方に恐怖を覚える


「ヒッ」


「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね。エスコートに遅れてしまった私をどうか罰してください」


 凄まじい謎の美形に、にっこりと熱っぽく微笑まれる。

 満足げな男と対称的にステラは冷や汗まみれだ。


(だ、誰?)


 男は大切な宝石を扱うようにステラの手を取った。


「あなたの麗しき御手に口づけることを、醜い私にお許しいただけますか?」


「みにくい? くちづけ……?」


 (これは夢?)


 なにを言っているのだろうか。

 男の発言と視覚情報が食い違いすぎてくらくらする。

 さきほどまでの悪夢とあまりにも違う悪夢だ。

 ぼんやりしていると、ぎゅっと手に軽く力が込められた。自分を見てほしいというように。


「やはりお許しいただけませんか……?」


「えっえっ? 許します……?」


「ありがとうございます」


 反射的に言葉にしてしまった。美青年の頬にさっと赤みがさす。

 柔らかい唇が、手袋をしていないステラの手に触れた。


(熱い)


 なぜだかふと、頭がちくりと痛くなる。

 しかしステラが違和感を追う前に男が立ち上がったので結局は何も分からなかった。

 男が自然な形でエスコートしようとするので、ハッとして突っぱねる。  


「ど、どなたかとお間違えでは」


 美青年はきょとんとする。しかしすぐに少し物悲し気に微笑んで、改めてステラを見つめる。


「間違えるはずがありません。ステラ様。ずっとお会いしたかったのです」


「どうして私の名前を……」


(本当に、間違いじゃないの?)


 手を取った時、彼の手はかすかに震えていた。

 嘘だと断ずるには、あまりにも手が込んでいる。


「だとしても理由が思い当たらないわ」


(ブリジットたちの余興かしら)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ