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淳平と破局しそう、なの

「あぁ、山口は結局警察を辞めちゃったものね。ちびは最近あいつに会えないんだっけ?可哀想に。」


 僕の恋人、男の子しか好きでない男、山口淳平は僕の母方の実家の白波家が神社を奉じているからと宮司の資格を取った。

 僕の祖父が刑事と神官の二足草鞋は可能だと純粋な山口を唆したからでもあるが、神官となった後は当然ながらそんな事が不可能であると身をもって知ったのだろう。

 完全に僕の祖父に取り込まれている彼は、「家業が大事だから。」と刑事の職を捨てたのである。


 けれどもそれは僕のせいなのかもしれない。

 僕は六月六日に二十二歳となり、当り前だが誕生日の夜には山口が僕を求め、しかし、僕の体がもはや女でしかないとお互いに身に染みただけの一夜となった。


 僕から男の子が印が消えてから、否、それ以前も片手で数える程しか僕達は肉体関係を結んではいなかったが、久しぶりに試みた僕達は行為をすることが出来なかったのである。


 もともと無性に近い僕に性欲は弱かったので、行為の時は山口の気持ちの盛り上がり次第という所もあったが、その日は無性に彼に抱きしめられたいと気持ちが盛り上がった僕とは反対に、彼は僕に性欲を奮い立たせられなかったのだ。


 僕は仕方が無いと受け入れるしか無いと考えた。

 僕達が恋人同士で無くなったとしても、僕達、僕と良純和尚と山口は家族であるという誓いを立てたのだから、家族ではいられる筈なのだ。


 しかし彼は僕達の関係を見直すどころか、僕を愛しているという証を自分の中に取り戻す事に腐心してしまった。


 そんな彼を見逃す毒蛇などいやしない。


 祖父は落ち込む山口に自分の個人的持ち物であった小さな神社とそこに併設する巨大な霊園の経営権をも譲り渡し、君は何があっても自分の子供だと、白波家の一員だと唆して完全に彼を取り込んでしまったのだ。

 僕の読んでいた経済雑誌には、若き神官による新しい神社と霊園の提案と経営と言う題で、神官姿の神々しい山口の写真がこれでもかと載っている。


 彼は背が高くスタイルもよく、そして猫のようなきれいな瞳を持つ王子様のような輝ける容貌を持つ美青年なのである。

 僕の大事な恋人は、祖父が雑誌に売り込んだせいで、今や僕でさえ近づけない雲の人になりかけているのだ。


「本当に迷惑だよな。俺が淳に一から経営を叩き込んで、出納に問題ないか監査もしてやっているんだぜ。」


「お前は会ってんのかよ。酷い父親だな。ちびも連れて行ってやれよ。」


 僕はそこで床に伏してうわっと泣き出すしかなかった。


「僕は会っちゃいけないって、お祖父ちゃんが。」


「お前の恋路を邪魔するって、あのお祖父ちゃんはどうしたの。お前が一番の孫だったでしょう。」


「だって、ひ孫がこのままじゃ抱けないって、怒り心頭だから。」


「それはクミちゃんの責任でしょう。」


 そこで僕は恨みがましく楊を見返した。


「え、どうしたの、ちびったら。その眼つきは。」


 僕が答えるよりも早く、何でも全部知っている父が楊に答えていた。


「お前と葉子が梨々子を甘々に守ってりゃあ、クミの付け入る隙など無いだろうが。電話も何も取り次いでもやらないんだろ。進展も何も無いじゃないか。」


「本人が嫌だって言っているんだもの。あの子はまだ子供で、それなのに不安定な妊婦さんなんだよ。」


 そこで良純和尚が激昂した声をあげたのは、彼も白波周吉にウンザリし始めていたのだから当たり前だろう。

 山口は僕達の家族なのだ。


「あの銭ゲバ爺はね、六月中にクミと梨々子をくっつけなければ、こいつの持ち物の武本物産を乗っ取ると脅して来たんだよ。山口が警察を辞めたのは、あいつがあいつなりに取りなそうと奔走しているからに違いないんだよ。」


「うそう。」


 いつもの驚きの声をあげた楊であったが、しかし彼は僕達に何かする気も無いらしく、そのまま僕達を放って帰って行った。

 そして僕は、山口が僕の前から去ったのはそれだけでは無いと胸の奥がずきりと痛んだ。

 彼が自分を奮い立たせられなかったのは、僕の余計な一言によるものなのである。

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