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特対課の課長として

 オカルティックな事件を捜査をする班を任せられる楊であれば、今見つけたばかりの黒い石を放っておくことなど論外であると経験上知っており、そこで彼は数十秒悩んだだけで、マドラーで紙屑の周りの地面に丸い線を引いた。

 それから、自分が向かう先に当たる方角にずぶりとマドラーを刺したのである。


「よし。これで呪いは俺の方向には来ない、かな。たぶん。」


 最近術者になった彼には術の本質などは全く理解していないが、彼が「自分が思う大丈夫なおまじない」を適当に施した場合、十中八九それなりな効力を彼に与えるのである。

 それは、彼が生来の天才術者であるからではない。

 彼に纏わりついて彼の使い魔になった三匹のオコジョ達が、彼が考案した「おまじない」に勝手に効力を与えてくれるだけである。


 それを証拠に、尻尾の先だけ黒い以外真っ白で細長い獣が、楊の足元にぴょいというふうに現れたのだ。

 ペットショップに並ぶフェレットの一回り程小さなそれは、楊を見上げて嬉しそうに楊の左足首に体を擦り付け、そして楊は当たり前の様に現れた白い獣の頭を軽く撫でた。

 するとそれは後ろ足で二本立ちをして体を伸ばし、彼の顔へと鼻先を近づけて、なんと、まるで人間の様ににやりと笑ったのである。


「お願いね。ピン。」


 オコジョはコクコクと楊に対して頷き、彼はそれに安心すると身を起こし、だが、ぐるりと彼は再び周囲を神経質に見回した。


「どうしてこんなにも閉塞感を感じるのかな。」


 彼は大きく息を吐き出すと、決意した顔つきとなって一番奥まったドアまで歩き、そこのドアを軽く三回叩いた。

 するとすぐにドアは外側に開き、前下がりのショートボブの髪形をした背の高い女性が顔を出したのである。

 大きな目が少々つっているからか、妖精のような雰囲気を持った大学生くらいの年頃の美女であった。


「車が見えないけど、鑑識は帰った?」


 美女は楊の部下の佐藤さとうもえ巡査であり、昨年の四月に刑事昇格したばかりで、まともな事件捜査もした事も無く楊の班に入れられて可哀想だと楊は事件が起きる度に考えるが、考えるだけなのは、楊が彼女を自分の班に招いた張本人だからである。


「いつまでも駐車するわけにはいきませんので車だけ署に戻しました。鑑識は現在も作業中です。」


 棒読みに思える程にそっけない声で楊に報告すると、彼女は背後に伸びる細い階段にくるりと身を返して再び上がっていった。

 彼女が楊に対して冷たいのは、楊の班に入れられたことを恨んでいるからでなく、楊が数週間前に彼女を騙したからである。


 楊の純子は孤児院の孤児どころか、佐藤の相棒である水野みずの美智花みちか巡査が一人で隠れて育てていた子供である。

 水野の兄を騙した女性の子供という水野とは血も繋がらない子供であるが、水野は実の姪の様に大事に思っており、その女性が死亡した時に天涯孤独となった純子を水野が引き受けたのである。


 しかし、水野自身が父親も兄も自衛官と航空関連の従事者ということで簡単には連絡が付かないという、純子と同じぐらいに頼る者がいない状況でもあるのだ。

 そこで佐藤は親友の苦境を知るや水野と一緒に純子を育てることを決意したのだが、彼女達の決意を打ち砕いて純子を奪ったのが楊である。


 自分と結婚しなければ純子は施設に送るだけだと佐藤達に楊は持ちかけ、そのような物言いでは彼女達が怒るか断るかと楊は踏んでいたのだが、楊は彼女達に殺されるどころか楊に恋心を抱いていた過去があるからと喜ばれ、藪蛇を感じた楊が純子を奪って葉子の元に逃げ込んだという情けない顛末だ。


 佐藤達には逃げ出した楊の行動は裏切りでしかなく、今の楊は彼女達には極悪人どころか虫以下の存在でしかない。


 楊は軽く溜息をつくと、佐藤の昇って行った階段を上がり始めた。

 狭い階段を一段ごと足を運ぶたびに、楊は壁が迫ってくるような重さまでも感じ、シャツの首元に左手の人差し指を差し込んでいた。

 そんな彼がようやくたどり着いた階段の突き当り、右手のドアに彼は手をかけて引き開けた。


「わぉ。キャットハウスみたいだ。外見が箱に窓とドアを付けただけの殺風景だったのに、吹き抜けもあって明るいし、これは驚きだ。」


 四角い箱に六つのドアが付いているだけという殺風景な建物の外見からは想像出来なかったと、小奇麗なロフト付きの広く明るい空間を楊は見回していた。

 狭い階段を上って来たからこそ、楊には明るく広く感じ、設計者もそのためにこの部屋を吹き抜けとロフトという解放感に溢れた仕様にしたのだろうと楊は辺りを見回しながら部屋の中に一歩踏み出した。


「いいなぁ、ここ。事故物件で借り手がつかなくなったら俺が借りちゃおうかな。俺の小さな居場所として。」


「かわさんたら。あんなお屋敷の王様になったくせに。」


 楊の相棒が部屋の真ん中、ロフトの真下となるリビングにあたる場所に一人で立っていた。

 楊は相棒に軽く肩を竦めて見せた。

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