不思議っ子は事件フラグ
登校中に遭遇した不思議な巨女は、未だにセコセコとザリガニを釣っていた
「まさかとは思うが、食うつもりかそれ?」
「?。当たり前」
何を馬鹿なこと聞いているんだと言わんばかりの顔で彼女は俺を見てきた。一瞬正気を疑ったが、もしかしたら彼女の故郷ではザリガニを食っていたのかもしれないため最後に彼女にもう一度聞いてみた。
「お前の住んでいた所ではザリガニをロブスターって言って食っていたのか?一応言っておくとザリガニは適切な調理過程を踏んでも、好きこのんで食う代物じゃねーぞ」
俺の言葉を不思議そうに聞いた彼女は足元にいたザリガニを一匹拾い上げ匂いを嗅いだ。
「ナニコレ、クサイ」
「今更気づいたのかよ」
そう言った彼女は捕まえたザリガニ達を悲しそうな顔で元の川に逃し始めた。なんだこの光景…
ていうかどんだけ捕まえたんだよ!?この辺のザリガニ絶滅するわ!
「私のごはんが…」グギュルルルゥーー
なんとも女の子らしくない音を腹から出した彼女が少し不憫に思えて、俺は学生鞄から菓子パンを出した。いつもは道すがらか学校でこれを朝ごはんとして食べていたが、今朝は嬉しい事に絵里が朝ごはんを用意してくれたため一つ余っていたのだ。
「ほら、こんなんでよければやるよ」
「…食べていいのこれ?」
「ああ、ちょうど処分に困ってたんだよ」
心底嬉しそうに菓子パンを受けとった彼女は、凄い勢いでそれを食い尽くした。
あまりの食いっぷりに驚いたが、同時に少しおかしくなって笑ってしまった。
「おもしれーなお前。俺、獲狼大和っていうんだ。よろしくな」
「私はアル。………ヤマト、もう食べ物ない?」
ぶっきら棒な自己紹介をしたアルは、まだ食い足りないのか俺に食べ物をたかってきた。
ーー●○●ーー
パンをあげたおかげで、すっかり警戒心をといたというより俺に懐いた彼女と田んぼのあで道を歩きながら話していた。
「なんであんな所で野垂れ死そうになってたんだ?」
「食べ物食べるのにはオカネがいるらしい。……でも私オカネ持ってない」
どいうことだ?育児放棄でも受けているのか?うちも半分、育児放棄しているもんだが、毎月生活費はしっかりもらっている。
「親は何しているんだ?」
「私に親は存在しない」
「寝る場所は!?」
「……………存在しない」
こ、こいつホームレスか!?しかしこんな赤髪のデカ女がうろついていたら、この小さい町なら確実に噂になると思うがどこから来たんだ?
少し思案した俺は、昨日のババアの話を思い出す。
「えーとアル。お前いつからこの町にいるんだ?」
「昨日の昨日から、気づいたらここにいた」
条件的にも絵里と似ている。アルも向こうの世界から来たのだろうか?
むしろこんな派手な見た目したやつがパンピーだった方が怖い。
そんな事を考えているとアルが俺を見下ろしながら聞いてきた。
「ヤマトはこれからどこ行くの?」
「学校だよ。中学校」
「ガッコウ?」
アルが不思議そうに聞き返してくる。
「まさか知らないのか」
「うん。何するとこ?」
地味に難しことを聞くな…
「・・・えーとだな、学校ていうのは歳の近い人間が色々学びにきたり、運動したり、着替えをのぞいたりする場所のことだ」
俺が個人的に思う学校のイメージをありのまま伝えると、アルは目を輝かしていた。
「面白そう。私も行く」
「……そう来たか」
「だめ?」
「そ、そうだなー」
上目使いならず下目ずかいをしてきた彼女に、会って初めてドキッとさせられた。
出会ってまもない彼女だが、不思議と気にかけてやりたい気持ちがなぜか芽生えてくる。
だから俺は気休め程度の気持ちで言った。
「俺ももう少ししたら卒業、つまりやめちまうんだ」
「そうなの?」
「でも、たいていの人は次に高校といって中学高よりも、もっと楽しいところに行くんだ。だからアルもその時は一緒に行こうぜ」
断られると思っていたのか、少し驚いた顔をした彼女だが、すぐに顔をほころばさせ言った。
「うん。すごい楽しそう」
グギュルルルルゥ
いい感じにアルの学校突撃をかわしたと思ったら、またしてもこの女は腹を鳴らした。
「ヤ、ヤマト」
すがるような目で俺を見るな!もう何もねぇーよ!
体はデカイくせに小動物みたいな声だしやがって。
「はぁー、わかったよ。帰りにまたここ通るからその時に給食の残りやるよ」
そう言うと彼女は可愛い顔で笑い抱きついてきた。
「ありがとう大和。今まであった人間の中でヤマトが一番優しい」クンクン
あろうことか、匂いまで嗅いで来た彼女は俺に失礼な事を言ってきた。
「ホントに人間?」
「どこからどう見ても人間だろ!!」