あれはあたしのものだった
「ちくしょう!」
ロフトの床に跪いている女は、床を大きく両手で叩いていた。
何度も、何度も。
女のロフトの奥には彼女の大事なものが隠されていた筈なのに消えており、それが無ければ彼女はこの世界に君臨出来無いのである。
「ちくしょう!あいつだ!あのくそ女だ!」
女は立ち上がるやロフトの階段を一気に駆け下りた。
そして何気なくロフトの階段を振り返ると、そこには大きな水のような壁がそそり立ち、なんと女の真後ろでぼこぼこと波打っていたのである。
「あ、ぎゃああ。」
彼女はとにかく玄関目指して駆け出していた。
盗まれた大事な物さえ取り戻せれば、彼女は再び勝利を手にできる。
あれさえあれば何でも手に入り、そして、彼女が最近耽溺している甘いシロップだっていくらでも買えるのだ。
「あぁ、早くあれを飲みたい。そのためにはあの糞女を殺さねば。」
女は靴箱の下に手を入れた。そして引き出された手が握っていたそれは、底の方に有刺鉄線が巻かれた木製のボーリングのピンであった。
幾重にも巻かれたそのワイヤーの棘は赤錆色に染まっており、それは錆びた鉄の色合いだけでなく、それによって怪我をさせられた者がいた事実を物語っている。
「はは。これで、あいつを殺ってやる。あれはあたしの物だ。」