食い意地って、たまにすごい張っちゃいません?
俺の部屋着を着た彼女は今日の給食の残りを、まるでギャグ漫画のごとくすごいスピードでたいらげていく。
あまりにも圧巻な光景に思わず俺も苦笑いを浮かべてしまう。
そうしている間にも、彼女は最後にコッペパンを丸呑みして完食してしまった。
「おいおい、まだ1分もたってねーぞ…」
「とてもおいしかった。ありがとヤマト」
「お、おう」
可愛い笑顔でお礼を言った彼女は、先刻までの修羅のような食い様など見る影もなっかた。
一体この食欲でどうやって2日も彼女は乗りきったのだろうか?
想像は膨らむばかりだが、今朝ザリガニ釣りをしていた彼女の姿を思い出した俺は彼女自身にそのことを聞く勇気が出なかった。
ーー●○●ーー
アルに食後のお茶を入れてやり、俺は本来の目的のために彼女に早速質問してみた
「アル、食べ終わったところですまないが、お前について教えてくれないか?」
「…私について?」
可愛らしくアルは首を傾げる。
「そうだ。どうやってこの町に来たのか、俺はどうしても(絵里のために)知りたいんだ」
「…ヤマト、積極的…」
なぜか一瞬顔を赤らめた彼女は、場違いなことを言ってきた。
「いいよ、あまり覚えてないけど」
しかし次には少し真面目な顔で俺を見つめてきた。そんな彼女の雰囲気を察してか俺も少し緊張する。
手元にある湯飲みのお茶を一口飲むと彼女は語り出した。
「2日前、祠で寝てたらすごい眩しい光で目が覚めたの。・・そしたら田んぼにいた。」
「・・・・・・・・・・・それで?」
俺は話の続きを促すが。
「・・・・・・・・・・・おしまい」
「・・・ええ!?終わりかよ!ほとんど聞く前と情報量かわらねぇじゃねーか!」
なんでこいつ、この程度のこと話すだけで、あたかも「私、重大な事言います」みたいな顔できるんだよ!
こえーよ情緒が!どんな思考で生きてんだよ!
ま、まぁーーいい、落ち着け俺、まだ聞きたいことはあるんだ。ああきらめるにはまだ早い。
「…じゃー、こっちに来る前は何してたんだ?」
「寝てた」
「はい、まったお嬢ちゃん」ペシッ!
「あうっ」
アルのあまりにもふざけた返答に、俺は無意識のうちに今朝、親父が読んでいた新聞紙で彼女の頭をはたいていた。
「なんで叩くの!?」
「当たり前だろ!・・・・んじゃー寝てた前は何してた?」
「起きてた」ペシッ!
「うんそれも違うね!お前は起きるか寝るかしかしないのか?植物でももうちょっと色々してるぞ!?」
「……前までは本当にそうっだったもん」
あーーダメだーこいつ。きょうび幼稚園児でももっとまともな会話できるぞ。俺は目の前の彼女が、実はただの派手髪巨大美少女迷子なんじゃないのかと疑い始めた。
そんな風に絶望していると、俺は今日あった軽薄そうな青年のことを思い出した。
俺は未だに、はたかれた事に困惑している彼女にダメ元で再度尋ねた。
「アル、これが最後の質問だ。ジークって名前の金髪イケメンのこと知っているか?」
「私、ヤマト以外の人知らないよ?」
シチュエーションによっては萌えたであろうそのセリフは、今の俺にとってはあきらめの心を覚えさせるだけだった。
キュルルルゥー
諦めの境地にたった俺に追い討ちのように彼女のお腹がなる。
「…う、ウソでしょん……」
「やはり100年単位の空腹はダテじゃなかった……」
「何を訳のわからんことを…………はぁー、チャーハン作ってやるから待ってろ」
「…ふふっ、やっぱりヤマトは何だかんだ優しい」
そういって彼女は俺に甘えるように、自分の綺麗な赤髪を撫でてほしいのか、ほのかに家のシャンプーを匂わせながらすり寄ってきた。
え、なにこれ可愛いナデよ 俺はつい懐いた動物を愛でるように彼女を撫でた。
・・・・・って何してんだ!俺は慌てて自分の手を大きく上にあげ、痴漢がバレた男みたいな態度になってしまう。
俺には絵里という大切な幼馴染がいるだろ!あ、あぶねぇーもう少しで堕ちるところだったわ。
アル!なんて恐ろしい子!
そんな俺に彼女は寂しそうな顔を向けてきた。
「なんでやめちゃうの?」
「い、いや。お、俺たち今日出会ったばかりなのに、こんなことしたらだめ、だろ?」
「なんで?何か悪いことするの?」
いたって純粋そのものな瞳に俺は毒気を抜かれて、急いでキッチンに逃げた。
いくら性欲とはちきれんばかりのリビドーを持っている俺でも、目の前の純朴な少女にそういった目を向けるのは気が引けた。
「ほ、ほら腹減ってんだろ。普段料理なんて滅多にしないけど、中華だけは自身あるから期待しとけ!」




