コウモリ女
ばりばり、うまうま
ごりっ
ん?
なんか硬いぞ?
バキバキバキ
・・・何の音?
・・・・・・
・・・まあいいや。
ばりばり、もりもり、うまうま
ごくん。
ふう、お粗末様でした。
さて、かえろ・・・
(・・・めりめり)
へ?
(めりめりめり)
え、ちょ、痛っ
(めりめりめりめりめり)
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛だだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ
痛い痛い痛い
メリメリと音を立てて体が軋む。
全身の筋肉が引き攣ったような悲鳴を上げ、筋と筋が互いにめり込んでいくような奇妙な感覚が俺を襲う。
骨が砕け、皮膚が縮み、鱗が凝縮してゆく。
脳がゆすぶられ、後ろにものすごい勢いで引っ張られるようなすさまじい衝撃が頭蓋に響き、俺の意識は遠のいていった・・・
*******
『へーいへいへいへーいへい』
・・・
・・・・・・うるさい
『へーいへいへいしょうへい』
・・・だからうるさいって
『へい!へい!へい!へい!』
うるせぇって言ってんだろうが下手糞な歌うたいやがって
「へい!へい!へい!」
「うるせぇ!!!」
俺はたまらずガバリと身を起こした
キョロキョロとあたりを見渡す・・・
なんか周りのモノがいつもより大きく見えるような・・・
ん?
あれ?首が回る?
ん?んん?
体が起きるってなんだ?
あれ?
「おはよー」
すぐ耳元で誰かの声がした。
「うぉお?!」
俺は思わず身をのけぞらせた。
いきなり耳元でなんか言われて、ほんと心臓に悪い。
いや・・・それよりもその声は・・・
「コウモリ女?」
「ん?」
そこにいたのは、俺の数少ない顔見知りのコウモリ女だった。
真っ白な髪に白い翼、赤い瞳を持つ野生の獣人。
コウモリ女はすっとぼけた顔で俺の顔を覗き込んだ。その距離が嫌に近かったので、俺は後ずさる。
「だれー?私を知ってるの?」
「へ?」
なんだこいつ、ボケてんのか。
いつもは無遠慮に俺に乗っかってくるくせに。
「人間さんかわいーね。乗っかってもいいかなぁ」
「は?人間?」
言われて初めて、俺は自分の姿をまじまじと見た。
まず小さい。サイズ感がコウモリ女とほぼ同じ。
俺は腕を持ち上げ、手を握ったり開いたりする。・・・指が五本ある。
試しに手近にあるコウモリ女の頭をむんずとつかんだ。
「いたーい」
コウモリ女の声は無視し、今度は自分の身体をペタペタと触る。
非常に柔らかい。簡単に切り裂けそうだ。
そして・・・鱗がない。
「ぐああああああああ!!!!!」
「わ!どうしたの?」
「うろこ・・・俺の鱗がぁ・・・」
「うろこ?」
鱗が無いよう・・・ぐすっ
俺の完全無双鉄壁ガーディアン・・・
しくしく
俺は膝を抱えて丸くなる。
もうやだ・・・自慢の鱗がないなんて・・・王者の風格ゼロだ
「どしたのー?何で泣いてんのー?」
「うるさい、あっちいけ」
「やだー」
「食っちまうぞ」
「え!いいよ!!」
「・・・はぁ?」
俺は呆れてコウモリ女の顔を見る。
自分から食われに来るなんてどういう神経してんだ?
それも嬉々として。自殺志願者か?
「よかったー。一目見た時からおいしそうだって思ってたんだー」
「はぁ?お前が俺を食うの?」
さっきと言ってる事違うぞ。
「ウン。あ、でもお兄さんが私を食べるんでもあるよ」
「???」
意味不明。
・・・コウモリ女よ。前々からお前のおつむは少しアレだったが、とうとうイカレてしまったか。
かわいそうに。
俺は同情のこもった視線でコウモリ女を見る。
対して、コウモリ女はニコニコしながら翼に生えた1本の鉤爪で俺の柔い腹をするりと撫でた。
予期せず与えられた刺激に、俺の身体はビクリと震える。
・・・鱗が無いと、こうも心もとないのか。ガックシ
「お兄さん大人しーね」
「・・・」
ペタペタとコウモリ女は無遠慮に俺の身体を撫でまわす。
あー、なんかもうどうでもいいや。
ペタペタ
元々生きてるんだか死んでるんだか分からんような生活してたし。
ペタペタ
鱗もないし。
ペタペタ
ていうか、食うならさっさと食えよ。まどろっこしいな・・・
「・・・お兄さんのエクスカリバーも大人しーね」
若干悲しそうにコウモリ女は言った。
何言ってんだこいつ。
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