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うざ~い

「で、どう思う?俺は変態?変態だったの?」


「非番だったら家で赤ん坊の面倒を見たら?」


「俺がいると好きな時に昼寝が出来ないと、俺は昼には葉子に追い出されるの。」


「ありゃ。」


「女房はね、ミーちゃんに洗脳されて操られているんだよ。あいつは、あの性悪猫はね、俺の純子と葉子を手下にして、奴が寝たい時に葉子と純子を自分の布団にしているんだ。俺だって枕になってやるっていうのに!」


 僕は仕事先で愚痴を聞く羽目になった状況に首を傾げるしかなかった。

 様々な障害から僕を守るために僕を養子にした百目鬼とどめき良純りょうじゅん和尚は不動産業も営んでおり、今も僕と良純和尚は手に入れたばかりの物件の手入れをしている最中だった。


 厳密にいうと、彼だけ、だが。


 僕は傷心で楊の愚痴に付き合えるような気力もなく、良純和尚はそれほど手を入れる必要のない物件をスケルトンにしてしまうぐらいの勢いで猛っているからだ。


 それは、この現場が良純和尚が好きで手に入れたものでは無く、純粋に海千山千の同業者に押し付けられたからである。


 ここで一言付け加えさせてもらうが、良純和尚が人が良い間抜けな誰もが思い浮かべる僧侶だからこのような境遇に陥っているのではない。

 彼は間抜けなどと言った者を確実に地獄に落とす鬼のような男であり、最近では彼の宗派の仕事はもとより、ひょんなことから大富豪の仲間入りをした楊の財産管理や、武本物産を率いる僕の実家である武本家の財産管理まで手掛けているという、有能というよりも見境が無いと言った方が正しいくらいなのだ。


 しかし、どんなに有能であろうと、人間である限り体力と時間の限界はある。

 よって、このところは忙しいからと彼は新たな物件には手を出さなかった。


 そんな良純和尚が、今こうして新たな物件を破壊する勢いでリフォームしているのは、先に言った通りに彼がこの物件を押し付けられたからであるが、押し付けられることを彼が許したのは、彼がモルモットに負けたからである。


 正しく言えばモルモット妖怪に負けたのである。


 勝ち星ばかりの彼に燦然と輝く黒星をつけたのは、大手不動産を営んでいる浜田はまだ善行ぜんこうだ。

 僕には僕の大事なアンズちゃんを授けてくれたという温厚で上品な初老の男性でしかないのだが、良純和尚には強面で悪辣な史上最大の難敵であるらしい。


 細身の体に和装の、昔の文豪のような風情の老人に、僕は一度だって悪辣さの一片も感じたことが無いのだが、彼に負け続けだという良純和尚には僕と違う風な外見に見えるのかもしれない。

 あるいは、僕は人が見えるものが見えず、人の見えないものが見えるという体質であるので、浜田が本当は強面なのかもしれないが。


 何しろ、一匹のモルモットの里親になるか、浜田の物件を買うかの二者択一で、良純和尚に後者のマンションを買う方を選ばせたのである。

 その子は僕のアンズと同じく浜田が里子に出した一匹なのだが、飼い主が突然死をしたために出戻って来たという真っ白で可愛い子であった。


 ただ真っ白いだけではない。


 あの子は浜田の可愛がる千夏ちゃんと同じく「テディ」という種であり、縮れた毛がモコモコとして、動く小さなぬいぐるみのような可愛らしい子だったのだ。


 まぁ、僕の可愛いアンズちゃんには敵わないだろうが。

 僕のアンズちゃんは、ビロードのような手触りの無毛の体に鼻先にだけ杏色の毛があるという、とっても希少な種類であるスキニーギニアピッグであるのだ。

 あの、ピンク色の子豚のような彼女がぽてぽてと歩き回る姿は、可愛いだけでは表現できない可愛らしさに満ち満ち溢れているのである。


「あぁ、一人でお留守番のアンズちゃんは寂しくしていないだろうか。」


「ウンコを製造しているだけだから大丈夫だよ。ねぇ、聞いているの?」


 両手を僕の両肩にかけてゆさゆさと揺らし始めた楊は煩わしく、僕も梨々子をマネして「うざーい。」と口ぱくしてやろうかと考えた。

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