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5歳のお盆

作者: 花羽 彩

長編書き溜め中の気分転換です。

夏のホラー2021企画投稿用

「こら、(そら)!危ないよ」


 やんちゃ盛りで日夜、チャンバラ遊びやら、かけっこをしている5歳の弟、空は危なかしくて目が離せないのだ。


 もうすぐ盆になる。この時期はどうしても5年前の出来事を思い出す…そう、あれは私もちょうど空と同じ5歳の時だった。





「パパ、ママ行ってらっしゃい!」

「あぁ、行ってくるよ。(うみ)は暗くならないうちに帰るんだぞ」

「わかってる!」


 私はそう返事をすると一目散に駆け出した。


 ここは鍵すらかけないような片田舎だ。

 お盆のこの時期になると、そんな田舎にも帰省に伴ってそれなりに子供が集まる。

 私はこの時期をたまらなく楽しみにしていた。


 普段は3人しか近所に子供がいない。だからお盆には普段できない遊びをたくさんできることが嬉しいのだ。

 この時期には、鬼ごっこ、かくれんぼを中心として遊んでいる。顔ぶれは去年とさほど変わらない。


「お待たせ!」

「よし、今日もいつもの範囲な!」


 ここは見通しのいい田舎だから、かくれんぼの範囲は広い。建物の中はだめでそれ以外はほとんどルールがない。でも隠れられる場所は限られている。建物の後ろか、一番人気は山の上にある神社のどこかの影だ。

 山といっても階段があり、子供でも登れる程度のものだ。


「いーち、にーい、さーん…」


 かくれんぼが始まった。私は迷わず神社へと走っていく。ここ数日、あっという間に見つかってばかりなのだ。今日は絶対に見つからないところに隠れるんだ!

 私は神社に向かう段を途中で外れ、木が生い茂ってるところへと足を踏み入れる。

 この木の影なら、そうそう見つからないだろう。影から様子を伺いつつ、私を通り越して階段を登っていく鬼を見て、ニンマリとする。


「見つけた」


 その声はいつもすぐに私を見つけてしまう陸くんだった。ここでのかくれんぼは見つかったら、探す方に回るのだ。なので割とみんなあっという間に見つかるのだけど、私は最後まで残れたことがない。


「海みっけ!」

「もう見つかってるよ」


 階段の所まで戻った時に再度違う子に言われて、私はむっと口を尖らせる。こうしてお盆は子供達が集まって毎年遊ぶのだ。日が傾き始めても年齢が上の子はギリギリまで遊んでいる。


「危ないからもう帰りな」


 私はというと、毎回のように陸くんに促されて、いつも名残惜しく帰るのだ。私より少し年上なだけなのに大人びている。



「見つけた」


 今日もかくれんぼで陸くんにあっという間に見つかってしまった。小屋の屋根によじ登って息を潜めてたのに、絶対に見つからないだろうと思うところほどすぐに見つかってしまう。


 1週間ほどのお盆はあっという間だ。明日にはほとんどの子が帰ってしまう。もう日が傾き始めていた。


「もう日が暮れてきてる、帰りな」


 陸くんはいつものように言うけど、今日だけは嫌だ。明日にはみんな帰ってしまうのだ。ギリギリまで遊びたい!


「私まだ帰りたくない!一回くらい、かくれんぼで最後まで残りたいもん!」


 このまま、また来年までお預けなんて絶対にいやだ!


「どうせ、次で最後にするつもりだったしやろうぜ!」


 男の子の言葉に頷く。次は絶対絶対見つからないで最後まで残るんだ!陸くんは仕方なさそうにこっちを見てるけど、これは譲れない。


「いーち、にーい、さーん…」


 私は一目散に神社へと向かった。階段を駆け上ると神社の裏側へとまわる。裏側は急斜面になっていて、木で出来た柵がある。私は木の柵を潜り抜けると斜面に沿って寝そべるように隠れた。

 よし、誰にも隠れたところを見られてない。ここなら見つからない。最後まで残れる。

 私はドキドキしながら鬼がやってくるのを待った。


「みーつけた!」


 その声は神社の裏に隠れていた少年に対するものだった。私は見つかってない。鬼たちが去っていくのを息を潜めて待っていた。

 今度こそ私が勝つんだ!そう思っていたのに、日が落ちてきて、すでに暗くなった辺りに不安になっていた。いつもは家にいる時間だ。きっともう私が最後だよね?

 シーンと静まる空間に耐えられなくなった。もう最後じゃなくてもいいや、みんなの所に戻りたい。

 私は立ち上がり斜面を登ろうとした時、足を滑らせてしまった。


 ドサッ…ズサーーーッ


 幸い滑るように落ちたので、かすり傷程度だった。しかし私の足では到底登れないところまで落ちてしまった。

 辺りはすっかり日が落ちて、木々がガサガサと音を立てる。草の当たる感触、虫の鳴く声。全てが不安でいっぱいになった。

 小さな山とは言え、迂回してまわるには真っ暗な知らない道を行かないといけない。



 ……怖い。



 このまま家に帰れないんじゃないか?誰も見つけてくれないんじゃないか?不安で不安で仕方ない。



 ……怖い。



 気づけばポロポロと涙が溢れる。ちゃんと言う事を聞いて家に帰れば良かった。柵を潜って足場の悪い斜面に隠れるんじゃなかった。次から次へと後悔ばかりが頭に浮かぶ。凄く凄く後悔する。

 ごめんなさい!ごめんなさい!!ごめんなさい!!!


 (すが)るような思いで私は叫ぶ!


「誰か!助けて!!お願い!!」



 響くのは自分の声だけ。真っ暗で怖くて後ろを向けず、滑り落ちた斜面の上を見上げる。でももう周囲には誰もいないだろう。ひどい恐怖でいっぱいになり、涙で視界がぼやける。





「見つけた」


 それは聞き馴染みのある声だった。


「…陸…くん?」


 いつも一番に私を見つける陸くんの声だ。自然と涙が止まった。陸くんは斜面を滑って、私のところまで降りてきてくれた。


「帰ろう?」


 そう言って差し伸べられた手にひどく安心感を覚えた。…もう大丈夫だ。自然とそう思った。

 帰り道は真っ暗で木々もガサガサと音を立てている。さっきと同じはずなのに、もう怖くない。陸くんと2人手を繋いで家へと歩く。

 家が見えてくると、玄関先でパパとママが立っているのが見えた。その表情は遠くからでも心配してるのがわかる。思わず手を離して駆け出した。


「パパ!ママ!」

「海!!良かった!」

「心配したんだぞ!本当に良かった」


 パパもママも涙ぐんでいた。相当心配かけたみたいだ。私も涙がまたポロポロと流れる。


「あのね、陸くんが見つけてくれて、それでここまで一緒に帰ってくれたの」


 その言葉に目を丸くして両親が顔を見合わせてる。


「ほら、あの子!…あれ?」


 私が後ろを振り返ると、さっきまでいた陸くんの姿はなかった。もう帰ったのだろうか?


「り…く?…陸が連れて帰ってきてくれたの?」

「陸が…海を守ってくれたのか…」


 きょとんとする私は背中を押されて家の中へと入ると、椅子に座わるように言われた。ママが一冊のアルバムを大事そうに抱えてきて、テーブルの上へとそっと置いた。


「海にはもう少し大きくなってから話そうと思っていたのだけど…あなたにはね、お兄ちゃんがいたのよ」

「お兄ちゃん…?」


 そう言ってそっと開いたアルバムの中にはパパやママと一緒に写る陸くんの姿があった。とても優しい表情をしている。そこに写っているのは私の知っている、いつもの陸くんだった。


「陸は7歳の時に斜面で足を滑らせて亡くなったのよ。頭を打ってしまったの。まだ2歳だった海の事を凄く可愛がっていたのよ。きっと海が心配で見守ってくれていたのね」


 そう話すママの目尻からは涙が浮かんでいる。亡くなったのはちょうど今頃のお盆の時期だったそうだ。同じように、かくれんぼの時だったのかもしれない。

 そう思うと胸がギュッと締めつけられた。


 私は初めて仏壇の前に座った。ちゃんとよく見たことがなかったけど、お爺ちゃんとお婆ちゃんの遺影の後ろに隠れるように陸くんの写真があった。

 その写真を手に取って横に並べると、私は目を瞑って手を合わせる。


「お兄ちゃん、守ってくれてありがとう。もう危ないことしないよ。約束する。だから心配しないで。そしてどうか、もう一度パパとママのところへ来てください」


 この年のお盆を最後に陸くんをもう見かけることはなかった。





「空!こんなところに隠れて!もうっ」

「わわっ見つかった!」


 私から逃れようと弟は家の物置に隠れていた。そんな弟の逃げ道を塞ぐように立つ。


 ……今度は私が守るんだからね!


 私は弟の事を捕まえて、ギュッと抱きしめた。

怖い話苦手なので怖くない話にしてしまいました。怖い体験はあってもほっこり体験はないので物語の中だけでも…。

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