終着。そしてラッキースケベへ
圧縮された俺の攻撃を受けたジークはグラウンドの上を盛大に滑っていき朝礼台に激突して動かなくなった
「・・・やべ、死んだかも」
いくら殺されかけた相手とはいえ、正直この歳で人殺しの十字架背負って生きていく覚悟なんてないんだけど
(なに甘いこと言ってんだよ、神滅の黒狼の俺様を目覚ました時点でお前はこれからこんな殺し合いばっかする事になるんだから、それぐらいの覚悟がないとすぐ死ぬぜ)
・・冗談じゃないよそんなの、ただでさえこの耳と尻尾が生えて困ってるっていうのに
(あ?なんだそんな事心配していていたのか。その耳と尻尾は能力を解除すれば消えるぞ)
なんだよ、早くいえよそう言うことはよ・・・・あっ、ほんとに消えた。
「大和!何か作戦があるとは思ってたけど、さっきのとんでもない攻撃は何よ?いつの間にか可愛い耳と尻尾も消えてるし…」
なんでちょっと残念そうな顔してんの君。
「いや、俺にもさっぱりなんだが。自分を世界最強だと思い込んでいる狼さんが頭の中に話しかけてくるんだよ」
「何おかしな事言ってるのヤマト?どこかで頭ぶつけた?」
「普段一番おかしなこと言うお前にそんな心配されたくないんだが…」
アルもテクテク俺に寄ってきてそんなふざけたことを言う。
「ていうかアルこそさっきのなんだよ!いきなり腕貫通してすげぇ焦ったぞ」
「私もあれには肝冷やしたわよ…ジークも言ってたけどそれがドラゴンの力なの?」
「・・・うん。これは貪食の鱗って言う私の鱗の力なの。ドラゴンはみんな私みたいに鱗に自分の力を宿してるの」
へー、疑ってたわけじゃないけどウチのフェリルの言ってたことは本当だったんだ
(おいお前疑ってたのかよ!いい加減に俺様への不遜な態度を改めてもらおうか!)
いやーそうは言ってもフェリルさんよ、俺らまだ出会って間もない関係じゃん。まだ完全に信用するって言うのはちょっと不用心じゃないですか。
(・・・・・・・・・・もう何も教えてやらん)
あ、拗ねた
「おーいなんか凄いおとしたけど、終わったのか?」
どうやら全ての害異形を倒し終えたようで海斗がこっちに駆け寄ってきた。
ってかこいつの強さも大概だな。
「ああ、なんとか三人でギリギリ倒せたぜ」
「すまない、なかなか加勢できなくて。・・・それより大和。お前今の口ぶりだと目覚めたのか銀貨使いに」
「・・・・なんだよ知ってたのか海斗」
「ああ、全部を知っていたわけじゃないがお前が銀貨使いだって事は聞かされてたよ」
「そうか」
この話題で今更海斗と言い争いをする気はないので俺は海斗の言ったことをただ事実として受け止める。
少し変な俺たちの空気を察したのか絵里が元気に言う。
「まぁ、そんな事よりアイツが逃げないように拘束か何かした方がいいんじゃない?」
「ああ、確かにそうだね。あいつの身柄は僕が本部に責任持って送らせてもらうよ」
そう言い海斗は黒みがかった手錠を内からだしジークのへかけに行こうとした時。
「それはちょっと困るなーー」
この場で聞こえるはずもない子供の声が、廃校のグラウンドに響く。
俺たち4人は一斉に声の主の方を向けるとそこには、上品な服を着た金髪碧眼の小学校高学年ぐらいの少年が立っていた
「あんたはあの時の誘拐された子供!」
「私たちをダマした子」
どうやら絵里とアルを騙すためにジークが用意した誘拐役の少年のようだ。見てくれはどこかの良家の子供って感じで、どう見ても脅威を感じられない。
俺が戸惑っていると横の海斗が少年に詰問しだす。
「困るって言っていたが、それはどういう意味だ?」
「そのままの意味さ。こんな人だけど僕たちの仲間だから連れて行かれたら、僕としても迷惑なんだよね」
「そうか言いたい事は分かった。だが、だからと言ってこのまま逃げれると思っているのか?」
俺以外の3人が臨戦態勢になり少年を捕縛しようと身構えている。
俺も慌てて警戒するが、そんな俺たちとは逆にその少年は未だひょうひょうとした態度でポケットから羅針盤のような物を取り出した。
「いやー僕としてもそこの神滅の黒狼を持っているお兄さんと遊びたいところなんだけど、あいにくこの後用事が入っていてそれどころじゃないんだよね」
そう言うと少年は年相応の細い指で羅針盤の針を軽く弾いた。すると彼とジークの周りに黄緑色の粒子のような物がふつふつと湧き出でてき、俺たちのいる廃校を淡い黄緑色の光で照らしていく。
「まずいぞ、あれは空間移動のできる銀貨だ」
海斗が焦ったように口にし、例のCDディスクの様な武器を少年に投げつける。
しかし少年はなおも余裕な様子で立ち、避けるそぶりも見せないで海斗の攻撃をその身で受ける。
「へー面白い能力ですね。これは確かにただの害異形を何体も用意しただけじゃ歯が立たないわけだ」
直撃したように見えたが、海斗の攻撃は少年には当たらず何故か後ろの校舎へと向けられていた。
「なっ、・・・それもその銀貨の力か?」
「さぁ、どうでしょうね」
少年はからかっているのか楽しそうに首を傾げる。その表情は子どものそれとは言い難い艶やかなもので、この少年もまた尋常ではない存在なのだと俺に訴えかけてきた。
「それじゃ皆さん。本当に僕はもう時間がないので行きますね。・・・・・あ、そうだ最後に神滅の黒狼のお兄さんの名前を聞いてもいいですか?」
一瞬答えるか迷ったが、ジークにはすでに名乗っていたためバレるのは時間の問題だと思い、俺は堂々と名前を口にした。
「・・・獲狼大和だ」
「獲狼大和、・・・大和さんかいいお名前ですね。僕はハリルト・レイス、気軽にハリルとお呼びください。」
ハリルト・レイスと名乗った少年は実に丁寧なお辞儀をし別れの言葉をいう。
「またいずれお会いした時はお茶ぐらい出せるように準備しておきますので、楽しみに待っていてください。では僕はこの辺で失礼させていただきます」
ハリルトとジークは黄緑色の光と共に跡形もなく消えた、消える瞬間ジークがこちらを見て何か呟いていたがその言葉は俺には届かなかった。
「今更だけど俺、とんでも無いことに巻き込まれたんじゃないか?」
いたって普通な俺の心配に絵里が呆れたような顔で見てくる
「あんた今更気づいたの?・・昔と変わらずおめでたい頭してるわね」
「やっぱり大和の馬鹿さ加減は昔からだったんだな」
海斗も絵里に混ざって俺を馬鹿にしてくる。
あんたら俺にやつ当たりしてるんじゃないか!?
「馬鹿野郎!こう見えて俺は一度も赤点とったことないんだぞ!」
「それ別に自慢するような事でも無いでしょ…」
ぐっ、確かに今のは墓穴を掘ったかもしれん。
言い返せないでいるとアルがそんな俺を見かねたのか慰めてくれる。
「ヤマトはバカじゃないよ。私にたくさん格ゲーコマンドとかお風呂の入り方教えてくれたもん」
おい!馬鹿ドラゴン何口走ってるんだ!?
「お風呂の・・・入り方・・・」
案の定絵里が言葉の意味を勘違いしておでこの青筋を波うたしている。
ほらーやっぱりこうなったじゃん。
「だからなんでお前はいつも、そうやって悪い受け取り方しちゃうかなー」
「うるさい!言い訳は制裁を食らわしてから聞こうじゃない!」
「いや、先に聞けよ!・・・あ、ちょっと待ってその朝礼台でなにする気なんだ。落ち着け!そんなで投げたら死ぬ。ウワァアアアアア」
いつもこのオチ。何回すんだよ!




