最低だけど修羅場って男の夢だよな
俺は居間のソファーの上で目が覚め、ガンガンと痛む頭で昨日の夜のことを思い出す。
俺の特製チャーハンを二人で食べた後俺がテレビを見ていたら、アルは「喉が乾いた」と言ってどこからともなく持ってきた酒瓶をラッパ飲みをしだしたのだ。必死で止めようとする俺だったが、アルはあろうことかそんな俺にも無理やり酒を飲ませてきた。
どうやら酒が弱かったらしい俺は一発で酔いが周り、謎のハイテンションになった勢いで[ストリームファイター5]を起動してアルと一緒に遊びだした。見た目以上に器用なアルはすぐ操作方法を覚え、俺たちは何度も熱い試合を繰り広げた。
・・・・そこからの記憶はなく最後に覚えているのは、アルが[スト5]の主人公の技[破道拳]をマネして、そんな彼女に俺はめちゃくちゃ爆笑してたことだけだった。
「・・・やっちゃたなー」
俺は荒れに荒れた凄惨な部屋の様子をみて頭を抱えた。
「・・何をやっちゃたのかしら?」
「…へ?」
場が凍りつくような静かな怒気をはらんだ声を聞いて、俺はそこで初めてこの部屋にいるもう一人の存在に気づいた。
「…え、え、えり!?」
そこには、もはや怒気と言うより殺気に近いものを漂わせた愛しの幼馴染の姿があった。
う、うわー浮き出た血管が波打ってるんですけどー
今にも絞め殺してきそうな感情を必死で抑えている彼女は、俺の体を指して言った。
「誰よ、その女」
「は?」
何を言っているのか分からない俺は絵里の指した方を見た。そこには何故か俺の横に裸でブランケットにくるまっているアルの姿があった。
「ア、アル!?何やってんだ!?」
「…うーん。あと一皿」
いやそこはせめて一口だろ、一皿って思ったより食ってるな。彼女の中では一口と同義なのだろうか?
じゃなくて!非常にマズイぞこの状況は!!
「ふーん。アルて言うのねこのデカ女…」
「ち、違うんだ絵里、これは誤解だ!おい、アルもいい加減におきろ!」
「うーん。ヤマト?……おはよ」
「はい、おはよございます。てことでお前からもこの状況を説明してくれ!」
すっかり目覚めた俺とは逆に、まだ寝ぼけているのか彼女はとんでもないことを口ばしりだした。
「昨日は楽しかったね。特にヤマトが私に[甲速突き]で激しく攻めてきた時は、つい私も熱くなったよ」
「おい!なんでちょっと意味深な言い回しなんだよ!心なしかいつもより語彙力上がってるし!」
なんでゲームしてたって言えねぇーんだ!
俺はすぐ横から感じる死の波動の発生源に目を向ける。
怒りが臨界点を突破したのか、絵里の顔から表情が消えていた。
「白金虎の闊歩」
そういった彼女は、例の神墜器と呼ばれる足甲を脚にまとわせて、その綺麗な御御足を大きく振り上げカカト落としの体制になった。
「…おい絵里、冗談だろ」
そういった俺に、絵里は可憐で綺麗な笑顔を向けた。
「潰れろぉぉぉぉおおーー!!」
「ギャァァァアアアーー」
ほがらかな朝の雰囲気ににつかわしくない断末魔が空に響いた。
ーー●○●ーー
「・・・ていう事なんだよ」
「…はぁー、大和のお人好し加減には少しあきれるわ」
俺はアルとのことについて絵里に全て話した。最初こそ信じてなかったが、アルの一般人離れした見た目と、心配になるレベルのとぼけた性格を見て、なんとか信じてもらえた。
「だからと言ってあんたがそこのアルとかいう女と一緒に寝ていたことは許してないけど!一昨日は私にあんな事言ってくれたのに。あれは嘘だったの?……」
まだ怒りが収まらない絵里は本気で悲しそうな顔をする。俺はそんな彼女に申し訳なくなって本心を伝えた。
「だから誤解だって!あれはアルも寝ぼけてただけって言ってるだろ!・・それにあの言葉に嘘偽りはねぇよ、俺が絵里のこと本気で守りたいと思ってるのは本心だから」
「そ、そんなこと言っても…すぐには許さないからね…」
と言いつつも少し機嫌がよくなった絵里は、そのことが顔に出て恥ずかしくなったのか話題を変えた
「そんな事よりも、この子が見たっていう光。私もそれ見たわよ…」
「!?!?いつだ!?」
「確か数人で狩に出かけた時よ。…その光を見た瞬間私は花畑園の前に飛ばされていたわ」
アルとは一日の時間差があるものの、これは二人が目撃した光が同一の物であり、さらにアルが絵里同様にあっちの世界からきた可能性が高くなる情報だった。
全てがわかった訳ではないが、間違いなくこのワープ現象への謎に近づけている自信が少し湧いてきた。
・・そういえば、一昨日は気を使って聞けなかったが、絵里は2年もの間どうやってあっちの世界で暮らしていたのだろうか。気になった俺は本人に直接聞いてみた。
「絵里、言いにくかったらいいんだが、あっちの世界でどうやって暮らしていたんだ?」
「・・・・別に話しにくいことではないわ」
絵里は本当に気してない風に言った。
「あっちでは私と同じように飛ばされてきた人達が協力して一時的な避難所のような物を形成していたわ。私はそこにたどり着くのに半年ぐらいかかったけど…」
半年も自力で生きてたのか…
「もちろん道具も何もない状態で造ったものだから、害異形たちによって簡単に壊され、何人も殺されたわ。でも私みたいな力を持った人がその度に迎撃してなんとか全滅は防いでいたの。法術もその中の一人に教わったわ」
おそらく地獄のような光景であろう話を聞いて、俺は軽々しく絵里ことを守とか言っていた自分が恥ずかしくなった。そんな俺の雰囲気を察したのか、絵里が元気な声で言った
「でそんな風に暮らしてたら、狩の時に例の光を見たってこと!」
「・・・・ありがとう。話してくれて」
そして困った風に笑った彼女はアルを見ながら言った。
「それで、この子どうするの?」
「…えーと」
アルがあっちから来たことがありうる今、アルを探している金髪イケメンのジークも何らかな関係者である可能性が高い。彼が善人な人間なら一番いいんだが、もし何かしらの悪意を持ち合わせているのであればアルを放っておくのは危険だし、個人的にもこの世間知らずを野放しにするのは正直不安だ。
俺が結論を出すのが遅いせいか、あるが少し不安な表情で言った。
「私はここにいたい。ここなら美味しいご飯も、暖かい寝床もあるし……それにヤマトと一緒の方がいい…」
前半の部分は少しガメツイ奴だと思ったが、最後の言葉は正直嬉しかった。
ていうかメシあげただけでエラく懐かれたもんだ。
アル自身がここに居たいと言うのであれば俺の結論も出たようなものだ
「ったく、しゃーねぇな。海斗じゃ相手にならなくてちょうどゲームの対戦相手が欲しかったとこだったから。別にいいぜ」
そう言うと彼女はとても嬉しそうに抱きついてきた。
「ありがとヤマト!」
俺よりも体がデカイせいか、むしろ俺が抱っこされているような状態になってしまった。
そんなおれたちを見て絵里は決心したように言った。
「大和ならそう言うと思ったわよ。・・・・だから私もここに住むことにしたわ!」
「ええ!なんでそうなる!?」
「当然よ!エッチな大和と暮らしたら、あんたなんてすぐ襲われるわよ!」
そんな言いがかりを彼女は言ってくる。それに反応したのかアルも不思議そうに聞いてくる。
「ヤマト、私をおそうの?」
「そんな事いくら俺でも………しねぇよ…」
昨日の全裸事件を思い出し、つい変な間を作ってしまった。
「…なによ今の間は……まさかあんたもう!?・・・・決めた絶対に私ここに住むから!」
「まて、まずは俺の許可をとってからだろ」
「いや、まずは私に許可をとるべきじゃないのか?大和」
その声を聞いて3人とも部屋の入り口を見ると、いつもの背広姿の親父が静かに汗を垂らしながら立っていた。
俺は完全に忘れていたこの家の家主に向かって言った。
「…ご、ごもっともです。」




