僕が発情するはず無いのです!
ところが僕が楊を傷つける前に、楊の愚痴が可愛いと思う程浜田への愚痴がすさまじい男が、僕達のいるリビングに戻ってきたのである。
「うるせえよ。楊、暇なんだったらこっちの手伝いをしろよ。そこのモルモット馬鹿娘はぜんぜん使い物にならなくなったからな。」
「娘じゃないです!」
僕はいつものように父に言い返していた。
彼は言い返した僕に僧侶にあるまじき眉を軽く上げるという小馬鹿にした表情を見せ、僕はその表情にむかっ腹が立ちながらも見惚れてしまっていた。
百目鬼良純は僕の父であるには年若く、それだけでなく神々を模した彫刻のように完璧な姿形をしているのである。
奥二重の瞳は切れ長で、頬骨も鼻も高いという貴族的な顔立ちは、百貨店経営の一族の端くれとして、ただただ最高級品だとうっとりとさせるものなのだ。
「使い物にならなくなったって、ちびはどうしたっていうの?」
僕の隣の楊が僕をぐいっと彼の胸元に引き込むと、少々心配しているような表情で覗き込んできた。
「あう。」
楊も見栄えが良い男であるのだ。
良純和尚のように百八十を超す彫刻のような美男子ではなく、細身の標準身長でしかないのだが、身長の割には手足が長く、印象的な二重が魅力的な童顔の顔は、微笑んだ途端にとても甘いものになる。
そんな楊の笑顔に騙されたと嘆く女性は多く、楊の笑顔に騙されて彼に恋した女性達は、失恋しても諦めるどころかストーカーに変化してまで彼を想い続けるのだ。
今は心配した顔つきだが、僕が大丈夫だと言えば「良かった。」と僕に見せるであろう彼の安堵の笑顔を想像して、僕はそれだけでどこかがきゅんとなってしまった。
「あう。」
「あれ、本当におかしい。どうしたの。ちびったら。」
「ほっとけ。ただの発情期だ。」
僕は居心地の良い楊の腕を押しのけると、すくっと立ち上がった。
いくら恩義のある男だとしても、このような暴言には抗議をしなければいけない。
僕が発情などするはずはないのだ。
「違います!性別など無い僕に、そんなものがあるはずが無いでしょう!」
僕はXXYであったからか、生まれた時は下腹部に男性器らしきものをぶら下げていた。
そこで、その時には男子として届けられて自分が男の子だと思いながら成長してきたのであるが、余分なⅩのせいで今の僕の体は殆ど女性体に近い。
飯綱使いの武本家が様々な呪いを受けている事が原因だ。
当主である僕は武本家に降りかかる呪いによって何度も死にかけ、そして死にかけた僕が復活する度に僕の余計なXは暴走し、遂にはぶら下っていた男性器らしきものまで消えてしまったという悲しい話なのである。
「今は戸籍上も女、だろ。」
自分の苛つきを八つ当たりしようというのか、良純和尚は僕を小馬鹿にするように言い放ったが、これにも僕は声を大にして訂正しなければならないだろう。
「違います!戸籍なんか関係ありません。僕は男の棒が消えても女の穴は開いていませんから、女なんかじゃありません!」
「やめて!ちび!物言いが下品すぎる!」
「だって女じゃ無いもの!」
子供の様に地団太を踏んでしまったが、これは母方の祖父のせいだ。
女神を奉じているからか男よりも女という一族の頭目である祖父は、僕の変化を厭うどころか大喜びし、下半身の男性器らしきものが消えるや否や、狂喜乱舞して使えるコネを使いまくって僕の公的書類を全て女性性に書き換えてしまったのである。
あの、毒蛇め。
僕の母方の従兄達がどうして誰も彼もろくでなしなのか不思議であったが、白波家がろくでなしの一族であっただけの話であるのだ。
「でもさぁ、どうして今日の百目鬼はそんなにもちびに辛く当たるの?」
僕は楊の優しさに楊に取りすがろうとしたが、楊との付き合いの長い良純和尚の方が行動が早かった。
いや、付き合いなど関係ないか。
彼が投げやりに「見りゃわかるだろ。」と言った通り、僕は仕事着を着てはいたが、仕事もしないで恋人が載った雑誌をひたすら読み耽っていただけなのである。