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メンチ


「うぉお?!」


コウモリ女に掴まれて俺の身体は宙に浮かび、落とされた。


「あべしっ」

「ごめーん」


俺を落とした後、コウモリ女はひらりと地面に舞い降りる。

顔面から落ちた俺は地面と情熱的なキスを交わした。

身体全体が燃え上がるような熱いキスを。

鼻血が出た。


「コウモリ女・・・俺は腕を差し出しただろ・・・?なぜ素直に腕を引いて起こさない?」

「えー」


ペタペタと歩いて俺のもとに来たコウモリ女は、屈みこんで俺の鼻血を鉤爪で拭い、ぺろりと舐めた。


「おいしい」

「て、てめぇ・・・」


ギリギリと歯を鳴らしてコウモリ女を睨むと、コウモリ女は肩をすくめた。


「だって、腕掴めないもーん」

「む・・・」


コウモリ女はカチカチと鉤爪を鳴らす。

鉤爪はいうなれば翼の頂点に1本だけ細長い指が生えたようなものだ。確かにこれでは俺の腕をしっかり掴むことは出来ないだろう。

なら、それは仕方ない。だがしかし。


「・・・なんで俺を落とした?もっと穏やかにできなかったのか?」

「むりー。わたし不器用―」

「舞い降りる直前にスピードを落とせばいいだろう?」

「えー、それじゃあ私が着地に失敗するー。痛いのやだー」

「・・ほほう」


コウモリ女の顎を掴み、顔を寄せてメンチを切る。


「あごっ」

「そうか・・お前は腹に穴が開いた俺よりも自分の身を優先するのか・・そういう奴だったんだな、お前は。よぉーくわかったよ」

「!!!」


コウモリ女ははっとした表情になった後、しゅんと肩を下げた。


「・・ワニ君ごめんなさい」

「あやまって、それで終わりか?」

「・・・魔力を分けます」

「よろしい」


コウモリ女の顎から俺の身体に魔力が流れ込んでくる。

すると、元々の俺の生命力故か塞がりかけていた諸々の傷が、今までとは段違いのスピードで治癒してゆく。5秒ほどの接触で俺の身体はほとんど完全治癒してしまった。

腹の穴も塞がっている。


「よしよし」

「疲れたー」


俺が満足そうに頷いていると、コウモリ女がへなへなとその場にへたり込んだ。

それもそのはず、魔力の譲渡は体力の消耗がすさまじく激しいのだ。

魔力の譲渡は回復魔法が使えない奴でも他者の治癒を可能にするが、こういった大きなデメリットが存在するため、よほど切羽詰まってないと誰もやりたがらない。


「・・ワニ君、やっぱり丈夫だねー。人間なら死んでたよー」


コウモリ女はごろりと地面に転がって言った。


「おお、魔力の量もワニの時と変わってないしな。生命力に変化はないんだろう・・ただ、防御力は落ちているな。鱗が有ったら腹に穴も開かなかった」

「そもそも吹っ飛ばないよねー」

「ああ、ブレスの威力はあんまり変わらなかったが、自重が少ない分余波を受けやすい・・まいったな、これじゃあばかすかブレスが撃てないじゃないか」

「元々あんまりブレス使ってないでしょー」

「・・それもそうだ」


俺は頷いた。

そう考えると、この体になってもあんまりデメリットはないのか?

身体が小さい分食事の量も少なくて済む・・いや、体が小さければ小さいほど栄養分の最大貯蔵量も少なくなるから、こまめに狩りに行かなくちゃいけないのか。

それはめんどいな。

あまり使わないとはいえ、ブレスが撃てないのもつまんないし。

・・鱗もないし。

やっぱデメリットありまくりだな、うん。


「ねーワニ君、なんで人間になったのー?」

「・・知らん」


心当たりがないことはないが、証拠は俺の腹の中。

どうしようもない。


「そのままでいーの?」

「よくないに決まってるだろ」


鱗を取り戻したいに決まっている。

ブレスも撃ちたい。

撃つとスカッとするんだ、ブレスは。


「私は人間のワニ君もかっこよくて好きだよー?」

「は?ワニのほうがカッコいいに決まってるだろ?」

「んー?私はどっちも同じくらい好きよー」

「ふん」


暫くごろごろ転がっていたコウモリ女は何かを思いついたようなはっとした表情をすると、ガバリと身を起こした。


「ね、ワニ君、鹿さんのとこ行こーよ!!」

「えー」


気が進まない。

俺はあの爺が嫌いなのだ。


「行こーよ!鹿さん物知りだから元に戻る方法知ってるかもよ!!」

「む・・・」


俺はワニに戻る可能性と、嫌いな奴に会いに行くことを天秤にかける。

あの爺が元の戻る方法を知っているとは限らんが、少しでも可能性が有るなら試してみたい気もする。

一瞬の苦痛か、長い後悔か・・・

・・・・・・・

・・はぁ


「・・しょうがないな」

「よし!行こー!!」


そうして俺は、何故かウキウキしているコウモリ女と歩き出した。


読んでいただきありがとうございます。

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