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手羽先の襲撃

ひんやりと湿った泥水混じりの大地の身を沈め、俺は木漏れ日の淡い光に目を細めた。


『ああ、しあわせー』


尻尾を打ち鳴らし、ぺちゃぺちゃと水音を立てる。

少し喉が渇いたので泥水を吸い込む。


ずるずる


『あ、ウンコしたい』


ブリブリ


ああ、今日のウンコは水気が多いなぁ。

最近ちゃんとした食事をとってなかったからな、固形物がほとんど出なくなった。

最後に食事したのいつだっけか、

少なくとも1か月ばかり狩りをした覚えがない。


むぅ。

めんどくさいが、なんか食うか。

あーあ。

何もしなくても生きていたい。

植物になりたい。割とマジで。


のっそりと身を起こすと、ずるずると体を引きずりながら前進する。

俺の手足は短いが、自重を支えることくらいは訳ない。だがしない。

何故か。

かったるいからである。

それに、この住み慣れた湿原の泥が体を引きずるたびに、粘土のように腹へねっちょりとまとわりついて後を引く感触が、俺はたまらなく好きなのだ。


ずるずる、ずるずる


暫く体を引きずっていると、湿原の端にたどり着いた。

うっそうと木々の茂るこのジャングルに俺が住み着き始めて早200年。

それなりにレベルの高い魔物が住み着くこの森は、かつて腕に覚えのある人間どもがこぞって押し寄せてきていた。

どうやら、この森にすむ魔物たちの素材が彼らの間で高値で取引されるためらしい。

狩人どもがそう言っているのを聞いた。


え?

なんで魔物の俺が人間の言葉が分かるかって?


それは僕が優秀だからです。


嘘です。


俺はガキの頃人間に飼われていたことがある。

5年くらい?

俺はさーかす、っていう団体で飼われている間に言葉を覚えた、いや、覚えさせられた。

なんか俺の種族は神獣?ってのに属するらしくって、神獣ならできんだろ?って感じで無理やり教えられた。

うん、できたよ。

俺はネイティブスピーカー並みに人語を離せる。

だからか知らんけど、さーかすでの俺の人気はすさまじく、魔物にしちゃぁやたら待遇が良かった気がする。

さーかす団員にもちやほやされたよ。稼ぎ頭だからね。

まあ、全員俺が食べちゃったんだけどね。げっぷ


うむ、話を戻そうか。

・・・えーっと、なんだっけ?


あ、そうそう。

そんなわけで、このジャングルは元々いっぱい人間が入ってくる場所だったのだよ。

さーかすを脱退(物理)した俺はしばらくの間当てもなく彷徨っていたわけだが、もういい加減一か所に腰を落ち着けようと。

俺の巨体を落ち着かせる場所を探していたわけなのよ。

要するに、歩き回って疲れたのね。


そんで見つけたのがここ。

広大で、魔物(餌)もうようよいて、湿っぽくて。

もうね、最高かよと。


早速小便ブッぱなしまくってマーキングしまくりましたとさ。

そのおかげで縄張りを侵害された魔物が一気に俺のとこへ押し寄せてきたんだけど、全部食べちゃいました。げっぷ


賢い魔物ちゃん達はそれで実力差を理解し、以後俺のそば半径1000㎞に魔物は寄り付かなくなりましたとさ。

おかげで狩りをするたびに大移動しなくちゃいけなくなったんだけどね。

めんどくさいよね。

普段は静かでいいんだけどさ。


でも、身の程知らずな人間どもは平気で俺の縄張りに侵入してくるから困っちゃうよね。

神獣の素材で俺も億万長者だー、とね。

もう馬鹿かと。

残らずパクリといかせてもらいました。げふ。


そんでも次から次へと押し寄せてくるもんだから、さすがの俺も堪忍袋の緒が切れた。

重い腰をあげて最寄りの人里を襲撃し、残らず食べつくしてやりましたよ。

わっはっはー


そん位すれば、さすがに俺に手を出してくる奴はいなくなると思ったんだけどね。

いや、実際そうなったんだけどさ。

それがきっかけで、なんでか知らんけど俺が神として祀られる様になった。

なんたらの大森林(人間がつけたこのジャングルの名前。聞いたけど忘れた)の守り神じゃー、とまあこんな感じに。


わっかんないよねー。

人殺しまくった魔物を崇め称えるとか、お前らの頭は大丈夫かと。

まあ、そのおかげで俺の討伐が人間どもの間で禁忌になったらしくって結果オーライだからいいけど。


ずるずる、ずるずる


そうこうしているうちに俺は自分の縄張りから出た。

暫くのそのそ歩いていると、そこかしこで魔物の悲鳴が聞こえた。


おやおや、全く怖がりさんめ。

魔物は魔物らしくどんと構え取れや。

追いかけるのがかったるいんじゃ。


俺は軽く伸びをすると、吠えた。


「ゥヴォォオ゛オ゛オ゛オオオォオオオオオオオオオ!!!!」


どさどさどさー!


俺の渾身の叫びに魂が震えすぎて失神した魔物ちゃんたちが落ちたり倒れたりで、あたりに落下音が響いた。

うむ、大量大量。


俺は木々を押し倒しながら落下した魔物を胃袋に救出してやる。ぺろり。

木々の隙間に鼻っ面を突っ込み、失神した魔物を取りこぼしのない方に拾いつくしてはや1時間。

あらかた食いつくした俺はへし折れた巨木の上で一息つく。


ふう。

毎度思うが、食事の度に森林破壊を起こすのはいかがなものか。

心が痛みまくりだ。

密集した木々の中で俺が動き回ればこうなることは一目瞭然じゃないか。

魔物たちも、そこらへん察して自分たちから広いスペースに出てきてはくれんだろうか。

お前らはこの惨状を見て心が痛まないのかと、そう問いたい。

・・・さすがに無茶か。

自分から進んで食われに来る奴なんていないよな。


腹も膨れたし、そろそろ帰ろう。

きっと明日には立派な固形ウンコが拝めるであろう。



そう思い、俺が動き出したとき。

微細な魔力を感知した。


この感じ・・・人間?


珍しいこともあるもんだ。190年ぶりか?

一体何事だろう。


魔力の気配は俺のほうに向かってきている。


狙いは俺か・・・

一介の馬鹿な密猟者ならいいが、国が派遣した騎士団とかだと厄介だな。

俺がくる前はそれなりに人が来てたみたいだし、人間どもにとってこの森は放置しておくには惜しい場所なのかもしれない。

前に人里襲ってからかなり経つし、俺の威光も薄れてきてるだろうしな。

事の次第に寄っちゃあ、また人里を襲わなくてはならないな。


何はともあれ、まずは向かってくる人間どもを始末しなくては。

俺は体内で魔力を練り、襲撃を待つ。


・・・

・・・・・・・

・・・来た!


赤い閃光が一直線に俺のところまで向かってくる。

しっかりとそれを視界に捉えるも、あえて避けない。

この程度避けるまでもないと判断したからだ。

俺のうろこは固く、並の攻撃は通用しない。


俺は王者の風格を漂わせ、正面から攻撃を受けて立つ。

・・・避けるために動くのが面倒だったからでは断じてない。


閃光は俺の背中に直撃し、患部が一瞬熱を帯びる。

だがそれだけだ。

俺のうろこには傷一つつかない。


続けて第二、第三の閃光が飛んでくるが俺は微動だにしない。

暫く閃光の雨を受け続けたが、俺のダメージはゼロだ。


ふはは、見たか!

てめーらカス共の攻撃なんて屁でもねぇんだよ。

ゴミ屑がいくら積み重なろうと俺には傷一つつかない!

次は俺様のターンだ!


息を肺いっぱいに吸い込むと、腹の中で練りに練っておいた魔力を込め、閃光の出所に特大のブレスを放つ。

ブレスの余りの高熱故あたりは赤を通り越して白く霞み、眩い光で俺すらも一瞬視界が途切れた。

濃縮された魔力が吸い込んだ空気と共に爆音を轟かせながらすさまじい威力で放出され続け、広範囲を火の海にした。

ブレスの余波で地響きがし、地面がえぐれ、暴風が巻き起こる。

それはブレスを吐きつくして暫くしても続いた。


全てが収まった頃、うっそうと茂っていた木々は焼失し、見渡す限りが焦土と化した。

・・・あらあら、随分視界が開けたことで。


・・・

・・・・・・やりすぎた?


・・・や、でもしょうがなくね?

こんな森の中じゃ人間一人一人を見つけて倒すなんてメンド・・・できやしないし、なら広範囲ブレスで一掃ってなるじゃん?


あ、でもこれじゃあ襲撃者が密猟者なのか騎士団なのか分かんねぇや。

あー・・・

・・・・・・・

・・・ま、やっちまったもんはしょうがないべ!

てへ、俺ったらおっちょこちょい♡

久しぶりの全力ブレスではしゃいじゃったとかじゃぁ断じてないぞ♡


・・・

・・・・・・よし、帰るか。

追加で人間が来たら、その時はその時ってことで。

今俺にできることは何にもないべ。

ってことで、帰ろう帰ろう。


そうして俺は帰路に着こうとした。

一歩を踏み出すか踏み出さないかの所で、気が付く。


・・・まだ生きてやがるな。

俺は湿原に向かおうとしていた体をぐるりと方向転換し、焦土と化した土地を見据える。

微かに、ほんの微かに感じられる生命力。

まさか、あれを受けて生きていられるとは。


大したものだ。しょうがない。

そのしぶとさに敬意を表して、この俺が直々に探し出し、とどめを刺してやろう。

ついでに、何の目的で俺を襲ったのかも聞いてやろう。

うむ。


俺はのっそりと歩き出す。


ざり、ざり、ざり


灰が腹を擦ってなんかやな感じ。

やっぱ湿っぽいのが一番。

ねっちょり最高。


・・・

・・・・・・お、いたいた。

すごい、原形を保ってる。


灰に埋もれるようにして、そいつはいた。

死にかけだからか、小刻みに痙攣している。


俺はあたりを見渡した。

・・どうやら生きてるのはこいつだけみたいだ。

結構結構。


俺は鼻息をかけてそいつにを覆っている灰を散らす。


ブフォオ――――


現れたそいつはほぼ全裸だった。

服の類は焼け落ちてしまったのだろう。

ち〇こ丸出しだ。


「おーい、生きてるか?」

「・・・」


返事がない、ただの屍のようだ。

うーん、どうしよう。

せめて騎士団かそうでないかくらいは知りたかったなー。


ぐりぐりと鼻先で押してみるが、そいつはただ痙攣するだけ。

それもだんだん弱弱しくなっている。

あー、もういいや。食べちゃお。

あーん。


「わ、われら・・・」


!!!!

こいつ喋ったぞ!

われら?われらなんだって?


「われら・・・ネーラを神化せんと・・・神獣の・・・」

「ほうほう」

「しんじゅうの・・・」

「ほうほう」

「し・・・」

「神獣の?なんだって?」

「・・・」


ガクッ

くたばった。

・・・おいおい、そりゃないよ。

意味深なこと言いやがって、どうせなら最後まで言ってから死ねや。


まあ、神化とかなんとかって変なこと言ってたし、騎士団ではなさそうってわかっただけよしとするか。

今回の襲撃はどっかの過激電波宗教団体が突っ走っちゃった感じかな。

よし、この人は通りすがりの電波な密猟者さん、以上!


さてさて、せっかくだからこの電波さんもぱくっといっちゃいましょう。


・・・おや?

こいつ羽が生えてるぞ?

人間に羽なんて生えてたっけ?

まあいいや。

それよりも・・・・


やった!手羽先が食える!

俺は鶏肉が好きなんだ!!ぐへへ

それでは、いっただきまーーす。














読んでいただきありがとうございます。

続きはたぶん今日中に…

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