色んな意味で幼馴染に恐怖す
アニメが見たい、アニメが見たい、アニメが見たい、アニメが見たい、アニメが見たい、アニメが見たい、アニメが見たい、アニメが見たい
一騎は脳内で呪いのようにそうはきちらす。
人はアニメが見たくなりすぎると、麻薬の依存症状みたいなものが出る。アニメ依存症である。
そんなアニメ依存症の中毒者である一騎が4年も異世界に行っている間、我慢していたのである。途中で気が狂ってもおかしくないレベルだ。
異世界でも度々禁断症状を発症していたが、そんなときは、勇者の圧倒的な身体能力にモノをいわせ、自分の好きなアニメの主人公の技を再現して気を紛らわせていたのである。
他にもストレス解消として、魔物の群れに魔法を撃ってドカン、剣を使ってシュパ、罠を作ってダッ、ストーン、グサッ、ドチュッ、なんかもやったりした。
それ故、アニメが見れる元の世界に帰って来た現在、おあずけを食らっている、この状態が堪えているのである。
「朝になったらアニメが見れる、朝になったらアニメが見れる、朝になったらアニメが見れる、朝になったらアニメが見れる、朝になったらアニメが見れる、朝になったらアニメが見れる、朝になったらアニメが見れる」
これを元の世界に帰還し、一悶着あった深夜2時からずっと言っているのだ。
現在の時刻は5時45分。佐切家は徹夜が多い一騎以外はみんな6時に起きるので、朝まであと15分である。
みんなが寝ている間に、リビングでアニメなんぞ見ていたら、また、母さんに目が全く笑っていない、微笑の表情で怒られるので、起きてくるまで待つ。
「はあー、まさか元の世界に帰還したっていうのに、こんなおあずけを食らうなんてな」
母の怖さを思い出し少し冷静になった、一騎はそうぼやいた。
そんなこんなで、授業なんかでも苦しい、なぜかすごく長く感じる、「魔の15分間」を乗り切り、みんなが起きてきたタイミングでリビングへダッシュで直行した。
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みんなに、おはよう、と朝の挨拶をし、父____洋介が寝ぼけながら椅子に座り、澄子が朝食の用意をし始め、妹____花がソファで二度寝をしているところを、スライディングでTVの前に滑り込む。
「アニメ、アニメ、アニメを見るぞい!」
リズミカルに口ずさみながら、リモコンを手に取る。
女神からは元の世界に帰還しても時間は進んでいないことを聞いていたので、日付を見ても驚かなかったが、録画していたアニメを見て懐かしさを覚える。
「もう4年前にみてたんだもんな。懐かしーな」
アニメの録画リストを見て、感慨にふけりながらも、このクールで一番面白っかったアニメを見始める。
「さあ、レッツ、ショウタイム!」
無駄にかっこよくポーズを決め、アニメの世界へ入り浸っていった。
2話ほど見終わったところで、澄子から声がかかる。
「一騎、あんたも着替えなさいよ。今日文化祭でしょ、母さんたちも行くから」
「ああ、あったねそんなんも。うん、休むから」
4年前のことなので全然頭から抜け落ちていたが、本日は文化祭らしい。
だが、そんなこと一騎には関係ない。4年もアニメ見たいのを我慢していたのだから、このまま1日中見ていないと、禁断症状が発症してしまう。それ以前にどうせ行っても楽しくない文化祭より、アニメを見ていた方が有意義だと一騎は感じていた。
「だめに決まってんでしょ。由香ちゃんにあんたを連れてくるように頼まれてんのよ。それに久々に陣君にも会いたいし」
由香とは一騎の5歳のころからの幼馴染でありお隣さんだ。何かにつけ一騎の世話を焼こうとしてくる。容姿端麗、文武両道と完璧超人。
陣も由香と同じ幼馴染で、これまた頭脳明晰、運動神経抜群、それにイケメンときたリア充だ。
由香の家と一騎の家と陣の家は家族ぐるみで仲が良く、由香と澄子の仲は特に良い。
「また、由香がなんか言ったのか。.....わかった、行くよ」
「それでよし。じゃあ由香ちゃんには行くって伝えとくから、あんたも早く着替えてご飯食べちゃいなさい」
ここで断ると、由香から強引に脅迫、拉致の即死コンボを食らうので渋々了承する。
(もう、スタンガンは食らいたくありません!)
過去のトラウマを思い出しながら、言われた通り、着替えるため、自分の部屋に向かうのであった。
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着替えを終えリビングに再び戻るとソファで寝ぼけていた花が椅子に座って、朝食をとっていた。
「あ、おはよう、お兄ちゃん。いい朝だね」
「ああ、おはよう、花」
なぜか最後に爽やかな台詞をはさみながら挨拶してくる花に対し慣れた様子で返す一騎。
一騎の家系は美形で、花も目鼻立ちが整っていて大変な美人さんである。幼馴染も家族も綺麗な人が多いので一騎はひそかに劣等感を持っている。
朝からちょっと複雑な心境になりながらも、これ以上葛藤していると学校に遅れてしまうので、朝食をとり始める。
「そういえば、花も文化祭来るのか?」
「うん、行くよ。由香ちゃんからチケットもらってるから」
チケットとは文化祭に参加するためのものだ。一騎の高校は文化祭が3日あるのだが、1日目は生徒とその知り合いだけで行われ、2日目以降は全開放でチケット関係なしで参加できる。
「そうか、じゃあ気を付けてくるんだぞ。変な人について行っちゃだめだからな。車にも気を付けるんだぞ。」
「うん、わかったー」
中学2年生の妹に小学生にするような心配をしながら一騎は食べ終わった朝食の皿を下げ家を出る。
いつも通り家を出る時に鍵を閉め、靴をちゃんと履き直してから、テンション低く学校へ向かおうとする。
「おーい、いっ君!おっはよー」
横から声がすると思ったら由香だった。4年前と何一つ変わっていなかった。
「ああ、おはよう、由香」
「うん。そういえば、いっ君。よく文化祭来る気になったね。面倒くさがって来ないと思ってたよ」
「そりゃあな、俺、スタンガン片手に襲ってくる幼馴染見たくないもん」
その目には確かな恐怖を浮かばせながら、過去のことを持ち出す。
「襲うだなんて失礼だなー。ああでもしないといっ君、ずっとアニメ見てるじゃん」
「そんなことありませんー。ちゃんと飯だって食うし、風呂だって入りますー」
「はいはい。屁理屈はいいからもう行くよ。遅刻しちゃう」
由香は子どもっぽい謎理論を振りかざす一騎をスルーして、一騎の肘をホールドしながら学校へ向かっていく。
そのまましばらく歩き続けると、あることに気づく。
「わかった。わかったから、もう離れろよ」
肘をガッツリ組んだ状態なので、傍から見たらいちゃついているようにしか見えない。そして登校中ということもあって一騎たちと同じ学校の生徒が増えるわけで、由香は有名人で男人気もすごくあるので、つまり、一騎に対する憎悪の視線が痛いのである。
そんな一騎の抗議に対して由香はというと、
「そう言って、逃げる気でしょ。そうはいかないんだから!」
そう言って、一段と密着度を上げてくる。由香のもうかなり大きくなった胸を押し付けられ、ついでに一騎に対する視線に殺意がこもりだしたところで、しばらく我慢していると、学校が見えてきた。
もうすぐ学校だー、と一騎が思ったところで、
「あ、陣君だ。おーい、陣くーん」
由香が前方に登校中の、一騎のもう一人の幼馴染を見つけて、大声で呼び始める。
「由香、おはよう。今日も綺麗だね」
「おはよう、陣君」
俺の知り合い、挨拶にかっこいいこと言うやつ多くね、と一騎が考えていると、陣が一騎の方をちらっと見てきた。
「なんだ一騎もいたのか」
「ああ、おはよう、陣」
見てわかるレベルで、態度を変え一騎に一瞥をくれてきた。まあいつものことだ、と一騎は受け流す。
一騎はいわゆるオタクで、オタクとは世間一般忌避されるものだ。一騎も例外にはもれず、小学校のころから、嫌がらせを受けていた。それはオタクだから、というだけじゃなく、由香のような学校一可愛い美少女が甲斐甲斐しく世話を焼くからでもあった。それは、陣も例外ではなく、今となっては陣が嫌がらせをする中心となっている。
(はあ、胃が痛い。昔は陣とも仲良かったんだけどな)
つまり、みんな由香や陣が好きで、陣は表面上は仲がいいふりをするので、人気者二人にくっつく邪魔者扱いされているのである。
「さあ、学校いこっか!」
一騎の思考を知らない由香がのんきにそう言った。
はあ、憂鬱だな、と一騎は落ち込みながら学校へ向かうのだった。