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ドラゴンは洞窟とコタツが大好き

ジークの襲撃から無事に家に帰ってきた俺たちは、傷の応急処置を施した。絵里の傷は痛みの割に深いものではなく、彼女曰く一日寝れば治る物らしい。

どうやら神墜器使い(バベルホルダー)っていうのは、運動神経、精神力、回復能力。その他諸々の身体機能が常人のそれとは比べられないほど発達しているらしい。

どうりで、ボウリングの成績があんな頭おかしい事になるわけだ。


その後、風呂で汚れを落とし、俺たちは三人ともテーブルを囲い座った。

しかし、帰ってきてからというもののアルは俺たちを巻き込んだ事を負い目に感じているのか、いつもの図々しさが完全に消えていた。

そんなアルに絵里は優しい声で言った。


「居候の身で今更何落ち込んでんのよ、襲われたことについては私も大和もなんとも思ってないわよ。…どう考えてもあのジークとかいうイカれ野郎の方が悪そうだし」


アルを励ますようなことを珍しく同じく居候の絵里が言った。まさか絵里がそんなことを言うと思ってなかった俺が、少し意外そう顔をすると机の下からすねを蹴ってきた。

そんな絵里だが、今度はうって変わって厳しい口調で言い放つ。


「…ただし、私たちを巻き込んだ以上、ちゃんと隠し事なしにあんたが知っていること教えなさい。」


一見怒っているだけにも取れるその発言は絵里語的には「あんたのことを見捨てないから、その代わりちゃんとした情報をよこしなさい!」的な意味だと思う。・・・変わらねぇな…

俺のことをお人好し呼ばわりする彼女だが、その実一番のお人好しは紛れもなく彼女なのだ。

昔から文句を言いながらも親しい人間には労力を惜しまないのが彼女の性格だ。俺はアルがその()()()()()の中に入っている事が何故かとても嬉しく思えた。


アルは絵里の言葉に答えるか少し悩んでいる様子だった。俺はそんな彼女の背中を押すため声をかける。


「アル。絵里も言ってる通り、俺たちももはや無関係じゃないんだ。だから、本当に俺たちのことを心配するなら、アルが知っている事全部教えてくれないか?」


俺の言葉の真偽を確かめるようにアルが俺の瞳を見てくる。数秒見つめ合ったのち、彼女は諦めたように笑い言った。


「うん、そうだね。ヤマトもエリも私のこと信じてくれる、だから私も信じないとダメだよね」


俺たちは出会ってまだ三日しか立っていない、思い出と言えるものなど数える程度しかないだろう。

だが、紛れもなく()()()()()()()()()()。食いしん坊で世間知らずの彼女のことを知ってしまったのだ。そんな彼女が命を狙われていると知っては、普通の人間なら助けたいと思うのではないだろうか?少なくとも俺はそう思えるような人間でいたい。

あの、花畑園にいた浮船先生のように。

俺同様におそらく絵里も尊敬する彼女ならこうするはずだと信じているのだろう。その表情には全くの迷いなど存在していなかった。


ギュルルルルルー


そんな俺たちを見て肩の荷が降りたのかアルがお馴染みの腹の音を出した。

思わず俺と絵里はそんなアルを笑ってしまう。


「そう言えば、晩御飯まだだったわね。とりあえず私がとびっきり美味し物作ってあげるわ!」

「と、とびっきり・・・おいしいもの・・」


そんな絵里の言葉にアルがいつもの調子に戻ってきた。俺はこれ見よがしにさらに乗っかる。


「ああアル!絵里はこう見えて料理がすげぇ上手いんだ!」

「大和…あんたには私が()()見えてるの?」


やべっ、しくじった。焦る俺は意味不明な言葉を並べてしまう。


「いやっ!お前って結構パワータイプなところあるだろ!?だから料理とかできないと勘違いされそうだなーと」

「・・へぇー、私ってパワータイプだったのね。・・大和そんな風に思ってたんだ……」


あーーーやばいやばい、墓穴がどんどん深くなってしまう!


「ちが、違う!パワーって言うのはあくまで性格的な意味で」

「…ヤマト、それフォローになってない…」


・・・あ、確かに。

そんことを思っても口から出た言葉はもう取り消すことはできないのだ。正面を見れば、眉間に青筋を浮かべ今にも爆発寸前の幼馴染が鬼の形相でこちらを睨んでいた。

まって!、今日襲ってきたジークの鬼達より全然怖いんだけど!?

そんな彼女は例の意味不明な決め台詞をいう


「食い殺してやる!!この恩知らず!!!」


何度聞いても。食い殺すどころか歯すらたてない彼女は俺に綺麗なジャーマンスープレックスをかけてきた。


なんでいつも俺は、会話の終わりに暴力を振るわれるのだろうか?

・・・あー俺が失言したからだったわ。


そんな自問自答をしながら俺は気を失った。


ーー●○●ーー


食事を終えた後俺たちは居間のコタツに入りアルの話を聞こうとしていた。

俺的にはアルに話を聞く行為自体に一種のトラウマを持っているので、内心前のような事にならないか正直、心臓バクバクだ。

そんな当のアルは真剣な面持ちで話し始める。


「今日襲ってきた人が私のことを()()()()って言ったの覚えてる?・・・・・・・じつはその通りなの」


確かにジークはアルのことを嘲笑混じりに()()()()だとか()()()()()()だの言っていたが、それが合っているというのはどういうことなのか?


「・・アル、つまりそれはどういう意味なんだ?」


アルは緊張しながら言った。


「私は、世界に7体しかいないドラゴンの一体なの……」

「「ふぇ?」」


え、ドラゴン?ドラゴンってあのドラゴン?

あまりにも急にファンタジー単語が出てくるものだから、つい二人揃って間抜けな声が出てしまった。


「ド、ドラゴンって、あの翼が生えて尻尾のあるあのドラゴン?」

「うん。少なくとも私はそうだよ…」


なぜか少し恥ずかしそうにアルが答える。翼とか尻尾はドラゴン的にはあまり見せないものなのだろうか?


「で、でもどう見たってあんた、せいぜい背の大きな女の人間にしか見えないわよ!」


絵里が俺も気になっていたことを聞いてくれた。そんな絵里の質問にアルは丁寧に答えようとする。


「ううんエリ、そうじゃない。もともと人間は神やドラゴンをマネして作られているから。どっちかっていうとエリたちは神の見た目に近いっていうほうがあってる…」


え?うん?

つまり俺たちが神様とドラゴンの姿を模しているのであって、アルが人間の姿をしているわけじゃない?

んん??でもドラゴンって翼とか尻尾あるんじゃないのか?俺は素朴な疑問をアルにぶつける。


「でも、アル、ドラゴンっていたっらさっき言ってた翼やら尻尾があるみたいな姿のことじゃないのか?」

「うん。どっちもドラゴンにとっては真の姿だよ。神や人間は()()()で別れているように、ドラゴンは一体で()()()のすがたを持つことでバランスを取っているの」


や、やばい。わからなすぎる。・・絵里も自分の常識と違いすぎて混乱している様子だ。

おそらくアルも人間の社会について聞いてる時はこんな気持ちだったのだろう。今度からはもっと丁寧に教えよ。


「オーケー、アル。ドラゴンのことについては、またあとで詳しく聞くよ。今度は絵里やアルがいた()()()の世界について教えてくれないか?」


俺はババアの故郷であり、絵里の遭難先である異世界について聞いた。しかしアルは困った顔で言った。


「・・・・・ごめんヤマト、私もよくわからないいの・・」

「わからないって、アルも()()()の世界にいたんだろう?」


俺は予想外なアルの反応に動揺する。絵里もまた気になっていたことなのかアルの真意を聞きたそうにしている。


「・・・うーん。私がわかるのは、あの世界とこっちの世界はもともと一つの世界の1部だったことだけ…」

「いや結構核心に触れてないそれ?」


よくわからないが、とんでも無いこと言ったなこのドラゴン娘!

昨日まで「寝てた」とか「起きてた」しか答えなかったくせに、いきなりポンポン重大そうなこと言いよるわ!

・・・・昨日までの俺、思ってたより信用されてなかったんだな。


「はぁー、私ついてけ無いんだけど……」

「安心しろ、俺もだ」

「えーー、私せっかく頑張ったのに!」


とにかく、今はそんな世界がどうとかよりも目先の課題、つまりジークについて聞こう!

これをどうにかしなければ、おちおち寝ることもできない。


「アル、次々に話を変えて悪いが、ジークはドラゴンであるお前を殺すために動いてたってことか?」

「うん。そうだと思う、今の私は逆鱗がない状態だから油断したらすぐ死んじゃう…」


逆鱗ってよく聞くレア素材的なやつか、しかしなんでジークはドラゴンを殺そうとしているのだろうか?

できれば二度と会いたくないが、その時は聞いてみるか。

そんなことを思案していると絵里がコタツに入ったまま寝ようとしていた。

おいおい。元々お前が話聞かせろとかアルに言ってたじゃねーか


「おい寝るなら、布団で寝ろ!・・・・てアルまでここで寝ようとするな!」

「うーん。すごい頑張って話したから、眠くなっちちゃった・・・・ヤマトもねよ?」


そう言うとアルは俺を自身の大きな体で包みこんだまま寝息を唱え出した。

さっきまで適温だったはずのコタツは今では息苦しほどの熱を持っているように感じてしまう。


「おーい、アルさん?起きなさーい………」

「・・・スゥーー・・・・」


呼んでも帰ってくるのは寝息だけ、俺は諦めてこのおいしい状況を楽しむことにした。

俺だって一応抵抗したんだからあとで誰も怒らないよね?




そんな訳もなく翌朝、絵里にこっぴどく怒られました。







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