青龍の誓い#1
"これは不思議な力を持った刀鍛冶師と剣士のお話"
『はぁ……はぁ……』
眼前に広がるのは所々が焼け落ちた家だった場所、
赤子を抱えたまま共に刀を突き刺さされた親子。
暗い暗い闇に広がる景色はそう少女に絶望を映し出す。
割れたガラスが満月を反射させて見せるのは竜人へと姿を変えた化け物。
『ゆる……さない……』
一人生き残った少女はその向こうを見つめて叫ぶ。
少女の左目は潰れ右目は何故かよく見えず
結果的に声のする方を見つめていた。
声のする方に"ソイツ"はいる。
左目が潰れる前に見たあの怪物のことだ。
ソイツは少女の家族や仲間、愛する者を殺した。
無差別に蹂躙し女男、老若男女問わず血を上げさせた。
なのに―――私だけが取り残された。
刃を持つ手は軽くその方に向かって走り出して殺意を向ける。
だがそのとき左の見えない方で
何かが衝突した音を上げ私はそのまま倒れる。
―――見えない何かがそこにはいる。だが私はソイツに何もできない。
瞬間敗北を悟り己の貞操だけは、と
持っていた刀を捨て短刀に持ち替える。
そして胸に突き刺し服が血で滲むのを確認しながら少女は笑う。
何もできない、だがソイツに敗北して従順になるのが嫌だった。
してやったという気持ちが込み上げるも少女はいきなり意識の奥深くから
真下に引っ張られる感覚を覚える。
まるで今までのことを忘れるかのように、いや忘れたいかのように。
感覚を覚えたが最後、少女は深い眠りについた。
・
「おっちゃん、この団子みたらし無いの?」
「あるけど……お金はあるのかい?」
「私そんな一文無しに見える?まぁ良いや。
じゃあみたらし団子10串……いや20串頂戴。」
青色に毛先が白髪の毛を揺らしながら少女は呟く。
名は"アオナ"、目は澄んだ綺麗な水色で背は小さい。
それもそのはず彼女は12才だった。
だがその姿かたちに覚えのあるものは決して近づこうとしない。
団子屋の主人が持ってきたみたらし団子20串とを、
お金を引き換えに貰う少女は
傍に置いた4本の刀を腰につけ備えると椅子から立ち上がる。
「君みたいな子が剣士だと思うとおじさんすごい心配だよ。
行く宛はあるのかい?」
「いんや?旅人だしさーまだまだこんなところで旅は終われないよ。
心配ありがとね、おっちゃん。団子旨かったよ。」
串の棒を1本口に加えてニヒヒと笑う。
左目が髪に隠れたままだが団子屋の主人が困りながらも少女を見送った。
アオナは良い買い物をしたと喜びながら前を歩く。
彼女、アオナの格好は巫女のような柄の制服だった。
だからと言って学校の生徒でもない。
ただの衣装であるが故彼女は何も思わない。
だがそうしていればある程度融通が利くというだけのことだった。
そのまま歩きながら彼女は次のみたらし団子を手から口に入れようとして
前の男三人組に当たる。
みたらし団子はその衝突で前の男一人の服に当たってしまう。
あっ……という声も上げず何やら弁償だとかいう男三人組らが
どうやら予想通りのワザとな連中でアオナは頭を悩ませる。
「おい、どこ見てんだあんちゃん」
「……」
「ん?こいつ女だぜ??」
「ならこのツケは身体で支払ってもらわないとなぁ……」
今更な話だがこの世界は複数の国々が地続きで合わさって構成されている。
複数の言語が多用して使われる中一つの言語は
英語に引き続いてどうやら主流である。
まぁこれが見えているのであればわざわざ言うこともないのだろうが。
そして何よりこの世界には今まで無かったものが存在している。
極僅かな者のみが発現する異能力、―――"スキル"だ。
ある意味そのおかげで今まで国々同士で戦争が起こらず、
その歴史も無かったのだろうが生物の一般本能として
戦闘という一種の行いは存在している。
いわゆる、喧嘩というやつだ。
「私、そういうの受け付けてないから帰るね。」
「は―――ちょってんめぇ……!!!」
スルーした私に案の定敵意丸出しで
攻撃する三人組の一人の男の動きを読んで
躱し足で転ばすとそれを見たもう一人が向かい刃物を取り出す。
「ははっ―――刃物取り出したってことは
そういう合図ってことで良いよね?」
アオナは刃物を取り出した男の刃を受け流すように躱し
そして持ち出された刃物の刀身を自身の刀で
粉砕した上で顔ぎりぎりを目掛けて
倒れたところを突き刺す。男が小便を垂らしながら気絶するのを見ると
アオナはもう一人を見つめる。
「あんたも"やる"の?」
「いいや、遠慮しておく。こっちが悪かった。」
男はキョトンとするアオナを見ながら降参の弁を漏らした。
だがその刹那転び倒れた男は自分に背を見せるのを良いことに
少女を後ろから羽交い締めにしようと襲い掛かる。
ふっと降参の弁を漏らした男は笑い、
アオナはそれを見ながら後ろの男に対して
目にも止まらない速さで左手で刀を抜き取り、
その者を右に少し避けてその上で右耳を刀で削ぎ落した。
「あぁぁああああ俺の俺のぉぉおおお耳がぁあああああ」
「女を羽交い締めにしようとした罰よ。
さて……と。あんたにはさっき言ったよね?
"やる"の?って。今の攻撃は了承ってことで良いのかな?」
アオナは男に憐みの目を向けながら、
人が集まりつつある街道のど真ん中でそう男に告げる。
前述にも言った通りこの世界は平和という"狂気"に満ちている。
戦争なんて大きな戦闘は起こらない。
でもこういう小さい戦闘は起こってしまう。
みんなむしゃくしゃしたら誰かにぶつけたがる生き物だから。
でもね?それは一部だけじゃないの。
―――みんなそう思ってるの。
戦争は狂ってる。
でも喧嘩は狂ってない。
人を殺すこと自体は認可されてしまう悪なのだけれど
でもそれが喧嘩のためなら見過ごされてしまう。
様々な種族が混在する世界でそれが起こらないなんて不思議はない。
「殺しちゃったら謝るわ、でもそっちが先にやってきたから
お互いさまってことで良いよね?」
「まっ……」
そのときだった。
アオナはそのとき待てと呟こうとした
男の首元を斬りつけようとした。
だがそれは実らず代わりに首を斬る直前、
首筋を刀で触れたその一瞬で刀は停止する。
「……それだと私がヒトゴロシになるのね……そう。」
アオナが何を考えたのか周囲の者らは分からない。
だがそれに命を救われたのは他でもない対峙する男本人だった。男は少女の気紛れで助けられたこと、
だが突き立てられた刀が呟くのは本当に殺す気であったこと……
事実が無数ある上に男は気恥ずかしくなり、
また逆上するかと考えられたがその先を見て震える。
「……」
少女はただ紅く燃えるような緋の目で
ただ男を普遍する石を見るかのように、蔑み睨んでいた。
男から見ればそれが睨みに見えたかもしれない。
だが少女、アオナ自身の話では実際は睨んだのではなく
ただ呆然として虚空を見つめていた。
紅く目が燃えていることについてアオナ自身気付いている様子はなかった。
「……あ。そうだ。おい」
「……え…?」
「てめぇのことだよ。殺されたいか?あァ?」
いつの間にか燃えるような緋の目は収まりそれでも
赤色の目は男を睨んでいた。
そして刀を突き立てる。
「ひっ……!」
「質問がある。この近辺に
“なんでも作れる鍛冶屋”があると聞いたんだけど
何か知ってるかな?お兄さん??」