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ツンデレ作家と奴隷ちゃん  作者: 鳴神 春
1/3

はじめましてご主人様!

1


(ん、う、うーん、、、?、、あ、もう朝か、、、)


二日酔いの頭痛に耐えながら同人作家、空我晴人くが はるとが目を覚ます。


昨晩は高校の友人と久々に再開し、つい飲み過ぎてしまった。


もちろん飲んでからの記憶はほとんどない。


もっと言えば自分がどうやって自分のアパートに戻ってきたかも定かではない。


時計は午前9時をさしていた。


まだ寝ていたいが今日は夏のイベントに出す同人誌をサークルメンバーと話し合う予定だった。


(はぁ、嫌だけど起きるか。嫌だけど。)


晴人は嫌々起き上がる。


すると晴人の右手に柔らかい感触があった。


(ん?なんだこれ)


ベッドではない、されどこの上ない柔らかさ。


右手があるに視線を向けるとそこには幸せそうな寝息をたてている女の子がおり、晴人の右手はその子の胸を鷲掴みにしていた。


「っっっーーー!?!?」


突然の出来事に晴人の思考は耐えられずパニックを起こしてしまう。


(ええぇぇぇ!誰ぇぇぇ!こんな可愛い子俺の知り合いにいないぞ!!ていうか俺、こんな可愛い子の、む、胸を!つ、つつつかんでるぅぅぅ!ああぁだめだだめだ、もうだめだ、刺される殺される訴えられる!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!)


晴人は脳内でひたすら謝った。


21年の人生の中でこれほどパニックになったことはなかった。


過去に彼女はおろか、そういった経験をしてこなかった晴人にとってこの状況は思考回路をショートさせるのに十分だった。


晴人が足を震わせ口をパクパクさせていると胸を掴まれていた少女が目を覚ました。


「ん、、、あ、おはようございます。」


こんな状態でも少女はきっちりと挨拶する。


そしてこの状況で晴人がすることは一つだった。


「す、」


「す?」


少女が小首を傾げる。


すると晴人は飛び上がり、


「す、すいませんでしたぁぁぁぁ!!!!」


それはもう綺麗な土下座を繰り広げたのであった。


2


晴人が土下座を敢行してから10分後、晴人は先程の少女と机を挟み、向かい合わせで座っていた。


晴人が改めて少女を見ると少女は小首を傾げニコッと笑った。


肩につくかつかないくらいの銀髪に整った顔。


落ち着きのある雰囲気を感じるのは大きな青い瞳のせいかもしれない。


誰が見ても可愛いと答えるだろう。


晴人は思わず見惚れてしまったが気を取り直し疑問を問いかける。


「えーっと、まず君は誰かな?」


「私はソフィーと申します!ご主人様!」


「・・・。」


聞きたかったことと聞きたくなかったことが同時に聞こえた。


「あー、えっと、ご主人様って?」


「昨日のこと、覚えてらっしゃらないんですか⁉︎」


ソフィーと名乗った少女はショックを受けた表情になった。


「ごめん、昨日はほんとに酔っ払っててほとんど覚えてないんだ。」


「そう、、ですか、、、」


「ほんとごめん。昨日何があったのかな?」


晴人がそう言うとソフィーはにっこり笑って答えた。


「昨日私が行き場を無くしていたところをご主人に声をかけていただいたのですっ!

そしてそのままこのおうちに連れてきていただいて・・・」


「うわぁーーーー!!!!」


「どうしたのですかご主人様⁉︎どこか悪いのですか⁉︎」


ソフィーが心配して晴人に声をかけるが晴人はソフィーの心配などお構い無しに自分の行いに思わず顔を両手で覆い叫んだ。


(何やってんだ昨日の俺!それっていわゆるナンパじゃねーか!)


側からみれば少女に酔っ払いが声をかけて家に連れ込んでいる、ということになる。


有無を言わさず立派な犯罪である。


「うぅ、ほんとにごめんよ。早くお家に帰りな。てか帰った方がいいよ。」


そう晴人が言うとソフィーは、


「いえ、帰る家が無いのです。」


ときっぱり言った。


「ん?それってどういう・・・・・」


晴人がそう言いかけた時、ふと彼女の服に目がいった。


彼女の服は所々痛んでおり、破けてるところをつぎはぎで縫ってるのが見受けられた。


靴下も履いておらず、体の擦り傷も一つや二つではなかった。


「君、何者なんだ?」


晴人は思わず聞いた。


するとソフィーは少し悲しそうに話し始める。


「私は、、、以前の世界では奴隷でした。」


晴人は思わず息を飲む。


「私は別の世界で魔法の実験台として買われました。その実験でかけられた魔法でこの世界に飛ばされて来たのです。だからこの世界にもあっちの世界にもいずれも帰るところが無いのです。

だから!ご主人様と一緒に居させてください!」


ソフィーにそう言われ、晴人はこの上なく悩んだ。


収入が安定せず、一人でもギリギリの生活をしているのにこの子をここで住まわせてもいいのだろうかという不安要素が決断の邪魔をした。


だが何より彼女をなんとかしてあげたいという気持ちが晴人の中で一番強くあった。


こんな状態で自分にすがりついて来た彼女を見捨てることなんてとてもじゃないができなかった。


どうしたもんかと悩んでいると「ピンポーン」と部屋のチャイムが鳴った。


誰が来たかは晴人にはすぐわかった。


「まずい!達也だ!」


小学校からの友人である逢田達也あいだ たつやは同じサークルで活動しており、同人誌の話し合いはいつも晴人の部屋で達也と二人で行うのが恒例なのである。


「ソフィー!早く隠れて・・・」


その時、晴人は思い出した。


達也も合鍵を持っていることを。


晴人がそれに気づいた時にはもう扉の鍵がガチャリと音を立て開けられていた。


開いた扉から達也が顔を覗かせる。


「うぃーす晴人。打ち合わせにきたぞー・・・・」


そこには晴人と見知らぬ女の子が。


達也は打ち合わせ用のお菓子が入ったコンビニ袋を傾げたまま無表情で固まった。


だが達也はすぐに持ち直し、携帯を取り出しニコッと笑って言った。


「とりあえず110番だよな?」


「待ってくれぇぇぇぇ!!!」


こんなに朝から叫んだのは晴人の人生で初めてだった。


3


達也に成り行きを説明し、晴人の誘拐事件の誤解を解いた後、他のメンバーに今回の打ち合わせの中止を伝えた。


達也はこういう時でも頭が回る。


落ち着きがあり、昔から女子にモテた。


羨まし過ぎると晴人は常日頃思っている。


「で?これからどうすんだよ。」


机の上に置かれたお茶を一口飲み達也が話し始める。


「どうするって同人誌?それともソフィーのことか?」


「バカ、同人誌なんて後でどうにでもなる。どう考えてもこの子の解決が先だろ。」


たしかにそうだ。


晴人は押し黙ってしまった。


「えっと、ソフィーちゃんだっけ?元の世界に帰る方法とかわからないかな?」


「わかりません。そもそもこちらでは魔法というものは非日常的なものみたいですし、私も魔法は使えませんので難しいかと・・・」


「なるほど・・・じゃあこのままだと行くところがなくて行き倒れってわけだ」


「そうなりますね・・・」


「そっかぁ・・・どうする?晴人」


達也が龍弥に意地悪そうに微笑む。


「どうすると言われてもなぁ・・・」


若干Sっ気を見せた達也にいじめられたソフィーをさらに追い込むほど晴人の心は強くない。


晴人の目は達也からソフィーに行く。


ソフィーは少しばかり目に涙を浮かべながらも力強く晴人を見つめている。


その目に晴人はついに覚悟を決めた。


「はぁ・・・しょうがない。ここで暮らすのは許そう。けど居候なんだから文句は言わせないからな。」


晴人が頭をかきそっぽを向いて答える。


これが晴人なりの精一杯の言葉だった。


達也がニヤッと笑い納得したように膝を2、3回手で叩く。


その瞬間、ソフィーが涙を流しながら晴人に飛びついた。


「ありがとうございますご主人様!!!私!精一杯お役に立ちます!!!」


いきなり押し付けられた柔らかさと息苦しさに晴人は恥ずかしさに耐えられずソフィーを引き剥がそうとする。


「お、おい!離れろ!別にお前のためなんかじゃないんだからな!か、勘違いすんなよ!!!」


「この状況でよくツンデレるなお前。

ほんと、昔から素直じゃないよな。」


達也のツッコミはもっともだった。


(こいつ、俺が決断できないのをわかってけしかけたな・・・)


晴人は泣きながら抱きついているソフィーをよそに達也には敵わないなと目を閉じた。


(まあ、とりあえずあれだ、今年の夏は頑張らなきゃだな。)


桜の花びらが舞い散り春の終わりを告げる今日この頃。


同人作家と可愛い奴隷の少し遅めの新生活がこうしてスタートしたのだった。

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