UFOとかUMAの映像って、ついつい見ちゃうよね
アルとの出合い、ジークの襲来。と怒涛の三日間を過ごした俺たちは、これからもっと酷い状況になっていくのかと思っていたが、拍子抜けにもそんなことは無く、気づけばこの奇妙な共同生活は一ヶ月を経とうとしていた。
少し肌寒いと感じていた気温も、今では厚着しないと外を歩けないぐらい冬も本番を迎え。
俺が通っている中学も今日で学期が終了し、いよいよ明日から冬休みが始まろうとしていた。
今でもHRを利用して担任が長期休暇についての注意事項やら、受験はこの時期が大事などと口うるさく生徒達にいい聞かせている。しかし、このクラス生徒の大半は地元の高校に行くつもりの奴らがほとんどで、今も冬休みの計画をおもいおもいに相談し合っており。かくいう俺もその中の一人で、隣の生徒となんてことない談笑を楽しんでいた。
そうこうしていると担任の話が終わったのか号令係が帰りの挨拶をかけ、生徒たちはそれぞれの仲のいいグループに分かれ下校していった。
俺も海斗と帰ろうと思い彼の席に向かう。
「おーい。イケメン俺たちも帰ろうぜー」
「ん?大和か…悪いが今日も用事があって帰れそうにないわ。すまん。」
「おまえ最近付き合い悪いぞー、用事ってそもそもなんだよ?・・・・・・・まさか!俺に黙って女作りやがったなお前!そうだろ!・・誰だ二組の田中か?テニス部の山岸か?それとも担任の根元か!?・・」
「いや最後既婚者じゃねぇか!」
クソッ!そもそも海斗のようなイケメンに今まで彼女がいない事自体おかしかったんだ。こいつの欠点て言えばムッツリな事と俺という親友がいる事だけだからな。
チクショッ!!・・・モテない俺を嘲笑いながら可愛い彼女と下校デートしてたから、最近付き合いが悪くなったんだな。この裏切りもんが!
そんな八つ当たりに近い視線を送っている俺に海斗は呆れながら言う。
「はぁー、言っとくがそんな浮ついたことでお前の誘い断っているわけじゃないぞ。・・・だいたい彼女できたら俺がお前に自慢しないわけないだろ……」
「…た、確かに………」
この腹黒のことだ、もし彼女ができたらいの一番に俺に報告して、交際記念の写真を一枚でもを送ってくるはずだ。・・・まぁーその時は彼女の見てないところでこいつをボコると思うが。
しかし、女じゃなければ何の用事なのだろうか?
「じゃー何の用事なんだよ?」
「・・・・別にそれはいいだろ。終わってからまた言うから。」
海斗にしては少し頑固な物言いに、あまり触れて欲しくない内容なのかと思った俺はそれ以上しつこく聞くのをやめることにした。
「…わかったよ。……その代わり何かあったら、ちゃんと相談しろよ」
「ああ、そん時は頼むよ」
そういって俺もクラスの連中同様に教室を後にした。
ーー●○●ーー
やることも特にないため真っ直ぐ家に帰ってきた俺にまず聞こえてくるのは絵里の怒声だった。
「アル!!ちゃんとトイレしたら流しなさいって何度言ったらわかるの!」
「貴重なドラゴンの糞を捨てる、エリ達のほうがどうかしてる…」
「誰から出ようが糞は糞よ!このへっぽこドラゴン!」
そんな乙女の会話とは思えないような内容でケンカする二人の光景も、もはや日常茶飯事となってしまった獲狼家ではこの様な事が一ヶ月間ほぼ毎日行われていた。
すっかり慣れてしまった俺は黙ってコタツに入って外で冷え切ってしまった体を温めようとする。
そんな俺に絵里がうんざりした風に言ってきた。
「大和、あんたからも言ってちょうだい!・・・トイレぐらい流せって」
「まぁーいいじゃねぇか。アルだってまだ地球での生活に慣れてないんだよ」
「いやいや、もう一ヶ月よ!なんであんたそんなにアルに甘いの!」
まるで一児を抱える夫婦のような会話に、思わず苦笑が漏れてしまう。
確かに最近アルを甘やかし過ぎなところはあると自分でも自覚している。そろそろ厳しめに説教してもいいかもしれんな。
そんな風に思っていると、俺の足元のコタツからアルが出てきた。
「ヤマトおかえり、帰ってたんだ。・・・すごい体冷たくなってるよ?私が温めてあげるね」
そう言うと彼女はその大きな体で俺を包み込んだ。
コタツでヌクヌクとなった体と彼女の謎の抱擁感ですっかり骨抜きにされた俺は、今しがた彼女に説教しようと思ってたことなど忘れてしまっていた。
「コラッーーー!またやってるわねこの泥棒猫!!」
「・・・私、ドラゴンだよ?」
そんなアルの鋭いツッコミに顔を歪ませた絵里は、お馴染みの眉間の青筋を波打たして飛びかかってきた。
「ううーー、関係ない!まとめて食い殺すわ!!」
そう、これが本当に毎日あります。いや幸せなんだけどね。
でも、こいつらの喧嘩に巻き込まれると俺の体と家は何かしらの破損を余儀なくされてしまうから止めるのにも一苦労なんだよ。
俺は現実逃避しかけの頭をふるいおこさせ、今日も命がけの喧嘩の仲裁へと身を投じる。
ーー●○●ーー
クリスマスイブまで二日を切った冬休み初日の正午、俺はある場所に向かった。
「ババアいるかー?」
「・・・はぁー、うるさいのが来たね。絵里の忘れ物でもとりにきたのかい?それともまたあの赤髪の嬢ちゃんについてかい?」
ババアはいつも通り番台の上から悪態をついてきた。アルについては、あの後ババアにも一応報告しておいたため、そんなことを聞いてくる。
「ちげぇーよ。絵里があんたのことが心配らしくて俺にこれを持って来させたんだ」
俺は手元の鞄から肉じゃがの入ったタッパを出した。
「ふふっ、絵里のやつはあんたと違って本当にいい子だよ」
「うるせぇ、そんなの俺が一番知ってるわ」
「へー、そうかい」
何がそんなに面白いのかババアは俺をニヤニヤしながら見ていた。
・・・・いや、きもいわ
そんな視線に耐えられず俺は別の話題を切り出す。
「そういえば、あの害異形とか言う奴はもう来てねぇのか?」
「ああ、あれから一度も見てないね。・・・それにあの時は絵里や赤髪の嬢ちゃんがこっちの世界にきた影響にで、たまたま現れたんだろうさ。本来は事前に国やら民間業者の奴らが処理してくれるはずだからね」
え、あの害異形って国とか普通の人にも知られているのか?それにしてはそれ絡みのニュースなんて一度も見てないんだけど…
「ババア、害異形ってそんなに知られているものなのか?」
「いいや、私は少なからず関係者だから多少の事情は知っているが、普通に暮らしていたらそんなこと知らずに一生を終える人間が大半だよ。・・・それでもたまに遭遇してしまう運の悪い奴は昔からいてね、そいつらが害異形を見た時の目撃談とかが、今でいう妖怪だとかUMAの元になってるんだよ」
たまにでるババアのウザい雑学に、今回ばかりは普通に感心してしまった。
俺たちの知っている、それこそ河童だとかネッシーだとかの正体が、実は害異形の可能性があるからだ。
てことは害異形にも色々な種類がいるってことか
しかし、あんな怪物が何年もバレないのはおかしいだろ。そんな素朴な疑問をババアにぶつけてみる
「でもよく今まで隠せてきたな」
「あえて、嘘っぽい映像と混ぜてネットや記事に載せて大衆の意識を操作しているらしいよ」
「・・・こ、こぇー・・」
あの特番とで見る低クオリティーのCGが、まさかわざとだったとは・・・
頭のいい奴の考えることは本当に恐ろしいな。
しかし、なんでこの銭湯で番台しているだけのババアがこんなに博識なのだろうか?
「ところでババアはなんでそんな事知ってるんだ?」
「・・・・・浮船の小娘の前の園長、あんたは会ったこと無いだろうけど彼によくそんなことを教えてもらってね」
柄にもなく寂しそうな顔で彼女は、浮船先生の前の花畑園の園長について語り出した。
どうやらその人は、異世界やら害異形やらに詳しい人物のようだ。
なんでも、花畑園を運営する前は国で害異形を狩る仕事についていたらしい。そして、その仕事中に家族を害異形に殺された孤児たちを保護しだしたのが、花畑園の始まりだとババアは言う。
まさか、花畑園にそんな生い立ちがあったとは・・・
そこで俺はあることに気づく。
「もしかして、花畑園に行けば、当時の資料とかあったりするのか?」
「さぁね、詳しく探そうだなんて思ってもなかったから、案外見つかったりするかもしれないね」
よし、そうと決まったら行くしかねぇな!
まさかこんなに近くに手がかりがあったなんて。
「ババア、花畑園の鍵貸してくれ!」
「はぁー、そう言うと思ったよ。・・ほれっ」
ババアは仕方なしに、番台の上から鍵を投げた。
「サンキュー。じゃー、ちょっくら行ってくるわ・・・・・・あー肉じゃがのタッパ、鍵返すときに貰うからそれまでに食っとけよ」
「はいはい。仕事の邪魔だからさっさと行きな」
ったく気難しいババアだな。でもこれで何かわかるかもしれねぇー
俺は今の状況をなんとか進展出来るかもしれないと意気込んで、花畑園に向かった。




