たった30枚の銀貨
ババアの話から、花畑園に異世界について何か情報を見つけられないかと思い立った俺だだったが、実際出てくるものは、二年前までここで生活していた絵里たちの私物やら生活品などが見つかっただけだった。
あっ!これ大知に昔あげた駄菓子のおまけシール、こっちは沙羅が背伸びして買ったネイルセットじゃん。
当初の目的を忘れて俺は次々と見つかる、花畑園のみんなとの思い出の品に懐かしさが込み上げ、ついつい夢中になってしまった。
「いかんいかん!こんなことしてたら日が暮れちまうぜ」
俺は乱雑に出されたみんなの物を元の位置に一度全て戻した。
もしみんなが帰ってきた時、自分の物を勝手に触られたと知ったら沙羅あたりがブチギレるに決まってる。
あまりにも想像するのが容易すぎて、俺はつい笑みがこぼれてしまった。
その後、みんなの部屋のホコリをついでに綺麗にした。
だが、このままでは何も進展がないと思い、俺は一度も入ったことのない浮船先生の部屋へ入ることを決心する。
当時は誰も入室する事はおろか、覗くことも許可されてなく、中がどうなっているのかは浮船先生本人いがい誰も知らないのだ。
浮船先生の部屋は二階の一番奥の部屋で、そこは陽の当たりが悪いせいか、日中でさえ誰も寄り付かなかった。
さすがにこの歳になると、暗がり程度で怖がることは無かったが、いざ部屋の前に来ると、隠れん坊をしている時の謎の体の震えに似たものが全身を伝う。
興奮で震える手を強く握りしめ、俺は生まれて初めてそのドアノブを回す。
鍵がかかっていたらどうしようかと思ったが、ドアは意外にもすんなり開き、部屋の中に充満している古い木の匂いが俺の鼻腔をかすめた。
「・・・・はいちゃったよ、ついに」
中は以外にも狭く、右端にシングルベットが一つと、その横には綺麗に整頓された本棚、そして一番目を引くのは、大きな円窓を背に部屋の中央に置かれた立派なアンティークの机だった。
全体的に書斎のような作りで、とても落ち着いた雰囲気を醸し出している。
正直、昔は研究室的なものか、黒魔術的な光景が広がっていると勝手に想像していたため、少しがっかりしていた。
「いや、そんな事より手掛かり探さねぇと」
俺は部屋に置かれた本棚が怪しいと思ったが、どれも難しそうな哲学書ばかりでこれといって特に変わったものは無かった。他にも机の引き出しや、少し気が引けたがベッドなどもくまなく探したが同じく何も無かった。
俺は完全に行き詰まったと思い、机の前の大きな椅子に腰掛けた。
「うおっ、スゲェー座り心地いいなこの椅子」
そんな風に現実逃避をしていると、本棚の上にオルゴールのぐらいの箱が置いてあるのを見つけた。
俺は藁にもすがるような思いでその箱を手に取り開けてみると、中には質素でえらく古い絵本が入っていた。
「なんだよ、絵本かよ」
哲学書は読めなくても、絵本ぐらいは読めると思い。
俺は暇つぶし程度の気持ちでその絵本を読むことにした。
手に持ってみてわかったが、この絵本恐ろしく短いもので、もはや本と言える厚さではなかった。
表紙を見てみると、白塗りの人間の周りに12人の別の白塗りの人間がその人を囲っているというモノだった。
「気味わりーな」
1ページ目には
13人の白塗りの人間が白い立方体の前で膝をつき、なにやら話を聞いている様子だった
2ページ目には
白塗りの人間たちが川を作ったり、山を作ったりと何やら忙しそうにしている中、一人だけ絵の中央で大きな椅子に座りその光景を眺めている白塗りの人物がいた。どうやらこいつがリーダー格のようだ。
3ページ目は
白塗りの人物たちを讃えるように、小人のようなものが13人の前にひれ伏していた。
4ページ目は
黒い立方体の前で銀貨の様なものが入った袋を受け取る、白塗りの人物の姿が描かれていた。
5ページ目には
13人の白塗りの人物たちが豪華な食事をしている様子だった。
6ページ目は
白塗りの人間の一人が、30人の小さな小人に串刺しにされている様子だった
全く何の話なのかわからず、絵本はここで終わってしまった。
モヤモヤした気分で本を閉じると、背表紙にも何か描かれていた。
それは、表紙と同じように白塗りの人物の周りに、また同じような白塗りの人間が囲っているというものだった。しかし、ただ一つ違う点があるとすれば、周りの白塗りの人間の中に黒塗りの人間が混ざっていることだった。
「なんで、こんな気持ち悪い本大事にしてんだ?先生」
今は行方不明の尊敬する師に俺は初めて不信感を抱いてしまった。
ーー●○●ーー
結局何も情報をつかめなかった俺はババアに鍵返すついでにタッパを受け取り帰路についていた。あたりはすっかり暗くなっており俺の気落ちに拍車をかけているようだった。何も情報を掴めないばかりか、尊敬する先生の知らぬ一面を見てしまってしまい俺は珍しくナーバスになっていた。
こんな気持ちを払拭したいため急いで家に帰った俺だったが、珍しく家の中は静かだった。
「あいつら、どこ行きやがった……」
何か連絡来ていないかとスマホを確認したところ、先日親父に買ってもらった絵里のスマホからメールが届いていた。
『帰り遅いから、夕飯の買い出しいってくるわね』
どうやら二人揃って買い物に行っている様子だった。
しかし、メールが送られてきた時刻は午後5時54分。対して今の時刻は7時43分。
地元のスーパーに買い物に行くだけでこんなに時間がかかるものなのか?
少し、焦る俺は絵里に電話をかけるが、なかなかでない。
また3度ほど掛け直したが、一向に出る気配がない。
いよいよ何かあったのかと不安になりだす俺の耳に電話の着信音が届く。
急いで出ようとスマホを確認したところ、知らない番号からビデオ通話でかかってきていた。
出るか迷った俺だが、意を決してそのビデオ通話に応答する。
「・・・・誰だ?」
スマホに写っていたのは世界震によって廃校処分を余儀なくされた小学校だった。
そして、そこには大量の害異形と戦う、傷だらけの絵里とアルの姿があった。
「絵里っ!!アルっ!!」
思わず彼女らの名前を叫んでしまった俺に、スマホから軽薄な声が響く。
「大和くん!見てるかーい。今なんと絵里ちゃんとトカゲ女の戦闘シーンを絶賛生放送中でーす!それで、どうかな大和くんもこの会場に飛び入り参加してみるっていうのは?」
相変わらずふざけた態度でジークが俺を挑発してくる。
どう考えても罠何だろうけど、あんな映像見せられて黙って居られない。
「・・・テメェ。絶対そこから動くんじゃねぇーぞ」
「当たり前だよー、心外だなー。・・・・・・・そんなことより早く来ないと、終わっちゃうよ?」
「心配しなくとも、すぐぶっ殺してやるから覚悟しとけよ…」
俺は通話をきり、全力疾走で例の廃校へと向かう。寒い冬の空気が肌をピリピリと刺すがそんな事も気にしていられなかった。
やるのみちは人通りが少なく、幸い好奇な視線に晒されることはなかった。
しかし、その道中に意外な人物が現れる。
「大和。そんなに焦ってどこに行くつもりだ?」
「海斗?」
そこには制服が所々破けている海斗の姿があった。彼の出で立ちがとても気になったが今はそんな事を聞いている暇は俺にはない。
「悪いが海斗、今話している余裕ねぇーからまた今度な」
それだけ言うと俺は親友の横を通り過ぎようとまた駆け出す。だが、彼はそんな俺にまたしても話しかけてくる。
「大和。お前がジークに会いに行っても、死体が一つ増えるだけだぞ」
「っっ!!・・・お前なんでそんなこと知ってんだ?………」
ここ最近で一番驚くような、海斗の発言で俺はつい足を止めてしまう。そんな俺を真剣に見つめる彼はおもむろに両手を突き出し言った。
「来い、残響を知る者」
すると彼の首には赤色のヘッドホンとその周りを浮遊する、鋭利なCDディスクのようなものが現れる。
俺は一度このCDディスクをジークとの戦闘の時に見たことがある。あの時はこのCDディスクが俺たちを助けてくれたおかげでジークを追い払うことができたのだ。
「・・・お前だったのか?あの時助けてくれたのは・・・」
「ああ、そういう命令を受けていた。」
命令?海斗はどこかに雇われているのだろうか?
詳しことは知らねーが、その命令とやらで絵里かアルをを守るようにしているってことか
正直、カイトが神墜器使いていうのを隠していたのはショックだが、逆に言えば頼りになる親友が今ら助っ人になるっていうのは、結果的にいいのかもしれない。
「よし!色々言いたいことはあるが、とりあえず今は絵里とアルを助けに行くぞ!心配すんな場所はもう知っているから。・・・・お前の命令って言うのもこれのことなんだろ?」
そう聞く俺に海斗はくらい面持ちで否定した。
「いや、違うんだ大和」
「は?何が違うんだよ」
全く理解できない、絵里やアルをも守る以外に命令をうけてるんだったら、あの時俺たちを助けた理由がないじゃねーか。何を意味わかんねーこと言ってんだこいつ。
「・・・俺が受けている命令っていうのは、大和お前を守ることなんだ……だからお前をこのまま行かせるわけにはいかない…」
「は、はぁ?なんで俺なんだよ?・・・お前は絵里かアルを守るために来たんじゃねーのか?」
「ああ、そもそも俺の任務は最近出されたものじゃなく、2年前から遂行してている」
ちょ、ちょっと待てよ。それってつまり。
「俺と仲良くしてたのも………任務の一貫てことかよ…」
「・・・・・・・・」
海斗は何も言わずに無言で肯定する。
「なんだよそれ!ふざけんな!!」
動揺する俺に海斗は申し訳なそうに下を向いている。
冗談じゃない、今まで俺とずっと友情ごっこしてたって言うのかよ。あの時もあの時も。あのときでさえも。
・・・・・全部嘘だったのかよ。そんなことってありかよ!
世界震で花畑園のみんなを亡くしたと思っていた所に。いつも心の支えになっていた親友が実は、仕事で俺に気を合わせていただけなんて、信じたくなかった。
俺はは自分の中で処理できない程の怒りを海斗にぶつけようと、掴みかかろうとした瞬間あることに気づいた。
彼が右に視線を送りながら、左手の人差し指と親指をしきりに擦り合わせていたのだ。
これは彼が嘘をつく際にする癖のようなものだった。
それを見た時俺は多田海斗がどんな人間か思い出した。決して嘘をつけず、気配りができ、友達思いなムッツリ残念イケメン。
そんな彼なら、わざと俺に恨まれるような嘘をつくのは当たり前のことではないだろうか?。
あらためて、俺は海斗に向き直り言った。
「俺に任務で近づいてきたってのは本当なのかもしれねぇ。・・・だけどな、そこから俺たちが過ごした青春は、そんな任務だとか命令みたいなつまらない物じゃなく、もっと本物に近いものだったはずだ!」
海斗は殴られる覚悟をしていたのか、俺がそんな言葉を並べるものだから混乱している様子だった。
「だから海斗、今から俺はお前を親友として頼む」
俺はまっすぐこの二年間ともに過ごした親友を見据えていう。
「俺と一緒に絵里たちを助けに行ってくれ」
海斗は俺の言葉に目を丸くして驚いていたが、すぐにいつも見たいな呆れた口調で言い返してきた。
「ったく、お前には叶わねーな…」




